宇宙を漂うライアン・ゴズリング。実際の撮影ではワイヤーで身体を支えていますが、そのワイヤーを消すだけでは、無重力に見えなかったそうです。 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)の撮影の工夫を、Variety Indiaの制作取材とメイキング映像からご紹介します。[1]

本物の無重力で撮る案もあった

VFXスーパーバイザーのポール・ランバートは、飛行機の放物線飛行で短時間の無重力を作る撮影を、製作側に提案したと話しています。しかし、複雑な宇宙船のセットを機内に再現するのは難しく、採用されませんでした。[1]

(ちなみに『アポロ13』(1995)ではこの案が採用され、機内にセットを作り、自由落下する無重力状態で撮影されました。トリビアページはこちら。)[4]

そこで使ったのが、身体を回転させられるハーネス(身体を固定する装具)などのワイヤー装置。ゴズリング自身も、難しい船外活動の撮影に取り組んだそうです。[1]

撮影装置で浮く様子を、メイキングで見る

まずは、下の映像をご覧ください。『怪しい伝説』で知られるアダム・サヴェッジが、船外活動の撮影装置を体験しています。Amazon MGM Studiosの招待で行われた、撮影現場の取材映像です。[2]

投稿元:Adam Savage’s Tested。宇宙船の外側のセットと、身体を支える撮影装置を紹介。4分台から装着、8分台には浮いて移動する様子が見られます。YouTubeで見る

身体を固定する部分に回転の仕掛けがあり、スタッフがワイヤーを操作して移動を助けています。船体につかまりながら身体の向きを変える動きも、実物のセットの上で撮影しているわけですね。[2]

ワイヤーを消したあと、手足の位置まで直す

ただ、撮影した映像には、身体が「浮いている」というより「ぶら下がっている」ように見える部分が残りました。ランバートによると、VFXチームは必要に応じて脚や腕、胴体の位置を調整。周囲に漂う物も加え、無重力らしい見え方を作ったそうです。[1]

ワイヤーを消すだけでなく、吊られた身体の姿勢まで直していたわけです。 実際の演技を土台に、そこまで手を入れていたのが面白いところです。

VFX編集を担当したウォーレン・ヒックマンは、Evercastの取材で、船外活動に使った宇宙船の実物セットも、多くがCGに置き換えられたと説明しています。現場に実物があっても、それがそのまま完成画面に残るとは限らないんですね。[5]

実際の本編の浮遊シーンはこちら

投稿元:IMAX。本編映像を交えながら、フィル・ロードとクリストファー・ミラー監督が船外シーンを解説しています。YouTubeで見る

宇宙服とヘルメットのガラスもCGで補う

同じ取材でヒックマンは、宇宙服もCGで補ったと話しています。スーツを着たままでは動きづらく、セット内も暑い。そこで、撮影時に外した宇宙服を、後からCGで加えた場面があったそうです。[5]

ヘルメットが映るカットのほぼすべてで、ガラス部分はCG。 初期には実物のガラスを使った場面もありましたが、暑さや不快感があり、録音にも都合が悪かったといいます。身体を浮かせる装置だけでなく、俳優の動きや録音を妨げないためにも、VFXで補っていたわけです。[5]

ピンク色の光は、実写の見え方にVFXを合わせる

上のIMAX動画に出てくる、ピンクの光が舞う場面。顔の接写では、ゴズリングの周囲に赤外線LEDを並べ、赤外線も写せるよう改造したカメラで撮影しています。レンズとの間には2枚のガラス板を置き、その隙間に水を流して、光のゆがみを作ったそうです。[6]

投稿元:クリストファー・ミラー監督。ガラスの間に水を流しながら撮影する、約15秒の現場動画です。Xで見る

ILMのVFXスーパーバイザー、トリスタン・マイルズによると、接写では合成ソフトNukeで光の粒を追加し、実写の色やにじみ、屈折の見え方に合わせて調整しました。顔の接写から引きの映像へ切り替わっても、同じ光の中にいるように見せるための作業です。[6]

CGの宇宙でも、撮影監督がカメラと光を決める

周囲の宇宙を作る仕事も大がかりです。ILMによると、ESA(欧州宇宙機関)の観測データから10億個以上の星を構築。ヘイル・メアリー号や、相手の宇宙船、惑星などのCGも担当しています。[8]

Framestoreの公開映像では、撮影監督グレイグ・フレイザーが、Farsightという仮想カメラの仕組みを紹介しています。CGの宇宙船を見ながら、肩に乗せた装置でカメラを動かし、操作盤で照明も調整。CGの画面でも、撮影監督自身が「どこから、どんな光で撮るか」を決めていたんですね。[7]

投稿元:Framestore。グレイグ・フレイザーが、仮想カメラで宇宙船の映像を撮る工程を話しています。LinkedInで見る

ILM側でも、Heliosという仕組みを使って、フレイザーが構図を決めています。光の明るさを測る露出計の機能までデジタル空間に用意し、実写の撮影に近い道具立てで調整できるようにしたそうです。[6]

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の作品情報

日本公式サイトでは、作品とスタッフを紹介しています。[3] トリビア・配信情報はこちら。

この映画を見返す

無重力の撮り方を知って、もう一度宇宙船へ

ワイヤーとVFXの工夫を踏まえて、浮遊する身体や光の描写を見返してみよう。配信状況と各サービスの公式サイトはこちら。

N
Netflix
U
U-NEXT
2026年7月13日時点で日本国内配信を確認
D
DMM TV
D
Disney+
T
TSUTAYA DISCAS
📀
DVD / Blu-ray
※本ページにはプロモーションが含まれています。

配信状況は変更される場合がある。最新情報は各サービスの公式サイトで確認してほしい。

出典と参考資料

  1. Variety India — VFXスーパーバイザーが語る無重力撮影(2026年10月18日、Davide Abbatescianni)。ポール・ランバートのVIEW Conferenceでの説明。 ↩1 ↩2 ↩3 ↩4
  2. Adam Savage’s Tested — How Zero Gravity Spacewalks Are Filmed in Movies(2026年3月18日)。撮影スタッフと船外活動用の装置を紹介する現場取材。 ↩1 ↩2
  3. 映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』日本公式サイト(ソニー・ピクチャーズ)。邦題、監督、脚本、原作、出演、撮影の確認。 ↩
  4. SYFY WIRE — 『アポロ13』の撮影監督・美術監督への取材(2023年7月24日)/NASA — What is Microgravity?。機内のセットと、放物線飛行による無重力撮影の確認。 ↩
  5. Evercast — From puppets to pixels: inside the making of Project Hail Mary(2026年7月27日、Jessica Cyrell)。VFX編集のウォーレン・ヒックマンらへの取材。 ↩1 ↩2 ↩3
  6. CGWORLD — ILMが語る『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の宇宙表現(2026年9月28日、鍋潤太郎)。SIGGRAPH 2026の制作講演レポート。赤外線撮影とVFXの組み合わせ、Heliosの説明。 ↩1 ↩2 ↩3
  7. Framestore — グレイグ・フレイザーが語る仮想カメラFarsight。制作会社公式による映像・解説。 ↩
  8. ILM — Project Hail Mary 制作紹介。宇宙船、惑星、ESAの観測データを使った星空の制作。 ↩