『アポロ13』は約20秒ずつ浮いて撮った――機内と地上をつなぐ無重力撮影
『アポロ13』で宇宙飛行士たちが全身を浮かせる場面は、俳優が実際に無重力状態になって撮影しています。 場所は宇宙ではなく、NASAの訓練機KC-135の中。機体を放物線状に飛ばして、乗っている人や物が浮く時間を作りました。ただし、一度に撮れるのは約20秒です。[1][2]
・ワイヤーでは隠しきれない、という悩みから
ロン・ハワード監督も、最初はワイヤーで身体をつるす方法を試しています。ところが動きが限られ、俳優も快適ではありません。光が当たってワイヤーが見えれば、浮遊の仕掛けまで分かってしまいます。[2]
その悩みを聞いて訓練機の利用を提案したのが、スティーヴン・スピルバーグでした。NASAは当初乗り気ではありませんでしたが、ジム・ラヴェルの仲介で試験飛行への道が開けます。監督や出演者らはヒューストンで3日間の訓練を受け、筆記試験や身体検査を経て、まず一度乗ってみることになりました。[2]
役作りのためNASAで訓練を受けた出演者たち。左からパクストン、ハンクス、シニーズ、ベーコン。写真:NBC/Universal/掲載元:米国議会図書館の監督インタビュー。
引用画像は上記の掲載元で確認できます。
・一度に約20秒、安定して撮れる時間はさらに短い
イェール大学の上映資料によると、機内撮影は4週間のうち13日間。612回の放物線飛行で、無重力の撮影素材は合計4時間弱になりました。612回とは離着陸の回数ではなく、浮く時間を作る飛行の繰り返しです。[1]
ハワードは2013年の登壇で、約22秒のうち安定して使えるのは約17秒だったと説明しています。機内で相談を始めては間に合わないため、地上の模型セットで動きを確認し、絵コンテと撮影予定を持って搭乗しました。それでも、予定した10ショットを全部撮れたことは、ほとんどなかったそうです。[3]
・地上のアップにも、浮いた経験が生きた
全身の動きを機内で撮った後は、地上のセットで細かな演技を補いました。使ったのは「ベリー・パン」と呼ばれる、衣装の下から腹部を支える装置です。身体を動かし、さらに船内セットの向きも変えることで、観客に上下を意識させない画面を作りました。[3]
俳優たちは、すでに本当に浮いたときの身体の動きを知っています。 地上でも、その感覚に合わせて演技ができました。先に撮った全身のショットと、後から撮ったアップがつながるのは、支える装置だけでなく、その体験もあったからです。[3]
・浮く映像には、音を合わせる目印もなかった
編集担当のダン・ハンリーとマイク・ヒルによると、機内の素材にはカチンコがなく、録音も使えませんでした。助手たちは素材を整理し、目で見て音と映像を合わせています。[4]
身体を浮かせれば、それで一場面が完成するわけではありません。短い飛行撮影、地上での演技、編集室の音合わせまでつないで、映画の中では途切れない宇宙船内の時間になりました。なお、撮影を勧めたスピルバーグも、後でハワードへ、本当にやるとは思わなかったと話したそうです。[3][4]
・脚注
- abYale University Library、Archer Neilson「Film Notes: APOLLO 13」(2016年6月22日上映資料)、KC-135の13日・612回・4時間弱の説明。(リンク)
- abcLibrary of Congress「Behind the Scenes of “Apollo 13” with Ron Howard」(2025年4月16日、取材は2023年11月)、ワイヤー試験、NASAとの調整と訓練、NBC/Universalクレジットの写真。(リンク)
- abcdBAFTA「Ron Howard: A Life in Pictures」(2013年7月2日)、約22秒と安定した約17秒、地上での準備、ベリー・パン、スピルバーグの反応についての監督の回答。(リンク)
- abCineMontage、Lisa Willinger「A Conversation with Dan Hanley and Mike Hill」(2000年5月1日)、両編集者の登壇報告。(リンク)