『ポセイドン・アドベンチャー』の逆さま船内はどう撮った? 本物の船と巨大セットの使い分け
床だった場所が頭上へ行き、照明のある天井が足場になる。『ポセイドン・アドベンチャー』では、豪華客船が転覆した瞬間から、船内の上下が丸ごと逆になります。
では、あの逆さまの船内はどう撮ったのでしょうか?
実は、本物の客船とスタジオセットを、場面によって使い分けていたのです。
・本物のクイーン・メリー号も使っている
撮影に使われた実在の船は、カリフォルニア州ロングビーチに係留されていたクイーン・メリー号です。映画の冒頭にある船上場面などは、この船で撮影されました。[1]
ただし、クイーン・メリー号を本当に傾けたり、ひっくり返したりしたわけではありません。
嵐で船が揺れる場面では、カメラをジャイロに載せて動かし、水平を失ったように見せています。そして転覆後の船内は、20世紀フォックスの撮影所に作ったセットです。[1]
・写真と設計図から、船内を作り直した
ロナルド・ニーム監督とプロダクションデザイナーのウィリアム・クレバーは、クイーン・メリー号の古い写真や設計図を参考にしました。目的は、本物らしい船内を撮影所へ再現することです。[1]
食堂セットは、まず通常の向きで作られました。そこへフォークリフトを使い、最大約30度まで傾けられる仕掛けを加えます。乗客も家具も滑り落ちていく、転覆の途中を撮るためです。[1]
そして船が完全に転覆した後の場面では、セットの上下を反転。俳優たちは、さっきまで天井だった場所を歩くことになります。
同じ空間をただカメラだけ逆さまにして見せたのではありません。人物が実際に逆さまの構造物を登り、ぶら下がった家具の間を進めるよう、空間そのものを転覆後の船内へ作り替えたのです。
・俳優の体も、逆さまの空間に慣らした
見た目だけではなく、逆さまのセットは人間の感覚にも影響しました。
出演者のキャロル・リンレーは、上下が逆の空間に入ると気分が悪くなったと振り返っています。目から入る情報と平衡感覚が合わないためです。そのため出演者たちは、撮影前のおよそ1週間、セット内を歩いて体を慣らしました。[2]
ニーム監督は、クレバーと相談しながら転覆をどう画面へ出すか考えたと説明しています。監督が特に重視したのは、船がひっくり返る約1分半の場面でした。[2]
実物の船で豪華客船らしい手触りを拾い、撮影所では設計図をもとに船内を再構成する。さらにセットを傾け、最後は上下まで反転させる。
あの異様な船内は、画面を逆さまにしただけではありません。本物の船を手本に、歩ける「逆さまの世界」を作ったセットだったのです。