『スパイ・ゲーム』屋上の会話になぜヘリ? トニー・スコットが自腹で撮った場面
『スパイ・ゲーム』では、ミュアーとビショップが屋上で話す場面にも、ヘリコプターによる空撮が使われています。銃撃戦でも追跡劇でもない、二人の対話です。2002年のDVD特典レビューによると、トニー・スコット監督は、この撮影のためのヘリ代を自費で負担したそうです。[1]
・レッドフォードは、ヘリを飛ばす理由に納得できなかった
この場面では、ブラッド・ピット演じるビショップが、師匠ミュアーの判断を問いただします。相手を信じてきたからこそ、そのやり方を受け入れられない。二人の関係が揺らぐ場面です。[2]
ロバート・レッドフォードは、ここにヘリを持ち込む必要があるのか、と疑問を抱いたといいます。大切なのは俳優同士のやり取りで、周囲をヘリが飛べば演技へ集中しにくい。シンプルに向き合いたい俳優と、カメラも大きく動かしたい監督とで、考え方が違っていました。[2]
完成した映画の二人は、親しげに並ぶだけの相棒ではありません。教える側のミュアーと、それを聞いて判断するビショップ。その関係の変化が、屋上では会話だけでなく、撮り方にも表れます。
・旋回する視点で、ビショップの足元を揺らす
撮影解説では、二人の周囲を旋回するカメラが、ビショップの不安や怒り、戸惑いを表すものだったと説明されています。相手の顔を順に映すだけでなく、周囲の風景まで回転させる。師匠への信頼がぐらついている人物を、落ち着かない視点で見せる狙いです。[2][3]
自費のヘリについて紹介したDVDレビューも、その目的を、二人の対話に不安を加えるためだったとしています。会話の内容と、カメラが与える感覚を一緒に働かせる撮影でした。[1]
・その前に、マーロン・ブランドのCMで試していた
スコットは、本作の直前に撮ったテレコム・イタリアのCMでも、山頂に立つマーロン・ブランドをヘリから撮影していました。CINEMOREの解説によると、そこで得た手応えが、屋上の場面で同じ手法を使う判断につながったそうです。[2]
レッドフォードは俳優だけでなく、スコットが尊敬する監督でもありました。その人を演出する緊張がありながらも、自分の撮り方を貫いた。完成映像を見たレッドフォードも、その狙いを理解したと伝えられています。[2]
屋上の二人を見るときは、台詞と一緒に、背景や視点の動きにも目を向けてみてください。ヘリを飛ばした理由が、ビショップの揺れる気持ちと重なって見えてきます。
・脚注
- abRon Epstein/Home Theater Forum「HTF REVIEW: Spy Game」(2002年3月20日)。DVD特典Clandestine Ops、第14章の自費ヘリ撮影についての紹介。 (リンク)
- abcde牛津厚信/CINEMORE(2019年8月2日)、4ページ目。俳優との意見の違い、旋回の狙い、テレコム・イタリアCM、完成映像への反応。 (リンク)
- Jeremy Herbert/Crooked Marquee「Tony Scott: Three Sequels by Any Other Name」(2021年4月28日)。監督コメンタリーを引く屋上場面の説明。 (リンク)