原節子との接吻を、仲代達矢はどう撮ったか
『娘・妻・母』で原節子の恋人役を演じた仲代達矢には、キスシーンの忘れられない記憶がありました。成瀬巳喜男監督から実際に唇を合わせるよう求められ、困って原本人へ相談すると、「いいわよ」と応じてくれたというのです。[1]
・監督の注文と、マネジャーの説明
仲代がこの話を振り返ったのは、原の訃報が伝えられた2015年。日刊スポーツの取材で、監督からは本当にするよう言われる一方、原のマネジャーからは、これまで唇を合わせたことがないと説明されたと話しています。[1]
そこで仲代は、自分で判断して進めるのではなく、原に相談しました。本人の了承を得て、緊張しながら実際に撮ったと覚えていたのです。完成した映画では短い接吻でも、演じる二人の間には、こうした相談がありました。[1]
・大ファンだった相手の、恋人役
仲代にとって原は、共演前から特別な存在でした。『東京物語』(1953)を見て大ファンになり、初めて会ったときには、その笑顔の美しさに驚いたといいます。恋人役になったこと自体、興奮する出来事だったと語っています。[1]
この回想で、接吻の緊張がよく分かります。ただ演出上の動きをこなすだけでなく、以前から憧れていた女優が目の前にいる。監督の求める芝居と、共演者への遠慮の両方があったのでしょう。
・ロケ先では、気さくな一面も
一緒に仕事をする中で、仲代が知った原の印象は変わりました。神秘的な女優だと思っていたのに、ロケ先では皆と酒を飲み、カード遊びにも誘ってくれる、ざっくばらんな人だったと振り返っています。「ドボン」などの遊びで、自分がずいぶん負けたことまで覚えていました。[1]
スクリーンで抱いていた憧れと、現場で知った気さくさ。 その両方を語る仲代の回想からは、撮影の段取りだけでは見えてこない、共演者同士の距離も伝わってきます。