『大統領の執事の涙』はどこまで実話? セシルのモデルと父子の物語が生まれるまで
『大統領の執事の涙』の主人公セシル・ゲインズには、実在のモデルがいます。ホワイトハウスで34年間働き、トルーマンからレーガンまで8人の大統領に仕えたユージン・アレンです。ただし、フォレスト・ウィテカーが演じるセシルは、アレン一人の人生をそのまま再現した人物ではありません。映画では複数の執事の経験を組み合わせ、父と息子の物語へ作り替えています。[1][2]
・出発点は、2008年の新聞記事
企画の元になったのは、ウィル・ヘイグッドが2008年11月7日のワシントン・ポストに発表した、アレンについての記事でした。プロデューサーのローラ・ジスキンからその記事を渡された脚本家ダニー・ストロングは、美しい人物紹介だと思った一方、それだけで映画の筋道が決まるわけではない、と振り返っています。[2][3]
調査を進めたストロングは、ほかのホワイトハウス職員が書いた回想録にも目を通しました。そこで提案したのが、いろいろな執事の話を一人の主人公に重ねる方法です。アレンの経歴を順番になぞるよりも、時代の激動の中で働いた人々の経験を描ける。ジスキンも、この方針を支持しました。[2]
写真に写っているのは、映画の登場人物ではなくアレン本人です。彼は映画化される以前にも、自らの仕事について語っています。スミソニアンが1994年に発表した記録映画『Workers at the White House』には、アレンを含む実際の職員へのインタビューが収められています。[1]
ユージン・アレン本人のインタビューを見る(Smithsonian Folkways公式映像)
・物語の中心には、正反対の父と息子を置いた
映画のセシルは、大統領のそばで静かに働く父親。一方、息子ルイスは街頭で公民権運動へ身を投じます。ストロングは、この性格の違いを父子の物語の背骨にしました。慎み深い父と、行動力のある息子。二人の向く方向を分けることで、世代間の溝が見えるようにしたのです。[2]
それがよく分かるのは、息子が飲食店で差別に抗議する場面と、父がホワイトハウスで給仕する場面の交差です。食事を出してもらえない息子と、大統領へ食事を出す父。二つを並べる発想は、撮影後に初めて生まれたものではなく、脚本の段階からありました。[2]
実在の執事を入口にしながら、映画の中心には、同じ社会を違う場所から見ている父子がいます。「実話が元」という言葉だけでは見えにくい、この脚色の組み立てを知ると、父と息子を交互に映す場面の意味もつかみやすくなります。
・脚注
- abSmithsonian Magazine/Vicky Gan「Hear From the Real Butler of the White House, Eugene Allen」(2013年8月21日)。実在のアレンの経歴、映画と記録映画の区別。 (リンク)
- abcdeCreative Screenwriting/Andrew Bloomenthalによる脚本家ダニー・ストロング取材(2013年9月3日)。複数の執事を重ねた主人公、父子の対比、給仕と座り込みの交差。 (リンク)
- AFI Catalog「Lee Daniels’ The Butler」HISTORY。2008年の新聞記事と映画化企画。 (リンク)