運転している俳優を、別のドライバーが走らせる
『フォードvsフェラーリ』で、俳優の顔のすぐそばを景色が流れる運転シーン。あの緊張感を撮るために使われたのが、俳優の演技と車両の運転を分担できる、二種類の撮影車でした。VFX総監修のオリヴィエ・デュモンが、その仕組みを説明しています。[1]
・前から撮る車と、背中越しに撮る車
一つは「Biscuit」。スタントドライバーの運転席を備えた、非常に低い台車のような装置です。これなら俳優を正面からも横顔でも撮れます。名前は、同じジェームズ・マンゴールド監督の『シービスケット』(2003)のために作られた装置に由来します。[1]
もう一つの「Buck」は、主に反対方向、俳優の肩越しに前方を見るショットを担当しました。こちらは半分だけの車体を使い、スタントドライバーはその後方の高い位置から運転します。カメラがどちらを向くかに合わせ、運転担当者の位置まで変えていたのです。[1]
撮影監督フィードン・パパマイケルも、別の取材で、前後に運転ポッドを付けられる「Pod-Car」を説明しています。掲載写真では、白い車体の後ろに、高い運転席と機材が付いているのが見えます。俳優を映す側と、本当に車両を動かす側を分ける仕組みが、外から見るとよく分かります。[2]
・風や光は本物でも、背景はそのままとは限らない
屋外で撮るのは、自然な光を得るためだけではありません。俳優が車の動きを感じ、その場で反応できる利点もありました。一方でデュモンによると、こうした素材でも背景の多くは後から置き換えています。実際に走らせた撮影と、デジタル処理は両立していました。[1]
・細かな演出が必要なら、スタジオへ
車同士が並走する場面など、動きを正確に合わせ、監督と俳優が密にやり取りしたい撮影には別の方法を使いました。グリーンバックのスタジオに車体を置き、LEDパネルや動く照明で外の光を再現したのです。車体は空気のクッション上に載せ、人が押したり引いたりして動かしました。[1]
俳優の顔に当たる光と、周囲の景色、車体の反射。それらを一度にすべて撮れないときは、必要な要素に分けて組み立てます。運転シーンを見るときは、速さだけでなく、顔に流れる光や肩越しの構図にも注目してみてください。