主な参考資料
- TIME
- Motion Picture Association
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2019年公開の本作は、サム・メンデスが第一次世界大戦で伝令を務めた祖父アルフレッドの語りから着想を得て、クリスティ・ウィルソン=ケアンズと脚本を書いた作品である。ウィルソン=ケアンズは数百の従軍記録を調べて物語の細部を組み立てており、本作は実在の特定任務を再現したドキュメンタリーではない。メンデスは観客を兵士と同じ時間・空間に置くため、脚本段階から全編が一続きに見える形式を構想し、撮影監督ロジャー・ディーキンスと俳優の動線、台詞に要する時間、塹壕やセットの寸法を数か月かけて設計した。フランスとベルギーの戦跡は不発弾が残る史跡のため撮影に使わず、英国のソールズベリー平原などを代替地とし、物語順に近い撮影で光や天候の連続性も管理した。ディーキンスによれば、壊れた橋の場面では4台のクレーン、ワイヤー、コンピューター制御を連携させたうえ、実際には複数のショットを編集と視覚効果でつないでいる。「ワンカット」の看板は派手だが、その錯覚を支えたのは、全員が何か月も同じ振付を反復する地道な段取りだったのである。
サム・メンデスの祖父は第一次世界大戦で伝令を務め、晩年になって孫たちに当時の話をした。祖父が何度も手を洗う理由を尋ねると、塹壕の泥がどうしても落ちなかった記憶があると父から聞いたという。その断片が本作の入口になったが、映画の伝令任務を祖父の実話そのものとして描いたわけではない。
共同脚本家のウィルソン=ケアンズによると、本作には二種類の台本があった。一つは約112ページの人物と感情の物語。もう一つはメンデス、デイキンス、美術スタッフらが作った約45ページの動線図で、俳優・カメラ・セットがいつどちらへ動くかを記した。長回しの技術説明で人物の物語を埋めないための分業だった。
『1917』は全編を最初から最後まで一度に撮った映画ではない。複数の長いテイクの終端と始端を合わせ、人物の顔や体が映ったままの場面でも編集とVFXで繋いだ。デイキンスは見える繋ぎと複雑な繋ぎが混在すると述べ、正確な接続数は明かしていない。
普通の映画なら完成したセットで立ち位置を決められるが、本作は逆だった。俳優とカメラの歩幅から塹壕の長さを決めた。サム・メンデスはリハーサルを通常の50倍以上行ったと日本の取材で語っている。
編集のリー・スミスは、撮影の翌朝には前日のテイクをメンデスと検討した。次のショットは採用テイクの終わり方に合わせて撮るため、通常の映画のように後から自由に選び直せない。スミスによれば、全撮影を終えた後で採用テイクを取り替えたことは一度もなかった。
撮影はできるだけ物語の順に進められた。これは繋いだ映像のテンポを、監督が撮影中から確認するためでもある。ただし最初に撮ったのは映画の冒頭ではない。ボヴィンドン飛行場に造った塹壕の場面だったとデイキンスは説明している。
昼間の屋外は大きな照明で均一にしたのではなく、ほぼ自然光で撮った。長いショット同士を繋ぐには光の向きと強さを揃える必要があり、デイキンスは雲を待った。晴れすぎて撮影できなかった日が3〜4日ほどあり、その時間はリハーサルに充てたという。
デイキンスは大判センサーの映像が欲しかったが、当時のAlexa LFは長回しの移動には大きすぎた。そこでARRIに小型版を打診し、開発途中のAlexa Mini LFを3台用意してもらった。カメラを持ち替えながら動く撮影の条件が、機材の選択を決めていた。
本作のレンズはほぼ40mmに揃えられたが、デイキンスは場所に合わせて例外を作った。狭い独軍地下壕では35mm、川の場面の一部では背景を映しすぎないよう47mmを使用。空間の感じ方は場面ごとに調整されている。
カメラを手からワイヤーへ受け渡した。Trinityリグからクレーンへ、あるいは人の手からワイヤー式カメラへと装置を替え、カメラ自体を受け渡した。VFXだけでなく撮影班の引き継ぎも、見えない繋ぎを支えている。
実物の塹壕や自然光で撮った作品だが、VFX統括のギヨーム・ロシュロンによれば、全フレームの91%に視覚効果部門が手を入れた。多くは派手なCGではなく、人物の切り抜き、景観の延長、長いテイク同士の接続。効果を見せないことが、この作品の大きな仕事だった。
【ネタバレあり】飛行機はCGから実物へ切り替わる。VFX統括ロシュロンによると、納屋への衝突はCG機体で作り、実際の炎や破片と組み合わせ、兵士が搭乗員を救い出す段階で現場の実物機体へ切り替えた。カメラが目を逸らさないため、異なる素材の接続が見えにくい。
【ネタバレあり】橋と川は別々のロケ地。橋はバックロット、川は別のロケ地で撮影された。VFX班は実写からデジタルの映像へ移って二地点を繋ぎ、カメラも一緒に水へ入ったように見せた。
夜の廃墟街では、上空を動く照明弾の光と燃える教会の明かりが役割を分ける。デイキンスは準備段階で約8×4フィートの街の模型を作り、ワイヤーに沿って小さなLEDを動かして影の落ち方を試した。実物大の街を照らす前に、光の動きを小さな街で設計していた。
カメラが360度動く本作では、録音機材も画面から消さなければならなかった。現場録音のスチュアート・ウィルソンは、俳優のマイク信号を途切れさせないよう、土嚢や木、塹壕の泥の中に受信アンテナを隠した。音声を拾う仕組みそのものが戦場セットに紛れている。
無人地帯を進む台詞の少ない場面にも、録音班は強くこだわった。ワイヤーカメラの発電機がうるさいと、兵士たちの息や地面を踏む音が消えてしまう。ウィルソンは静かな発電機へ替え、ウインチの周囲に遮音材を置いた。息づかいは後から録り直すと元の無意識な演技になりにくいと考えたためだ。
メンデスによると、作曲家トーマス・ニューマンは普段なら映画の編集が固まってから書き始める。だが本作では長いテイクが撮影中に組み上がるため、早期に編集用の音楽を送った。その一部は作曲の内容を変えずに完成版にも残ったという。
【ネタバレあり】スコフィールドが取っておいた牛乳を赤子に渡す場面には、退役軍人の証言がある。共同脚本家ウィルソン=ケアンズは帝国戦争博物館の録音で、牛乳を盗んだことを悔やむ元農夫が、後に飢えた赤子に出会う話を聞いた。映画では出来事の組み合わせを変えたが、誰かを救うことで戦争の中に意味を見いだす感覚を残した。
【ネタバレあり】ブレイクが途中で死に、スコフィールドが伝令を続ける構想は初期からあった。一方、救うべき部隊にブレイクの兄がいる設定は脚本の途中で加わった。数字だけでは見えにくい1,600人の命を一人の家族へ結びつけ、兄を案じる本人が生き残るという観客の予想も揺らした。
【ネタバレあり】最後の疾走で兵士にぶつかったのは予定外。ジョージ・マッケイは、長い準備の末の撮影で本当に兵士とぶつかったと語る。現場にはメンデスが止めるまで演技を続ける規則があり、転倒後も走り続けたテイクが映画に残った。
【ネタバレあり】ラストの木はロケハンで見つけた。もとは小川のそばで終わる予定だった。デイキンスによると、冒頭の木を探すロケハン中に近くで一本の木を見つけ、始まりと終わりが呼応する画へと変更した。
【ネタバレあり】デイキンスによれば、終盤の対話と動きを含む長いショットは、必要な光や俳優の位置を厳密に合わせて撮った。それでも完成版に選ばれたのは第1テイクだったという。映画全体が一発撮りだったという話ではなく、この特定のショットについての証言である。
2018年にはトム・ホランドの『1917』出演交渉が報じられた。一方、「ブレイク役の正式な打診を『カオス・ウォーキング』の再撮影で辞退した」という詳しい筋書きは別の話だ。監督・俳優・製作側の一次資料からも、役名、正式オファーの有無、辞退理由まで確定できなかった。
1917 命をかけた伝令を配信で見られるサービスを、確認できた範囲で掲載しています。未確認のサービスは公式サイトで探せます。