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1983年公開。テレビシリーズの人気が沸騰するなか、押井守が長編映画の監督を初めて任され、金春智子の脚本をもとに友引町の面々を総動員した劇場版第1作である。押井は後年、ファンが期待するにぎやかな娯楽作にはできたものの、自分の映画を作ったという手応えは持てなかったと振り返り、伊丹十三からは甘い菓子のような映画だと評されたという。その不満は失敗談として片づけられず、次作を自ら脚本から組み直す直接の動機になった。製作側が求めた安全な人気作はきちんと完成したが、同時に監督の反抗心まで上映時間いっぱいに育ててしまったのである。
公開まで4〜5か月の代打監督。前任監督が途中で降板したため代打として起用され、本人の回想では制作期間は約4〜5か月だった。毎週放送されるテレビシリーズも止められず、同じ作品のテレビ版と劇場版を同時に動かした。劇場長編デビュー作は、準備を重ねた企画ではなく、公開日が迫る制作を立て直す仕事として始まった。
本作は脚本家と監督の仕事が一つの「脚本」表記へまとめられていない。物語の基礎を金春智子が書き、押井守は引き継ぎ後に脚色と絵コンテを担当した。1982年の制作途中、押井は絵コンテを描きながら、あたるとラムの関係や日常から宇宙冒険へ移る構造を検討していた。短い制作期間のなかで、完成脚本を映像の順序と演出へ変換する作業が監督の中心になった。
押井守は後年、本作を一本の映画としては不満が残る作品だったと述べた。テレビシリーズと同じ人物、性格、世界を保ち、新しい人物を大量に加えたため、ファンが楽しむイベントとしては成立した一方、「長いテレビ版」に近くなったという判断である。この自己批判は作品を否定するだけではなく、翌年に人物デザインや学校の構造まで作り直す理由になった。
押井守は『オンリー・ユー』を長いテレビ版にしてしまったという反省から、次作を自分にとっての雪辱戦と考えた。『ビューティフル・ドリーマー』では人物のデザインと衣装を改め、友引高校の一部も新しく設計し、外から事件が来る構成ではなく、日常の内部で異変が進んでいたと気づく映画へ変えた。二作の作風差は、別々の企画趣味ではなく、第一作の制作経験に対する意図的な回答だった。
1982年の制作途中、押井守は本作だけを見ても『うる星やつら』の本質が伝わる「決定版」を目指すと説明した。テレビ版で蓄積した人物と騒動を並べるだけではなく、あたるとラムがどのような関係なのかを恋愛劇として扱う構想だった。エルとの結婚話は、あたるの浮気を増やすだけの事件ではなく、ラムとの関係を外側から確かめる装置として組み込まれた。
押井守は本作を「あたるとラムの恋愛劇」と位置付ける一方、女性の生命力が男性より強い世界を描きたいと語っていた。あたるはエル星へ向かうきっかけになるが、物語の主導権はラム、エル、弁天、おユキ、ランたちが握る。宇宙船と戦闘を含む冒険形式を使いながら、行動する女性たちを男性の視点から描く設計だった。
高橋留美子は脚本を読んだうえで、エルを花に例えるなら薔薇だと考えた。性格はラムとランの中間にいる活発な少女として捉え、映画用の人物原案を作成し、エル星の住民についても案を提供した。完成版にローゼンバッハ、ロゼ、バランなど薔薇を連想させる名称が連なるのは、宣伝段階から明示されていた人物コンセプトが美術と命名へ展開した結果である。
高橋留美子は映画オリジナル人物のエルと、その星の住民の原案を担当した。一方、物語や演出を細部まで監修したのではなく、原作人物の持ち味を損なわず、楽しい映画になるならスタッフへ任せるという姿勢を制作途中に示している。原作者の図案と、金春智子・押井守・劇場版スタッフの映像化を分業した作品だった。
高橋留美子は本作の脚本を読んでいたが、宣伝画を描く時点では劇中の婚礼衣装がどのような形になるか知らなかった。そのため『少年サンデーグラフィック』用の絵は、完成映像の設定を転写するのではなく、脚本と人物像から手探りで描かれた。高橋は後年、映画のポスターを描いた作業自体は楽しかったと振り返っている。
キャラクターデザインの高田明美は、テレビシリーズを「生き物」と捉え、放送が進む間に人物の描かれ方が初期設定表から変わったと説明した。本作では劇場版だけの別デザインを作るのではなく、その時点の画面へ設定を合わせ直した。映画から初めて参加する作画スタッフが迷わないよう、ラムだけで8枚の設定表が用意された。
制作途中のスタッフ紹介では、遠藤裕一があたるの地球滞在中、青嶋克己があたるのエル星到着後を中心に担当すると説明している。地球側はテレビシリーズで馴染みの人物を動かす芝居、エル星側は新しい人物と宇宙空間を含む場面が中心になる。舞台の性格に合わせて長編を区切り、異なる作画スタッフの得意分野へ配分した。
青嶋克己は制作途中、押井守が手掛けたテレビ版の絵コンテには予想以上に動きが多かったと述べ、本作も作画枚数が計画をかなり超えると見込んでいた。担当するのはあたるがエル星へ到着した後の部分で、新キャラクター、群衆、宇宙船が増える区間である。公開までの時間が短い一方、画面の運動量まで抑える方針ではなかった。
山下将仁はテレビ版の面堂初登場回で原画とメカを担当した後、本作ではメカニック監督として参加した。制作途中の説明では、約40カットの原画を受け持ち、後半に登場するメカの一部も設計する予定だった。越智一裕も原画へ加わり、終盤の宇宙船と戦闘は専任のメカ担当者を中心に組み立てられた。
完成クレジットの制作協力欄には、スタジオアクト、OHプロダクション、シャフト、AIC、マジックバス、スタジオぎゃろっぷなど、多数の作画会社が並ぶ。制作進行も山内拓司、坂口健次、林喜宏ら9人が記載されている。公開まで約4〜5か月で大量の人物と宇宙船を動かすため、工程を複数の現場へ広げ、進行担当を増やして管理した制作だった。
完成クレジットでは、通常の原画・作画監督とは別に、プロローグ・アニメーションへ中村泰敏、エンディング・アニメーションへ南家こうじの名が置かれている。テレビシリーズでも楽曲と独立した短い映像を担った作家を起用し、本編前後のリズムを切り分けた。大量の本編作画を外部へ広げる一方、入口と出口には担当者を明確に置いた構成である。
1982年9月のファン集会では主題歌のデモが流され、当初は小林泉美が作詞・作曲・編曲・歌唱の四役を担うと発表されていた。完成版の「I, I, YOU & 愛」では、作詞は安藤芳彦、作曲・編曲・歌唱は小林泉美とクレジットされている。公開前の数か月で歌詞の担当と正式表記が調整され、初期発表から完成曲へ変化した。
安西史孝が『うる星やつら』の音楽へ入った当時、劇伴は管弦楽などの生楽器を使い、シンセサイザーは効果音へ回す方法が一般的だった。安西は作品の混乱した場面にはテクノ系の音が合うと考え、ローランドSystem 700、Jupiter-8、MC-8などを使って曲を制作した。簡単な音を作るだけでも大量の配線が必要な機材を用い、電子音を一時的な効果ではなく音楽の中心へ置いた。
安西史孝は長い劇伴一覧のなかから、本作のエル星で牛丼を食べる場面に使われた曲を特に気に入っていると語った。さらに、その少し前に宇宙船がエル星の港へ入る場面の曲も挙げている。大規模な宇宙港と、地球的な牛丼屋を続けて見せる区間に、作曲者自身が印象へ残す二つの曲が配置された。
「ラムのバラード」は、声優が役名義で歌う付属曲ではなく、本作の挿入歌として完成クレジットへ入り、同時期にシングルとして発売された。作曲・編曲の西村コージは、平野文がこの曲を歌ったことからソロアルバムや初コンサートへ仕事が広がったと振り返っている。ラムの声と歌手・平野文の活動が同じ楽曲で接続した。
「星空サイクリング」の原型は、テレビシリーズのディスコ場面で使われた器楽曲「Cosmic Cycler」だった。放送後に問い合わせが寄せられたため、歌詞を付けて編曲を変え、テレビ版の新エンディング曲として完成した。その後、本作の挿入歌にも採用され、テレビの一場面で反響を得た曲が、番組の顔となる楽曲を経て劇場版へ渡った。
2001年前後に流通した映像商品には、104分収録の「ノーカット版」が存在する。一方、2015年にワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントが発売した『劇場版うる星やつら Blu-ray BOX』のニューテレシネHDマスター版は90分である。現在見られる版によって、劇場公開時に整理された素材を含むかどうかが異なる。
押井守はテレビアニメの演出と自主映画制作を経験していたが、商業劇場用長編の監督は本作が初めてだった。しかもデビューは、自分で企画を立ち上げた作品ではなく、前任者の降板後に完成責任を引き受ける形で訪れた。この緊急登板が、その後の劇場映画監督としての出発点になった。
本作は1983年2月、相米慎二監督の実写映画『ションベン・ライダー』と同時上映された。テレビシリーズの人気人物を集めた祝祭的なアニメと、長回しを用いる若者映画が同じ興行へ組まれたため、公開時には二作の作風差そのものが批評の材料になった。現在は別々に流通する二作だが、初公開時の観客は連続して鑑賞した。
伊丹十三は本作を「甘い甘いお菓子みたいな映画」と評したとされる。押井守はその言葉を金子修介から聞き、強く反発したという。ファン向けの華やかさを優先した第一作と、作家性を前面へ出した第二作のあいだには、監督自身の反省だけでなく、同時代の映画人から受けた批評も作用していた。
高橋留美子はエルを薔薇のイメージから作った。完成版ではエル・ド・ローゼンバッハ、側近ロゼ、乳母ババラ、首都バラン、幼少期の名札「ばらぐみ える」など、薔薇を連想させる名称が複数の層へ置かれた。惑星の輪郭も蕾を思わせる形に描かれ、人物原案が星全体の統一意匠になっている。
ラムが立ち寄る喫茶店の看板には「Coffee Pierot」と書かれている。完成クレジットで製作協力を担うのはスタジオぴえろであり、店名はその名称を英字へ置き換えた内輪の署名として読める。物語の進行を止める大きなカメオではなく、背景美術の一部に制作会社を残した小さな遊びである。
弁天は原作初期から存在する人物だが、本作ではラムを励まし、宇宙へ向かう仲間をまとめる役割が大きくなった。高橋留美子が映画での扱いを気に入り、その後の漫画で弁天をより多く登場させたという回想が伝えられている。映像化が原作人物の使い方へ逆に影響した可能性を示す逸話である。
エルの周囲には、名前だけでなく惑星、美術、脇役まで薔薇が繰り返される。ローゼンバッハという姓、蕾のような母星、首都バラン、ババラとロゼ、幼少期の「ばら組」の名札が同じ意匠で結ばれているのである。美しいものを集めて保存しようとするエルの性格を、台詞より先に世界全体が語っている。回想や背景の文字まで追うと、一人の人物の趣味が惑星規模のデザインへ膨らんでいることが見える。エル星外観、宮殿、幼少期の回想、名札は、この証言を作品の画面から検討するための具体的な手掛かりになる。
エルの母星は日本語で「エル星」と呼ばれ、声に出すと作品名の「うる星」とよく似ている。制作側が意図を明言した記録はないものの、敵対する花嫁の世界を題名の一音違いに置く仕掛けとして機能する。ラムのいる「うる星」と、エルが支配する「エル星」が、あたるを挟んで音まで競い合うのである。字幕では消えやすい、日本語の耳で楽しむ小さな対立構造である。この説を手掛かりにエル星の呼称、招待状、宇宙航行を見返すと、画面上の細部と証言がどこまで対応するかを検討できる。ソフトを持っている捜査員は、該当場面を聞き直し、音や台詞がこの指摘と一致するか確かめてほしい。
ラムが街で足を止める店の名は「コーヒー・ピエロ」。本作の製作協力がスタジオぴえろであることを知ると、背景看板が制作会社の署名に見えてくる。物語を中断して説明するのではなく、友引町に実在する一軒の喫茶店としてスタッフ名を溶かしたのである。再見時には人物だけでなく、通り過ぎる文字にも制作現場からの挨拶が隠れていないか探したくなる。ラムが街を移動する場面の店舗看板は、この証言を作品の画面から検討するための具体的な手掛かりになる。