現金に体を張れを配信で見られるサービスを、確認できた範囲で掲載しています。未確認のサービスは公式サイトで探せます。
1956年公開、キューブリックと製作者ジェームズ・B・ハリスが設立した会社による初の長編で、ライオネル・ホワイトの犯罪小説を、犯罪小説家ジム・トンプソンの台詞協力を得て映画化した。ユナイテッド・アーティスツは興行上のスター不足を心配してヴィクター・マチュアの起用を提案したが、二人は拒み、スターリング・ヘイドンを中心に比較的地味な配役を選んだ。時系列を前後させる構成にはスタジオや出演者から懸念が出たものの、キューブリックはナレーションで時刻を示しながら同じ出来事を複数の視点から反復した。予算は約32万ドルとされ、撮影は短期間で行われたが、全米で十分な配給を得られず興行的には振るわなかった。信頼できる最終興収の集計は確認できず、少なくとも大きな利益を生んだ作品ではない一方、批評的評価が次作『突撃』への信用を作った。現金強奪の映画が現金を稼げず、その失敗が監督の資産になったのだから、帳簿だけでは映画史を読めない。
試写後、複雑な時間構成を問題視する声を受け、制作陣は物語を時系列順に並べ直す編集を実際に始めた。ところが途中まで組み直すと、各人物の行動が同じ時刻へ収束していく緊張感まで薄れてしまった。そこで改変を断念し、完成版は現在知られる非時系列構成へ戻された。
参考情報:公開資料
キューブリックと製作者ジェームズ・B・ハリスは、本作をハリウッドで仕事を得るための職業的な名刺と位置づけた。ニューヨーク周辺での制作を断念してロサンゼルスへ移り、経験豊かな俳優と組合スタッフを集めた。自主制作で監督が多くの役割を兼ねた前作までとは異なり、撮影、編集、美術を専門家へ委ねながら、自分の演出を通す最初の現場になった。
参考情報:映像ソフト公式(米)
キューブリックは当時の犯罪映画に出ていた性格俳優を細部まで把握し、エリシャ・クック・ジュニアやテッド・デ・コルシアらを強盗計画の各役へ配置した。限られた登場時間でも、それぞれの顔、声、身振りが職業や性格を伝えるため、観客は複雑な計画を追いやすい。低予算で大スターを揃えられない条件を、群像そのものの魅力へ変えた配役である。
参考情報:公開資料
競馬場で乱闘を起こすモーリス役のコーラ・クワリアーニは、俳優専業ではなくレスラーだった。キューブリックとはニューヨークのチェス場で対局していた間柄で、監督自身の人脈から配役された。時間と役割を精密に組み合わせる強盗映画の中で、盤上の読み合いを知る人物が最も肉体的な陽動を担っている。
参考情報:公開資料
レース場面はサンフランシスコ近郊サンマテオのベイ・メドウズ競馬場で撮影された。劇中では別名の競馬場として扱われるが、冒頭には実在地を示す看板が読み取れる。粒子の粗いニュース映像風の実景と、強い一点照明で形を作った室内セットが交互に現れ、緻密な計画が生々しい現実へ接触していく。
参考情報:AFI(米)
製作費は約33万ドルで、ユナイテッド・アーティスツは資金と配給を担う代わりに、予算超過分を製作者側が負担する完成保証を求めた。撮影が延びれば、まだ実績の少ないジェームズ・B・ハリスが追加費用を背負う条件である。多数の人物が別々の場所で動く物語を、時刻表のように準備して撮る必要があった。
参考情報:公開資料
撮影は約24日で行われた。マリー・ウィンザーによれば、監督室の壁には各場面の俳優とカメラ位置を描いた図が順番に並び、映画全体を先に見渡せる状態だった。後年のキューブリックは多数のテイクで知られるが、この時期の精密さは、現場で迷う時間を減らし、限られた日数を守るためにも働いていた。
参考情報:公開資料
撮影監督ルシアン・バラードは、キューブリックが指定した25ミリレンズを使わず、カメラを後方へ移して別のレンズで同じ構図を作ろうとした。しかし広角レンズを近距離で使えば、空間の奥行きと人物の見え方は変わる。キューブリックは元の位置へ戻すか現場を去るかを迫り、その後はレンズをめぐる対立が起きなかったという。
参考情報:公開資料(英)
マリー・ウィンザーによれば、キューブリックは演技を直す必要があるとき、俳優をスタッフや共演者の前で注意しなかった。本人を脇へ呼び、静かに提案を伝えたという。後年の厳格な現場像とは異なり、本作では短い撮影日程の中でも、俳優が公衆の面前で恥をかかない伝え方を選んでいた。
参考情報:公開資料
マリー・ウィンザーはロジャー・コーマン監督の『Swamp Women』と撮影日程が重なり、そのままでは本作へ参加できなかった。キューブリックは彼女の開始日を遅らせ、コーマン側も数日早く現場から送り出した。わずか約24日の撮影でも代役へ切り替えず、シェリーの冷たさと強さを持つ俳優を確保した。
参考情報:公開資料
ノワール作家ジム・トンプソンは、犯罪者の口調と会話を書くために参加し、キューブリックと構成や場面をめぐって激しく議論した。完成版ではキューブリックが脚本、トンプソンが追加台詞と表示された。製作者ハリスは役割分担に沿った処理だったと説明する一方、トンプソンの家族は脚本への実質的な貢献を過小評価したと反発している。
参考情報:新聞社(米)
原作小説『Clean Break』の映画化権を求めたジェームズ・B・ハリスは、フランク・シナトラも主演企画として交渉中だと知らされた。しかしシナトラがすぐに決断しなかったため、ハリスが権利を確保できた。制作中には『Clean Break』『Bed of Fear』という題名も使われ、公開時に『The Killing』へ改題された。
参考情報:AFI(米)
アート・ギルモアの無機質なナレーションは、「45分前」など具体的な時刻を告げ、前後する場面を一つの時間表へ接続する。声の温度は競馬実況とよく似ており、強盗団の一人ひとりが別々の走路を進むように聞こえる。説明のための声でありながら、計画を人間ではなく機械が管理しているような感触も生む。
参考情報:AFI(米)
高評価でも二本立ての添え物として公開された。大規模な宣伝を受けられず興行面では伸びなかったが、映画業界では非時系列構成と移動撮影が注目された。カーク・ダグラスらが若い監督へ関心を持ち、次作『突撃』の実現へつながっていく。
参考情報:映像ソフト公式(米)
クライテリオン・コレクションのBlu-rayは、デジタル修復した本編と非圧縮モノラル音声を収録した。特典には製作者ジェームズ・B・ハリスの新規インタビュー、主演スターリング・ヘイドンのテレビ取材映像、ジム・トンプソンの仕事を扱う解説が含まれる。完成版だけでは分からない構成変更、配役、脚本クレジットを追える資料集でもある。
参考情報:映像ソフト公式(米)
空港で札束が風に舞った後、フェイはジョニーへ逃げるよう促す。しかし彼は走らず、その場に立ち尽くし、近づく警官を待つ。キューブリック自身はこの終幕を、主人公が派手に反撃して倒れる場面ではなく、精密な計画の崩壊を受け入れて自ら諦める場面だと説明した。
参考情報:公開資料
ロッカー、郵便受け、楽器ケース、スーツケース、車のトランクが、強盗計画の進行に合わせて次々に開閉する。アパートや金庫室の扉も人物の出入りと場面転換を刻み、閉じた空間から次の閉じた空間へ金と情報が移動する。多数の人物がばらばらに動く物語を、同じ開閉運動が一つの機械へまとめている。
参考情報:映像ソフト公式(米)
ギレルモ・デル・トロは『ナイトメア・アリー』の参照作を語る中で、金が象徴へ変わり本来の意味を失うノワールの例として本作を挙げた。強盗団が役割と時刻を積み上げて集めた札束は、空港の風にさらされた瞬間、成功の証ではなく回収不能な紙片へ変わる。影響の中心は非時系列構成だけでなく、価値そのものが崩れる終幕にもある。
参考情報:公開資料
時刻を告げるナレーションはスタジオに強制され、キューブリックが反発して一部の情報を故意に不正確にしたという説がある。しかし製作者ジェームズ・B・ハリスは、配給会社へ見せる前に制作側が時系列編集を試し、ユナイテッド・アーティスツは完成版を評価したと証言している。ナレーションの存在は確かでも、誰がどの段階で命じたかは未確定である。
参考情報:AFI(米)
初期案では、飛散した札束を追ったジョニー自身が飛行機のプロペラへ巻き込まれる予定だったという説がある。航空会社が残酷な描写へ抗議し、現在の逮捕を待つ終幕へ変わったとも語られている。しかし撮影台本、制作メモ、当事者インタビューは確認できず、現段階では未確認情報に留まる。
参考情報:映画データベース
ニッキーの狙撃場面をめぐり、競走馬を45テイク走らせ、その後処分されたという深刻な逸話がある。数字と結末が具体的なため広まりやすいが、動物管理記録、当事者証言、同時代記事は確認できない。制作上の動物被害を示す情報としては、追加資料が出るまで保留が必要である。
参考情報:映画データベース
競馬場にはサンマテオのベイ・メドウズを示す旗や看板が残る一方、終盤の踏切には南カリフォルニアで運行したパシフィック・エレクトリックの標識が見えるという。劇中は舞台の都市名を明示しないため物語上の矛盾とは限らないが、実在地の手掛かりを拾うと北部と南部のロケ地が一つの空間に接続されている。
参考情報:AFI(米)