主な参考資料
- American Cinematographer
- AFI
- Los Angeles Times
- TIME
- The Academy
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1986年公開の本作は、チャールズ・エドワード・ポーグが1984年に企画を持ち込んだリメイク案が一度は「主人公が敵になる映画は売れない」と判断されたあと、ブルックスフィルムズで動き直した企画である。 英国での準備中にロバート・ビアマン監督が家族の悲劇で離脱し、後任のデヴィッド・クローネンバーグはポーグ脚本の大部分を書き換えながら、変身の基本構想は受け継いで共同脚本クレジットを残した。 クローネンバーグは、1958年版の怪奇性をなぞるより、二つの生物が遺伝子的に融合していく発想へ組み替えたので、リメイクは懐古企画ではなく、彼自身の肉体観を実験する装置になった。 特殊メイクのクリス・ウェイラスは約30人のチームで、顔・歯・身体の型を取ったゴールドブラムの目と口が芝居として残るよう各段階の造形を設計し、最も重いメイクには約5時間を要した。 撮影監督マーク・アーウィンは、着ぐるみと操演スタッフ、ケーブルを1.85:1の画面から隠し、装置の影が正体をばらさないよう硬い照明を避けた。 過激すぎて人物から観客を遠ざけると判断された特殊効果場面は終盤から削られ、公開後には全米興行で首位に立ち、ウェイラスとステファン・デュピュイのメイクはアカデミー賞を受賞したが、怪物を大きくするより観客を逃がさないことのほうが、現場ではよほど難しかったのである。
本作の出発点を作ったチャールズ・エドワード・ポーグは、『ハエ男の恐怖』(1958)を見ずに原作短編を読み、ジキルとハイドに近い物語として脚本を組んだ。大きなハエの頭へ突然入れ替わるのでは主人公が表情で芝居を続けられないため、人間とハエの遺伝子が少しずつ融合する構造へ変えた。
20世紀フォックスは本作の権利を持っていたが、脚本を読んだ段階で、主人公が物語の途中から脅威へ変わる映画は売りにくいと判断し、製作費を出さなかった。プロデューサーのスチュアート・コーンフェルドが外部資金を探し、メル・ブルックスのブルックスフィルムズが引き受けたことで企画が動き直した。
本作は1985年1月、ロバート・ビアマンが監督する前提で英国の準備に入っていた。ビアマンが家族の悲劇で離れた時期に、先に日程の都合で断っていたデヴィッド・クローネンバーグが参加できる状態となり、後任に決まった。主要撮影は同年12月1日、クローネンバーグの拠点であるトロントで始まった。
デヴィッド・クローネンバーグは参加後、チャールズ・エドワード・ポーグと共同作業をせず、一人で脚本の人物、台詞、筋を大幅に書き換えた。ただし、セス・ブランドルの変身過程はほぼポーグ稿の構想を残したと説明している。ポーグも完成版を、自分の脚本と違いながら同じ骨格を持つ作品として評価した。
デヴィッド・クローネンバーグは、『ハエ男の恐怖』(1958)から受け継がれていた大仰な怪奇趣味と、ヴィンセント・プライスのカメオ出演案を脚本から外した。一方、旧作の広告でも広く知られた「Please help me(助けてくれ)」という台詞は本作へ残した。旧作への目配せを増やさず、一言だけを新しい悲劇へ移したのである。
AFIの制作史では、ジョン・マルコヴィッチとリチャード・ドレイファスがセス・ブランドル役を断った後、ジェフ・ゴールドブラムが起用された。ゴールドブラムは、顔を覆う特殊メイクで芝居が失われることを恐れず、メイクの段階ごとに声と身体を変える課題として引き受けた。
クリス・ウェイラスは1985年9月、約30人のチームで本作の特殊メイク準備を始め、10月にはジェフ・ゴールドブラムの身体と歯の型を取った。既製の怪物を俳優へ載せるのではなく、本人の骨格と歯並びから、変身の各段階を連続して見せられる造形を作った。
クリス・ウェイラスは、ジェフ・ゴールドブラムの目と口が特殊メイクの下でも動き、長い台詞を演じられることを優先した。顔を完全に隠す怪物へ急に替えるのではなく、本人の表情が残る範囲を段階ごとに狭めたため、観客は外見が崩れても同じ人物を追い続けられる。
最も大掛かりな段階の特殊メイクには、装着だけで約5時間かかった。ジェフ・ゴールドブラムは変形した歯の部品を持ち帰り、口の動きが制限された状態でも台詞が伝わるよう発声を練習した。長い準備時間の後に、声を失わず芝居を始めるところまでが役作りだった。
クリス・ウェイラスは、最後に俳優から人形へ替わっても同じ人物に見えるよう、ジェフ・ゴールドブラムの身体の動きを観察した。ゴールドブラムが変身の進行に合わせて加えた細かな痙攣を、操演スタッフが最終形態の人形にも移した。造形だけでなく、動きの癖を連続させて交代を隠したのである。
撮影監督マーク・アーウィンは、ホラーだからと全場面を暗くすると、本当に恐ろしい場面の効き目が弱くなると考えた。序盤のセスとヴェロニカは暖かく直接的な光で撮り、変身後はセスへの光だけを徐々に厳しくした。恋愛場面の見え方を先に作り、それが崩れる過程を照明で追った。
セスが壁から天井へ歩く場面では、ジェフ・ゴールドブラムを逆さに吊るしたのではなく、部屋のセットを観覧車のような大型回転枠へ載せた。カメラも約200度の曲線に沿って移動し、俳優とカメラの上下関係を保ったまま部屋だけを回した。照明は回転装置に映り込まないよう、鏡で光を送り込んだ。
終盤の大型造形物を動かすには、セットの下や周囲に最大約10人の操演スタッフと多数のケーブルが必要だった。撮影監督マーク・アーウィンは、上映画面に仕掛けが入らない位置を複数のフレームで確認し、ケーブルの影が床や壁へ出る硬い光を避けた。怪物を映す仕事と同じ量だけ、動かしている人を消す仕事があった。
本作の効果場面では、画面合成に有利な大判方式のVistaVisionも検討された。しかし撮影監督マーク・アーウィンは、本編と特殊効果の粒子や色の差が目立つことを避けるため、最終的に通常の35ミリフィルムへ統一した。高価な方式を選ぶより、俳優と造形物が同じ空間に見えることを優先した。
手術室のガラス壁は、俳優がぶつかって壊しても危険の少ない素材で作られ、横13枚、縦9枚のブロックとして組まれた。見た目だけの壁ではなく、どこから衝突しても予定どおり割れる大型の破壊用セットにしたことで、人物と壁を同じ画面で撮影できた。
テレポッドのコンピューター画面は当初、模型を撮影して作る案だったが、時間と予算を超えるため変更された。制作側はSynthaVisionという初期のデジタル映像システムへ手描きの質感を重ね、約10週間で表示画面を完成させた。機械の内部を実際に作らず、操作結果を画面の動きとして見せる方法へ切り替えたのである。
本作には、セスがヒヒと猫を一つの生物へ融合させ、その生物を自分で殺す場面が撮影されていた。試写では、その行為を見た観客がセスへ共感できなくなり、以後の悲劇が働かないことが分かった。制作側は特殊効果の完成度ではなく、主人公を最後まで追えるかを基準に場面を削除した。
セスが建物の外壁を登る削除場面では、高さ26フィート、幅40フィートの壁を45度に傾け、ジェフ・ゴールドブラムが安全具を付けて歩いた。同じ壁を飾り替えて二度撮影し、つなぐと6階分を登ったように見せた。大掛かりな実写撮影まで終えたが、身体から新しい脚が現れる内容を含め、完成版から外された。
監督の産婦人科医役は、プロデューサーの辞退で決まった。当初出演する予定だったプロデューサーのスチュアート・コーンフェルドが直前にためらい、クローネンバーグが代わりに入った。本人はこの出演を偶然の結果だと説明している。
本作は公開時代と身体の崩壊描写から、AIDSの寓話として広く読まれた。デヴィッド・クローネンバーグはその解釈を否定していないが、制作中に考えていたのは特定の感染症ではなく、誰にでも起きる老化と最終的な死だったと説明している。病気の種類を一つに固定しないため、恋人が変わっていく恐怖を普遍的な喪失として描けた。
デヴィッド・クローネンバーグは本作の音楽をハワード・ショアと話し合っていた時点で、これは一室に三人を置いた三角関係であり、舞台劇にもできると考えていた。二人はその発想を後年まで持ち続け、映画の物語をオペラ『ザ・フライ』(2008)へ作り直した。後付けの別企画ではなく、映画制作中に見えていた構造を舞台へ移したのである。
本作の特殊メイクを担当したクリス・ウェイラスとステファン・デュピュイは、1987年3月の第59回アカデミー賞でメイクアップ賞を受賞した。本作のアカデミー賞候補はこの部門だけで、そのまま受賞に至っている。
Box Office Mojoの現行集計では、本作は北米で4,045万6,565ドル、海外で2,017万2,594ドル、世界で6,062万9,159ドルを記録している。一方、The Numbersの海外集計はほとんど欠けているため、二つのデータベースを平均せず、地域内訳の揃うBox Office Mojoの値を採用した。
20th Century Studiosの日本版Blu-rayには、長編メイキング、削除場面、特殊効果テスト、脚本資料のほか、撮影専門誌American Cinematographerと特殊効果誌Cinefexの記事資料が収録された。完成版から外れた造形や撮影工程まで、公式映像ソフト側で追える構成になっている。
本作で特殊メイクを率いたクリス・ウェイラスは、その仕事ぶりをプロデューサーのスチュアート・コーンフェルドに評価された。コーンフェルドが監督候補として推薦した結果、ウェイラスは続編『ザ・フライ2 二世誕生』(1989)で長編監督デビューした。怪物を作った担当者が、次作では作品全体を指揮する立場へ移った。
「本作はAIDSの寓話として作られた」と断定する説明がある。だがデヴィッド・クローネンバーグは、AIDSとして受け取られたことは認めながら、制作中に考えていたのは誰にも起こる老化と死だったと話している。AIDSという読み方は成立しても、それを唯一の制作意図へ置き換えることはできない。
「ジェフ・ゴールドブラムが当時の恋人ジーナ・デイヴィスを相手役へ推薦した」という話がIMDbへ投稿されている。ところがAFIが引用する当時の取材では、ゴールドブラム自身がデイヴィスを提案したわけではないとされている。二人が交際中だった事実から、配役の因果関係まで補うことはできない。