1994年公開。刊行翌年のジョン・グリシャム作品を、アキヴァ・ゴールズマンとロバート・ゲッチェルが脚色し、ジョエル・シュマッカーがメンフィス周辺で映画化した。主人公には磨かれた子役より土地の言葉と生活感を持つ少年を求め、約6,000人から地元テネシー出身のブラッド・レンフロを選び、本作が映画デビューとなった。シュマッカーはスーザン・サランドンへ直接出演を懇願し、彼女は衣装や人物造形にも意見を出し、アカデミー主演女優賞候補となった。約4,500万ドルの製作費で世界興収は1億ドルを超えたが、最も大きな賭けは法廷セットではなく、無名の11歳へ映画の中心を預けたことである。
新人を探すため、キャスティング側は全米で少年を探し、ノックスヴィル警察のDARE担当デニス・ボウマンも候補写真を送った。そこで見つかった10歳のブラッド・レンフロは、現場へ入る時点で映画経験がほとんどなかった。警察経由で届いた一枚の写真から主演が決まったわけで、探し方まで一筋縄ではいかない。
ジョエル・シュマッカーがレンフロの才能を確信したのは、マークが車内で追い詰められる序盤の場面だったという。撮り終えると、この子は本物だと感じた趣旨を後年の取材で振り返っている。一日の撮影で決まった手応えが、映画初出演の少年に物語の重心を預ける後押しになった。これは早い確信だ。
ジョエル・シュマッカーはニューヨークの昼食中、スーザン・サランドンの前で膝をつき、レジー役を頼んだという。出演後のサランドンは衣装や初登場の振る舞いにも案を出し、監督はその自由度を受け入れた。主演女優の提案を役へ取り込む現場が、レジーの手強さにつながった。なかなか大胆な役づくりだ。
原作で舞台裏から動くロイ・フォルトリッグ検事は、映画ではトミー・リー・ジョーンズの出番を増やすために役割が広げられた。追跡劇の圧を前に出すための、脚本上の調整だったという。脇にいた検事を前へ出した脚本が、映画版を別のテンポで走らせている。ここが原作との差になる。
レジーの事務所は、メンフィスのステリック・ビルディングで撮影された。原作にもこのビルの所在地が書かれており、映画はそのまま実在のゴシック様式の塔を使った。小説の住所をそのままロケ地にするという選択が、街の手触りを残している。ここまで合わせると面白い。
シューマカーは『ザ・ファーム』が前年にメンフィスを撮っていたため、一度は同じ街での撮影をためらったという。だが『依頼人』にはもっと粗く切迫した世界が必要だと考え、最終的に制作側はメンフィスで約650万ドルを使った。同じ街の別の顔を探したロケが、前作との差を作った。ロケ地選びにも理由がある。
マークはレジーを雇う側として1ドルを差し出し、レジーも少年をただ守る対象ではなく依頼人として受け止める。二人の関係は、保護からでなく契約と駆け引きから始まる。たった1ドルの弁護士契約が、二人を対等な相手として結び付ける。ここが見返したくなる。
『依頼人』に満足したジョン・グリシャムは、次の映画化『評決のとき』でもジョエル・シュマッカーの起用を求めたと伝えられる。一本で得た信頼が、次作の監督人事にまで影響した形だ。作家から届いた再指名は、興行成績だけでは測れない評価だったのかもしれない。一本の仕事が次へつながる。
原作小説は刊行から1か月で200万部が刷られ、その時点で映画化契約まで決まっていた。『依頼人』は翌1994年には公開され、ベストセラーを待たずにスクリーンへ走った。刊行直後に決まった映画化という速度に、当時のグリシャム人気の勢いがそのまま出ている。
マークたちが運び込まれる病院は、実際にはメンフィス地域医療センター「The Med」だった。映画ではここへエルヴィス・プレスリー棟という呼び名を足し、メンフィスらしさを一段濃くしている。実在の病院を少しだけ映画仕様に変える手つきが面白い。
ブラッド・レンフロが撮影中の誕生日に初めてのエレキギターを贈られた、という逸話がある。気の利いた現場話だが、写真や当事者の確かな証言までは確認できない。今のところ、話半分で受け取るのがよさそうだ。