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2009年公開。J・J・エイブラムスは長く続いたシリーズを若い新キャストで再起動しつつ、旧作の歴史を消さずに別の時間軸へ分岐させることで、古参と初見客の双方を映画館へ呼び戻そうとした。撮影監督ダン・ミンデルとは35ミリのアナモフィック撮影を選び、CG一辺倒にせず、照明をレンズへ直接当てて大量のフレアを発生させるなど、未来世界に物理的な手触りを持たせた。エンタープライズの機関室にはセットではなくカリフォルニアのビール工場を使い、当初2008年末だった公開も、完成への不安ではなく夏興行への期待から2009年5月へ移された。約1億4,000万ドルの製作費に対し世界興収は約3億8,700万ドルとなった。半世紀級の宇宙船を若返らせる処方箋が、ビール工場とレンズの反射だったのだから、未来は案外アナログである。
2009年版『スター・トレック』は、旧作をなかったことにする単純なリメイクではない。時間改変で物語を分岐させ、若いクルーの物語を新しい時間軸として始めている。
レナード・ニモイはSpock Primeとして2009年版に参加している。新キャスト中心のリブートに旧シリーズ本人が現れることで、作品全体に過去作との橋が一本通る。
画面を横切る大量のレンズフレアは、偶然映り込んだ光ではない。撮影監督ダン・ミンデルとJ.J.エイブラムスは、未来感を出すためにレンズフレアを視覚モチーフとして設計していた。
本作は宇宙船や未来都市の映画なのに、土台にはかなり現実の場所が使われている。巨大格納庫、工業施設、球場の駐車場までが、画面上では未来世界の一部に変換されている。
本作のVFXでは、ILMが約1000ショット中850ショットを担当したとされる。惑星崩壊の場面では、新しい破砕システムまで投入され、宇宙破壊の裏で分解シミュレーションが走っていた。
宇宙戦シーンは、撮影前にすべて固まっていたわけではない。編集段階でJ.J.エイブラムスの判断が入り、ILMは一部の終盤ショットをほぼ一から再設計することになった。
マイケル・ジアッキーノの音楽は、107人編成オーケストラと40人合唱で録音されたとされる。さらにヴァルカンの感触を出すため、弦楽の中にエルフーの異質な音色が混ぜられている。
音響担当ベン・バートは、宇宙船の機械音をただの電子音にしようとはしなかった。旧シリーズのように、ボタンや装置が少し歌うように聞こえる感触を取り戻そうとしていた。
新Uhura役のゾーイ・サルダナは、旧Uhura役ニシェル・ニコルズと撮影現場で長く話している。新旧の演者の対話が、後半のUhuraに微妙な変化を与えた可能性がある。
小柄なKeenserが終盤でエンタープライズにいるのは、ただの背景小ネタではない。制作側が彼を惑星に置き去りにするのが気の毒だと感じたことから、次作にもつながる立場が膨らんだ。
劇場版だけを見ると、悪役Neroが長い年月をどう過ごしたのかはかなり省かれている。削除シーン群には、その20年以上の空白を補う素材が含まれていた。
KirkのKobayashi Maru攻略は、劇場版ではさらっと見えるが、削除シーンではGailaとの関係がもう少し露骨に関わっていた。天才的な突破というより、口説き落とし込みのズルとして見える構成だった。
KirkがDelta VegaでSpock Primeに出会う流れは、あまりに都合よく見える。削除素材では、その偶然を宇宙の均衡で説明しようとしていたが、公開版では理屈より宿命性が残された。
Chris Pineは後にKirk役として定着したが、最初のオーディションは本人の記憶ではかなり手応えが悪かった。SF用語だらけの芝居に乗り切れず、二度目の機会で流れを変えたという。
Tyler Perryの出演は、ただの有名人カメオとして片付けると少し浅い。J.J.エイブラムスは彼の作り手としての力に惹かれており、その関心が出演依頼の入口になった可能性がある。
ビースティ・ボーイズの曲が未来世界で古典のように使われるのは、2009年版らしい遊びだ。Kirkの反抗心を、SF用語ではなく古いロックのノリで見せている。
Chris Hemsworthは、冒頭でKirkの父Georgeを演じて強い印象を残す。出演時間は長くないが、後のスター性を知ると、2009年版の始まりは豪華すぎる序章に見える。
USS Kelvinの名前は、冒頭で破壊される船名にとどまらない。2009年版以降の分岐世界はKelvin timelineとも呼ばれ、船名がシリーズ再出発の時間軸の名前にまで広がった。
自動ドア音には、ロシアの列車トイレ由来の音が使われたという説がある。だいぶ面白い音響トリビアだが、強い一次確認は弱く、現時点では出どころ注意の小ネタとして扱いたい。
Scottyが触れる「Admiral Archerのビーグル」は、旧シリーズへの目配せとして語られやすい。ただし、その犬が本当に同じ存在なのかは揺れがあり、ファン向けの連続性ネタとして慎重に扱いたい。
新エンタープライズ号の全長は、資料によって数字が揺れるとされる。制作途中のスケール調整や資料差が混ざった可能性があり、巨大船の設定にもサイズ表記の混線が起きている。
2009年版を「旧シリーズへそのまま続く前日譚」と説明すると、けっこう誤解を招く。本作は時間改変で分岐した物語であり、旧作の若い頃をそのまま描く一本道の前日譚ではない。
Uhuraのファーストネーム「Nyota」は、2009年版で初めて劇中ではっきり使われた重要な名前だ。ただし、名前そのものがこの映画で新規発明されたわけではなく、劇中初明示と考案時期は分けて見る必要がある。