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2019年公開。ジョン・ワッツは前作の学園映画を、今度は「高校生の休暇映画へジェームズ・ボンド映画が割り込む」欧州周遊型の続編へ変えた。美術班は約10か月を欧州で過ごし、実際のヴェネツィアやプラハを調査する一方、リーヴスデンのバックロットには約125人が参加して運河や市場を含むヴェネツィアの街区を作り、出演者によってはロンドンから出ずに欧州場面を撮り切っている。タワーブリッジで主要キャストを撮影できたのは一朝だけで、残りは精密なセットとVFXでつないだ。世界旅行を売りにした映画ほど、俳優は巨大スタジオから一歩も出ず、美術スタッフだけが先に国境を越えていることがある。
ジョン・ワッツが欧州旅行編を思いついたのは、ローマの屋上で街を背に立つスパイダーマン姿のスタントマンを見たときだという。クイーンズのご近所ヒーローを歴史都市へ置く絵が、そのまま続編の出発点になった。屋根の景色まで企画書だったらしい。
ヴェネツィアでは実景ロケをしたが、リアルト橋を壊すわけにはいかない。英国に橋を三つに分けた部分セットを作り、ゴンドラや水上タクシー、海藻まで運び込んだという。本物の運河と壊せる偽物が、ひと続きの街になる。
火のエレメンタルが襲うプラハの祭りは、実際には約100キロ離れたリベレツ中心広場で撮られた。屋台、観覧車、回転木馬を持ち込み、数週間かけて祝祭の街を組み立てたという。都市名より撮影しやすい広さを選ぶ、映画らしいすり替えだ。
ピーターたちが帰国するニューアーク空港は、ロンドン・スタンステッド空港を化けさせた場所だ。黄色いタクシーや標識だけでなく、ごみ箱の中身まで米国風に入れ替えたという。背景の国籍は、目立たないごみで決まる。
『ファー・フロム・ホーム』には、約2200のVFXショットが使われた。怪物や幻覚だけでなく、欧州の街、群衆、ドローン、衣装の焦げ跡まで複数の会社が分担したという。派手な見せ場の裏で、旅行映画全体を接着している。
ミステリオがピーターを追い込む幻覚戦は、約150ショットの大規模シークエンスだ。早期試写で特に好評だったため、公開約4か月前に短くするのでなく、さらに長く強く組み直したという。観客の反応が、悪夢を増築してしまった。
ヴェネツィア戦は、すべてをCGにしたわけでも本物の運河だけで撮ったわけでもない。水槽セットで俳優へ当たる実用効果の水を撮り、巨大な波や怪物の部分をデジタルで足した。濡れ方が本物だから、あり得ない水塊にも重さが出る。
ロンドン決戦のタワーブリッジは、写真を貼った背景ではない。実物を大量撮影したフォトグラメトリーデータから橋を再構築し、群衆、火災、破片まで追加したという。観光名所を、カメラがどこへ飛んでも壊せる都市へ変えている。
黒いステルススーツは、頼りない急造品に見えるよう現実的な布地で作られた。ニット帽のようなマスクまで実物の質感を残し、会話場面では目以外を大きくデジタル補修する必要がほとんどなかったという。しわまで役柄の一部だ。
戦いのあとに見える赤黒スーツは、撮影時から傷んでいたわけではない。トム・ホランドは無傷の実物衣装を着て演じ、完成版で焦げ、裂け、溶けを含む全身デジタル衣装へ置き換えたという。ダメージまで撮影後に演出できる。
ミステリオの実写化で難しそうなのは、頭を覆う大きな魚鉢型ヘルメットだ。開発チームは避けるのでなく、古典的ヒーローの大げささとして中心に残した。マントも発光も少し作りすぎに見えるから、役の胡散臭さが立ち上がる。
コミックのミステリオは特殊効果とスタントの知識を持つ人物だった。本作では、元スターク社員のチームがドローン、脚本、衣装、効果音まで分業して偽の英雄映像を作る。VFX映画の悪役が、映画の中でもVFXの現場を率いている。
予告編で大きく使われたレストラン戦闘は、撮影途中で捨てられた場面ではない。VFXチームが完成済みアクションまで仕上げたが、欧州旅行へ出発するまでを急ぐため本編から外れたという。出来の良さより映画の呼吸が勝つ。
ジェイ・ケイ・シモンズがJ・ジョナ・ジェイムソンを再び演じる場面は、最初から大規模撮影に組み込まれていたわけではない。編集が進んでから決まり、専用セットではなくオフィスでニュース映像を撮ったという。シリーズ級の驚きが、机とグリーンバックから生まれた。
劇中のドローンは偽映像と攻撃を支えるが、現実の撮影でも空撮カメラとしてのドローンが使われた。欧州の屋根、広場、運河を滑るように記録できるからだという。映画の中では現実を偽る目、映画の外では本物の街を撮る目だった。
赤黒スーツは機械から完成品を受け取るだけの衣装ではない。ピーターが色、機能、ウェブの仕様を自分で選び直す場面として作られた。誰かの後継者ではなく、自分のスパイダーマンを決める瞬間だ。
チューリップ畑を草地から作り、約200万本のデジタル花を足したという話がある。だが撮影地には英国説とチェコ説があり、数字の根拠も確定していない。きれいな数字ほど、まず裏取りしたくなる。
ジェイソン・モモアがクレイヴン役を断り、敵がミステリオへ変わったという話がある。だが正式な交渉記録や本人証言は確認できない。豪華な名前ほど、ファンの理想配役と混ざりやすい。
マット・デイモンへ悪役出演を頼み、断られたという話が残る。ところが役名も交渉時期もないうえ、本人や制作陣の証言にもたどれない。名前だけが残る配役説は、いちばん慎重に読みたい。