『海と毒薬』(1986)の主演は、奥田瑛二の後ろ姿で決まった
『海と毒薬』(1986)の主演を選ぶとき、熊井啓監督が確かめていたのは、奥田瑛二の後ろ姿でした。 しかも奥田本人は、その場がオーディションだとは思っていませんでした。[1]
・面接が終わっても、監督は見ていた
奥田は、出演がすでに決まり、顔合わせに行くのだと考えていました。ところが会ってみると、熊井は頭から足元まで黙って見つめ、しばらくして礼を言うだけ。台詞を読ませることもなかったと、奥田は2019年の対談で振り返っています。[1]
奥田が部屋を出て、事務所の社長と長い廊下を歩いていると、背後に気配を感じました。振り返ると、熊井がまだ見ていたのです。帰宅後、主演決定の連絡を受けて、奥田は初めて、あのときはまだ決まっていなかったのかと驚きました。[1]
後日、熊井が説明したのは、打ちひしがれた主人公が駆けて逃げる場面でした。立ち去る奥田の背中が、その人物の姿になるかを見ていたのです。台詞の巧さとは別に、画面へ背を向けたとき、その役に見えるかを確かめる選考でした。[1]
本人が面接は終わったと思ったあとも、映画の主人公を探す監督の視線は続いていました。 奥田にとって、熊井作品への出演は、そうした意外な選ばれ方から始まっています。[1]