『ペイバック』監督版はなぜ10分短い? 足すより入れ替えた別の第三幕
『ペイバック』の監督版『Straight Up』は、劇場版に削除場面を足した長尺版ではありません。劇場版より約10分短く、第三幕の組み立てそのものが違います。[1][2]
同じ俳優と同じ素材が多く使われていても、何を抜き、何へ入れ替えるかで、主人公の印象まで変わっています。
・ボスは、画面に出る男から電話の声へ
劇場版ではクリス・クリストファーソンが組織のボス、ブロンソンを演じます。監督版では、その人物は女性で、姿を見せず、サリー・ケラーマンの声で登場します。ボスの息子の誘拐をめぐる展開も、監督版にはありません。[2]
顔を見せる大きな悪役と対決させるのか、声だけの組織の上層へ近づいていくのか。同じ「金を取り返す」という行動でも、後半を支える仕掛けが変わる部分です。
・軽く語らせる声も、取り除いた
監督版では、メル・ギブソンによるナレーションもなくなっています。Slantの版比較では、劇場版に加えられた語りが、説明と軽い調子を足す役割を持っていたと分析されています。[2]
一方、監督版にはポーターが妻へ暴力を振るう場面が戻りました。[2] 主人公を応援しやすくする変更を外すと、残るのは必ずしも愛嬌のある悪党ではありません。上映時間の差だけでは分からない、人物の扱いの差です。
・監督版を作るには、ギブソンの協力も必要だった
ブライアン・ヘルゲランドは、当初、求められた撮り直しを断って作品から外されました。後年、自分の版を出したいとギブソンへメールを送ると、15分ほどで賛成の返事が届き、翌日にはギブソンがパラマウントへ必要な協力を求めてくれた、と振り返っています。[3]
監督の手元のVHSをそのまま発売したわけでもありません。ヘルゲランドは必要な素材の大部分を見つけ直し、新しい版へ組み直しました。[3]
「監督版だから長いはず」という見方では、この二本の違いは捉えにくいかもしれません。足した場面以上に、何を外して、どんな終わり方へ戻したかを比べる映画です。