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機動警察パトレイバー 劇場版を配信で見られるサービスを、確認できた範囲で掲載しています。未確認のサービスは公式サイトで探せます。
1989年公開。1988年に始まったOVAシリーズから進んだ劇場版第1作で、ヘッドギア原作、伊藤和典脚本、押井守監督という体制で制作された。企画側は「娯楽の王道」「泉野明と篠原遊馬を活躍させる」「レイバー同士を戦わせる」という三つの条件を掲げたが、押井は予算と日程を埋めるために用意した松井刑事の静かな捜査場面を、ロケハンの途中でアクション以上に映画的だと考えるようになった。動画を滑らかに描こうとして作業が遅れたため、作画監督の黄瀬和哉は1コマ・2コマ中心だった動きを3コマ打ちへ変更し、結果として嵐や機械の動きに重さが生まれた。終盤の零式との一騎打ちは製作側の要望で追加されたが、そのための作画枚数は当初の割り当てになく、現場は娯楽映画の約束を文字どおり後付けで守ることになった。尺稼ぎとして始めた捜査劇が作品の個性となり、予算不足まで演出方針へ昇格させたあたり、現場の帳尻合わせも使い方次第では作家性になるのである。
初期OVAの成功が劇場版を生んだ。最初のOVA6本が、当時の平均より大幅に安い4800円という価格と内容の評価でヒットし、その実績を土台にテレビシリーズより先に完全新作の劇場版が動いた。家庭用ビデオで育った企画が、いきなり大画面へ飛び出した転換点なのである。
劇場版を組み立てる際には、「娯楽の王道」「遊馬と野明が活躍」「レイバーの敵はレイバー」という三つの方針が置かれた。ところが押井守は東京中をロケハンするうちに静かな捜査劇へ惹かれ、当初の約束を忘れていったと回想する。完成作が活劇と都市映画の間で独特に揺れるのは、企画の条件と監督の興味が同じ一本に残ったからである。
松井刑事の捜査は「尺と作画」を救うために生まれた。押井守は、予算が少なく活劇だけでは完成しないため、静かなサスペンスで尺を確保する必要があったと回想する。ところが東京中をロケハンしたことで、その省力化が都市の記憶を映す映画の核へ育ったのである。
松井刑事の捜査場面は省力化から始まったが、東京中をロケハンするうちに押井守自身がその魅力へ取り込まれた。監督は「映画好きならこちらの方が面白い」と感じ、当初の三条件を忘れたと振り返る。帆場を追う線が、再開発で姿を変える東京そのものを追う映画へ変わったため、事件が終わっても街の記憶が残るのである。
押井守の構想では、映画は方舟が崩れたところで終わるはずだった。だが脚本の伊藤和典は、帆場を「いなかったこと」にしてよいかという案へ絶対に駄目と反対し、観客が最後の音楽とともに映画館を出られる結末を求めた。派手な崩壊の後に帆場の意志をもう一度感じさせるため、勝利の爽快感だけでは終わらない。
動かす場面と止める場面を極端に配分した。押井守は、作品全体の作画枚数は驚くほど少ない一方、本来2コマでよいところを1コマで描いた場面もあり、ほとんど動かない場面も多いと振り返る。静かな捜査で時間をため、方舟で一気に動きを放出する配分が、予算の不足を映画のリズムへ変えている。
完成作の落ち着いた画面からは、熟練者だけの現場を想像しやすい。だが押井守によれば、制作スタッフの多くは20代後半で、厳しい条件を若さで踏ん張れた面があったという。限られた枚数をどこへ集中するか試行しながら、後の『パトレイバー2』や『攻殻機動隊』へつながる都市とレイアウトの方法を、若い現場が作り上げたのである。
劇場版制作中にテレビ版の開始が決まった。制作中の5月に10月放送開始のテレビシリーズが決まり、HEADGEAR側は「今ではない」と強く反発したという。映画の低予算と厳しい作画配分の裏では、数か月後に始まる長期シリーズの準備まで同時に動いていた。1989年の急速な展開そのものが、作品の勢いと現場の負荷を生んだのである。
サウンドリニューアル版はほぼ再アフレコした。押井守によれば、電話や無線を含めてほとんど全編を再アフレコし、一部のレギュラー台詞も録り直した。映像は同じでも、声優の演技と音の距離感が公開時とは変わるため、二つの版を聴き比べると映画の温度まで違って感じられる。
1989年版の制作を追う新しい手掛かりが、2026年の4Kリマスター版に加わった。音声特典には、HEADGEARのゆうきまさみ、伊藤和典、出渕裕がそろう新録コメンタリーを収録している。原案・脚本・メカデザインの立場から同じ映画を37年後に見直すため、初期企画や記憶の食い違いを確かめる一次資料としても価値が高い。
泉野明の名がノアに似ていたため、押井守が方舟、バベル、エホバなどの聖書要素を物語へ広げたという話がある。ただし、出どころまでたどれる当事者の証言や制作資料は見つかっていない。そんな経緯があったのなら面白いが、今は可能性の一つとして見るのがよさそうだ。
約1時間25分、篠原遊馬の背後にある画面へ“OMG”と表示されるという指摘がある。高精細版で確認できる可能性はあるが、背景モニターの文字を説明する制作資料は見つかっていない。ソフトを持っている捜査員は、該当場面を一時停止し、この指摘が画面と一致するか確かめてほしい。
方舟崩壊後に残る構造が六芒星を形成し、聖書・宗教モチーフの一部だというファン観察があるという話がある。ただし、本人や現場関係者の証言、制作時の記録は確認できない。そう考えると筋は通るが、今のところは決めつけない方がよさそうだ。