『お引越し』(1993)は、絵コンテなしで一つのショットから場面を育てた
『お引越し』(1993)は、絵コンテを用意せず、一つのショットを作るところから場面を育てていった映画です。 撮影監督の栗田豊通は、2023年の4K修復版に寄せた文章で、その撮影を振り返っています。[1]
・次に撮る画面を、現場で見つけていく
絵コンテは、撮る画面や順番を絵で示す設計図です。ところが栗田が語る現場では、それを再現する作業から始めるのではありませんでした。まず一つのショットを作り、そこから次のショットが生まれ、一つの場面になっていく。映画全体は、そうしてできた場面の集まりだったと説明しています。[1]
設計図がないから、撮影監督が何も考えなくてよかったわけではありません。栗田は、相米慎二と働くには、映画の考え方や映像の手がかりを探すために、いっそう力を尽くす必要があったと回想しています。[1]
ショットを撮り終えると、相米は、本当にこれでよいのかとスタッフ自身へ問い返すようにつぶやいたそうです。栗田は後に、それがスタッフからさらによい仕事を引き出す方法だったと受け止めました。監督が先にすべての答えを描くのではなく、撮る側にも答えを求める。 あの複雑な場面づくりを、撮影を担った本人はそう振り返っています。[1]