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1983年公開。イオン版007の第13作で、同年にはショーン・コネリーを復帰させた非イオン作品『ネバーセイ・ネバーアゲイン』も控えており、製作者側はロジャー・ムーアを引き留めて「ボンド対ボンド」の興行戦へ備えた。インドのウダイプル周辺で大規模ロケを行い、宮殿や市街地を使った追跡場面では、撮影隊を無視して走り込んだ現地の自転車まで完成版へ残った。空中スタントには実機とスタントマンを投入し、冷戦スリラーと見世物性を一作へ押し込んだ。結果は競合作より先に公開され、世界興行でも上回った。諜報戦を描くシリーズが、1983年だけはスクリーン外で元祖俳優との市場争奪戦まで演じていたのである。
モード・アダムスは『黄金銃を持つ男』に続き、本作で別キャラクターのオクトパシーを演じた。主要なボンドガールとして二度目の大役を任された、シリーズでもかなり珍しい例だ。
インドロケでは、ウダイプルのモンスーン・パレス、レイク・パレス、ジャグ・マンディルなどが使われた。豪華な宮殿群を組み合わせることで、カマル・カーンの拠点は本当に観光地にある異世界のように見える。
プレタイトルでボンドが飛ばす小型ジェットは、Bede BD-5J系の小型機として知られる。格納庫を抜ける見せ場は、ボンド映画らしい誇張をしつつも現実に存在する小型ジェットの奇妙さを使ったアクションだ。
劇中でカール=マルクス=シュタット周辺に見える鉄道場面は、イギリスのネネ・バレー鉄道でも撮影された。冷戦下のヨーロッパらしい画を、英国の保存鉄道も使って作っていたのだ。
インドでの撮影中、スタッフやロジャー・ムーアの体調管理には苦労があったとされる。豪華な宮殿ロケの裏側では、食事と体調の問題もかなり現実的な敵だった。
『オクトパシー』という題名はイアン・フレミングの短編に由来するが、映画本編は別短編「The Property of a Lady」などの要素も混ぜている。タイトルの印象に反して、物語は複数の原作断片から組み直された。
1983年は、非EON製作の『ネバーセイ・ネバーアゲイン』も公開された年だ。ロジャー・ムーア版とショーン・コネリー復帰作が並ぶ、ボンド映画同士の興行対決が起きた珍しい年だった。
『オクトパシー』は題名のインパクトだけで珍作扱いされることがある。しかし実際には冷戦・美術品密輸・核爆弾の話が絡むため、ネット上の雑な印象だけでは作品の中身を説明できないタイトル先行の誤解も混じっている。
『007/オクトパシー』の撮影は、ボンドがチェックポイント・チャーリーに到着する場面から始まった。インドの宮殿映画の印象が強いが、入口には冷戦下ベルリンの空気も刻まれている。
ウダイプル撮影では、カマル・カーンの宮殿だけでなく、ボンドの宿泊先にもシヴ・ニワス・パレスが使われた。豪華なロケ地を複数組み合わせ、インド編全体を宮殿づくしにしている。
オクトパシーの宮殿場面には、レイク・パレスやジャグ・マンディルが使われている。水上に浮かぶような建築が、密輸組織の幻想的な拠点という印象を強めている。
インドとベルリンの印象が強い本作だが、英国ではRAFノースホルトやRAFアッパー・ヘイフォードなどの空軍基地も使われた。国際ロケの裏で、軍用施設の画作りも支えている。
本作の脚本には、『フラッシュマン』シリーズで知られるジョージ・マクドナルド・フレイザーが参加している。植民地冒険小説的な軽妙さと、インドを舞台にした冒険味の一部はそこから来ている。
『オクトパシー』はロジャー・ムーアにとって6本目のボンド映画だ。シリーズの顔としてかなり長く走ってきた時期の作品で、ベテランボンドの軽さが全編に出ている。
カマル・カーンの宮殿として出るモンスーン・パレスは外観ロケに使われたが、食事や階段、地下の場面は実際の内部ではないとされる。観光名所の姿と、映画用セットの内部がつながって見える作りだ。