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2024年10月11日公開の本作は、室井慎次を中心に据えた二部作の前編であり、本広克行が監督を務めた。企画は2022年末、君塚良一が亀山千広へ「室井の物語の最終章」を作りたいと送ったメールから動き出したと、両者が後年の対談で振り返っている。本広は最初、雪国を舞台にした重いドラマだと受け止めて断ったが、新しい登場人物と擬似家族という着想に可能性を見いだして参加した。二部作の撮影では新潟で見つけた一軒家の借家人が約4か月ホテル暮らしとなり、室内はセット、バルコニーや作業小屋は美術、窓外の景色はCGで補った。本作を含む二部作の最初の撮影は、2024年3月の秋田の海辺だった。東宝の2026年2月期中間期資料では本作の興行収入は19.2億円で、雪景色の静けさの裏では、家一軒とCGと長期の退去調整がきっちり働いていたのである。
本作を含む二部作の企画は、2022年末に脚本家の君塚良一がプロデューサーの亀山千広へ送った一通のメールから動き始めた。君塚は室井慎次の物語の最終章を書きたいと伝え、亀山、君塚、監督の本広克行という組み合わせで再び作ることを提案した。製作側が先にシリーズ復活を決め、脚本家へ依頼した順序ではない。
柳葉敏郎は室井役へ戻りたくなかった。脚本家の君塚良一は、室井の物語を最後まで描くことで柳葉をこの役から解放したいと考えていた。柳葉は二部作を室井慎次の最終章として受け止め、再び演じることを決めた。
本広克行は最初の脚本を読み、雪国で静かに暮らす室井慎次の物語は、自分の得意な演出と合わないと考えて監督を断った。プロデューサーの亀山千広と話し合い、脚本家の君塚良一がヘリコプターや車など現場を動かせる要素を加えたことで、本広は撮影の形を思い描けるようになり、監督を引き受けた。
静かな主人公の笑いを子どもたちへ任せた。本広は、室井と暮らす子どもたちの動きや反応を使い、物語の重さを壊さない程度の笑いを場面へ入れた。子どもたちは設定上の同居人であると同時に、寡黙な主人公の周囲へリズムを作る役割も担った。
本作を含む二部作で室井慎次が暮らす家は、新潟で見つけた実在の家屋を外観に使った。撮影期間中、住人は約4か月ホテルへ移り、美術班がバルコニーと作業小屋を追加した。室内は別に作ったセットで撮影し、窓から見える景色をCGで新潟の風景へつないでいる。一軒の家に見えるが、実景、美術、セット、CGを組み合わせた場所だ。
室井慎次の家には、本作のために作られたウイスキーのラベルが置かれている。美術班は厚岸ウイスキーを手がかりに架空の銘柄をデザインし、室井が使う作業場は『グラン・トリノ』(2008)に登場するガレージを参考にした。台詞で過去を説明しすぎず、小道具と部屋から引退後の生活を見せるための美術設計だった。
日向杏を演じた福本莉子は、母親の日向真奈美と血のつながりが感じられる人物にするため、過去のシリーズ映像を見て表情や気配を研究した。本広克行は撮影時、杏が動物を見るように相手を観察する視線を求め、福本に複数の演じ方を試させた。過去の映像を再利用するだけでなく、新しい人物の演技を組み立てる資料にもしている。
本作を含む二部作の最初の撮影は、2024年3月に秋田の海辺で行われた。柳葉敏郎は約4か月の撮影を、故郷や母校に近い地域で過ごしたと振り返っている。室井慎次が警察組織を離れて秋田で暮らす物語を、演じる柳葉自身の出身地に近い場所から撮り始めたことになる。
五時間のプロットを二本の映画へ分けた。脚本家の君塚良一はBSフジ向けの連続ドラマも想定し、初期プロットは約5時間分に達した。フジテレビと東宝は、警察を辞めた室井慎次の現在と物語の結末を約2時間へ収めるのは難しいと判断し、約2時間ずつの映画二本を1か月未満の間隔で公開する形にした。
本作の「敗れざる者」という題名は、室井慎次が主人公だった『容疑者 室井慎次』(2005)の「者」を受け継いでいる。亀山千広は二部作にすると決めた段階で、警察を辞めて挫折感を抱える室井が、それでも壊れてしまわないでほしいという願いを「敗れざる者」へ込めた。題名は完成後の宣伝会議で付けたものではなく、初期プロットの段階から物語の主題として置かれていた。
柳葉敏郎は室井慎次の像を守るため、約27年間、室井と重なりやすい役を意識して避けていた。製作側によると、柳葉は刑事、反社会勢力、強烈な犯人の役を断り、スーツやスリーピース、オールバックの髪型も避けていたという。一つの人気役を守る判断が、シリーズ外で受ける役柄や外見にまで影響していた。
柳葉敏郎とプロデューサーの亀山千広は、室井慎次をどう終わらせるかという細部まで譲らず、話し合いが一度決裂しかけた。亀山が企画をやめようと口にすると、柳葉もやめると答えて席を立った。しかし翌日、柳葉は出演すると返答し、亀山も衣装合わせで謝罪した。軽い宣伝上の迷いではなく、長年演じた人物の扱いを確認した末の参加だった。
死体発見現場の立入禁止テープを前に、柳葉敏郎は、警察を辞めた室井慎次が自分から中へ入るのは人物として不自然だと指摘した。そこで乃木と緒方が室井をテープの内側へ連れ込む動きへ変えられ、完成版では警察官時代の癖と現在の立場がぶつかる、笑いとも緊張とも取れる芝居になった。俳優の人物理解が、場面の動線を直接変えている。
家の修復方法は美術担当者が考えた。美術を担当した相馬直樹が、はがれた土壁を塗る、へこんだ土間の上がりを直す、キッチンの壁へタイルを貼るといった作業を提案した。古い家へ無骨なステンレスの流しや新しい照明を混ぜ、洗練より実用を選ぶ室井の性格と、新しい生活を始めようとする気持ちを室内に表した。
物置を家へ近づけるため土手を削った。本広克行は前編の重要場面で物置を室井の一部のように見せるため、家へ可能な限り近づけるよう美術班へ求めた。相馬直樹らは図面を何度も描き直し、家の隣の土手を重機で削って土地を平らにしてから、物置を建てた。短い距離を作るために、ロケ地そのものの地形まで整えている。
タカ役の齋藤潤は、「踊る」シリーズの新作だと知らされないまま、指定された一場面だけでオーディションを受けた。齋藤は短い場面から、タカには強い責任感だけでなく、母親の死に対して自分がもっと何かできたのではないかという怒りもあると読み取った。作品の知名度や過去作の物まねではなく、初見の脚本から人物を立ち上げられるかを試す選考だった。
東宝の業績資料では、本作の興行収入は19.2億円と記録されている。後編『室井慎次 生き続ける者』(2024)の17.3億円とは別の作品として集計されており、二部作を合わせた数字ではない。製作費は確認できないため、この興行収入だけから採算までは判断できない。