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2016年公開。ジョン・マスカーとロン・クレメンツは西洋人の文学や絵画から得た南太平洋像だけでは不十分だと考え、2011年以降フィジー、サモア、タヒチなどを訪ね、航海士、言語学者、考古学者、振付家らの助言を受けた。制作中にはオセアニア文化トラストを組織し、約5年にわたり物語、言葉、踊り、身体表現を照合し、脚本は複数回作り直された。企画初期は半神マウイを中心にする案もあったが、調査で知った航海文化を軸に少女モアナの物語へ転換した。文化監修を置いたこと自体は重要な前進だが、多様な島嶼文化を一つのディズニー世界へ束ねる仕事には、航海図より複雑な責任がついて回ったのである。
欧州の一部地域では、主人公の名前も映画タイトルもVaianaに変更された。イタリアではさらに『Oceania』として公開され、同じ映画なのに国によって題名の印象がかなり違う。
欧州タイトル変更は、主に商標上の事情が理由だとされる。日本語タイトルだけ見ていると気づかないが、海外版では作品名そのものが別物に見えるケースがある。
イタリアでは『Moana』ではなくOceaniaとして公開された。商標問題に加え、同名の著名人を連想させないためだったとも語られるが、ここは複数の説明が混ざりやすい話だ。
制作陣はフィジーやサモアなどを巡るリサーチ旅行の中で、現地の専門家を集めたオセアニア・ストーリー・トラストを結成した。文化描写を何年も相談しながら、物語やデザインを練り上げたとされる。
監督たちは企画初期にポリネシア各地を調査し、海を越えてつながる文化や航海術を学んだ。結果として、単なる冒険譚ではなく航海を取り戻す物語へ重心が移っていった。
マウイは初期デザインでは、今より短髪または髪のない姿も検討されていた。文化監修側から髪は力を示す大事な要素だと指摘され、最終的に長い髪を持つマウイへ調整された。
企画初期の『モアナ』は、半神マウイを軸にした「トゥルー・グリット」風の相棒ものとして何度も組み直されていた。試行錯誤の末に、少女モアナの視点を中心にする現在の形へ落ち着いたと語られている。
クライマックス直前にマウイが一度いなくなる構成は、モアナが自分の判断で最後の局面に立つための脚本上の選択だ。相棒の力ではなく、モアナ本人が物語を解く形にするためだった。
モアナ役のアウリイ・クラヴァーリョは、何百人もの候補の中で最後にオーディションを受けた一人だったとされる。本人は最初から積極的に応募したわけではなく、偶然の発掘に近い形で主役にたどり着いた。
アウリイ・クラヴァーリョは、まだ14歳の高校生だった時期にモアナ役へ抜擢された。大作アニメの主役としてはかなり若く、等身大の声が作品の新鮮さにつながっている。
ドウェイン・ジョンソンは、マウイの存在感に祖父ピーター・メイヴィアの面影を重ねて語っている。筋肉やタトゥーだけでなく、家族の記憶がキャラクターの説得力にもつながっている。
本作の海は背景ではなく、意思を持つ存在として振る舞う。技術チームはリアルな水の動きに加え、感情が伝わるようにキャラクターとしての海を作る必要があった。
海や波の表現では、最大で7万6000コア規模の計算資源が使われたと報じられている。南国の海が軽やかに見える裏で、かなり重いシミュレーションが走っていた。
マウイの長くカールした髪は、文化的には大事でもCG的にはだいぶ厄介な要素だった。風、海水、激しい動きに合わせて揺れる大量の髪を、画面ごとに破綻させず動かす必要があった。
マウイの体に動くタトゥーとして登場するミニ・マウイは、紙に描いた手描きアニメをスキャンしてCGの体に貼り込むハイブリッド手法で作られた。CG長編の中に、昔ながらの線の芝居が入り込んでいる。
音楽はリン=マニュエル・ミランダ、オペタイア・フォアイ、マーク・マンシーナという異なる背景の作り手が合流している。ブロードウェイ調、南太平洋の響き、映画音楽が混ざることで、一枚岩ではない音になっている。
「You're Welcome」は、マウイが自分の武勇伝を一気にまくしたてる自己紹介ソングだ。ドウェイン・ジョンソンのスター性をそのまま使い、神話の英雄を陽気な自慢屋として観客に覚えさせている。
タマトアの「Shiny」は、作曲者がデヴィッド・ボウイらの影響を意識して作ったグラムロック風のヴィラン曲だ。声優ジェメイン・クレメントも、自身のボウイ風の歌い方を重ねて収録したと語っている。
ニワトリのヘイヘイは、制作途中で存在意義が弱くなり、一度は消えかけたキャラクターだとされる。そこから徹底的に何も分かっていない存在へ振り切られ、映画屈指のコメディ要員として生き残った。
子ブタのプアは、初期にはもっと航海に関わる案もあったとされる。完成版では島に残る時間が長くなり、代わりにヘイヘイが珍道中の相棒として目立つ形になった。
画面の中には、船荷に紛れた雪だるまの腕や、カカモラ軍団の中のベイマックス風の顔など、ディズニー作品同士の遊びがいくつも隠れていると公式D23や映画メディアで紹介されている。見返すほど、背景の小ネタ探しが忙しくなる。
本作にはタヒチ語吹替版が作られ、現地文化への還元としても話題になった。舞台に近い言語で物語を届け直す試みは、単なる翻訳を超えた文化的な里帰りでもある。
1926年のサイレント映画『Moana』が、ディズニー版の発想に影響したのではという見方がある。ただし直接の制作資料として確認できる話ではなく、現時点では題名と南太平洋表象をめぐる連想として扱うのが自然だ。
本作には、別のサーファー少年物語を盗用したのではという訴えが起きたことがある。しかし米連邦陪審は、ディズニー側が原告作品に接触したとは認めず、盗作主張は退けられた。
技術スタッフの説明では、本作のショットの約8割が水や自然現象を含むVFXショットだったとされる。南国の海を軽やかに見せるために、ほぼ全編で見えない技術が走っていた。
マウイの体を覆うタトゥーの絵柄には、島を釣り上げる話や太陽を引き留める話など、各地のマウイ伝説が組み合わされている。実在のタトゥー文化への助言も受け、単なる模様以上の意味を持たせたとされる。
リン=マニュエル・ミランダは本作への参加が決まった時期に父親にもなり、いつか息子が歌ってくれるディズニー曲を書きたいという思いで制作に臨んだ。ニュージーランドでの音楽リサーチも、代表曲の方向を形作った。
ロン・クレメンツ監督は、フィジーの漁師から海には敬意を払い優しく話しかけるものだと教えられたという。その体験が、海を一人の登場人物として描く発想のきっかけになったと語っている。
制作終盤の追い込みでは、ディズニー・アニメーションの全アニメーターが『モアナ』に招集されたと共同アニメーション責任者が語っている。水、髪、タトゥーの難ショットを仕上げるため、スタジオ全体が一気に集中した。
海のショットでは、社内開発の水シミュレーションシステム「Splash」が使われた。大波やしぶきでは何億という粒子を扱うため、複数マシンに計算を分散する仕組みも導入されたとされる。
日本語吹替版でモアナを演じた屋比久知奈は、ミュージカルのど自慢で最優秀賞を受賞したことをきっかけに起用された新人だった。本作が初めての声優仕事で、タイトルロールに一気に抜擢された。
カカモラが小舟の群れで襲いかかる場面は、トゲ付きの船体や顔のペイントが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思わせるオマージュ的デザインだと映画メディアで指摘されている。公式が明言した話ではないため、あくまで見立てとして楽しむネタだ。
公開後の楽曲人気を受けて、歌詞を見ながら一緒に歌えるシング・アロング版が一部で公開・配信されたとされる。通常版とは違い、ミュージカル映画としての楽しみ方を前面に出した別バージョンだ。
一部のファンの間では、嵐で遭難したモアナはその時点ですでに死んでいるという解釈が語られることがある。ただし公式設定ではなく、物語を暗く読み替えるファン理論として扱うべき話だ。