2024年公開で、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが製作した『モアナと伝説の海』の劇場用長編第2作である。企画は2020年、Disney+向けの長編ミュージカル・コメディシリーズとして発表され、当初は2023年の配信を予定していた。デヴィッド・デリック・ジュニアとジェイソン・ハンドがシリーズ版を1年以上進めた後、その成果を見た会社側が劇場映画へ転換し、ダナ・ルドゥ・ミラーを共同監督兼共同脚本に加えた。制作陣はシリーズ版で築いた世界と物語の大筋を引き継ぎつつ、アビゲイル・バーロウとエミリー・ベアに全歌曲を任せ、前作から続くOceanic Cultural Trustの助言もデザイン、振付、言語などへ反映した。製作費は約1億5000万ドル、北米興収は約4億6041万ドル、累計世界興収は約10億5924万ドルである。配信の小舟として出航した企画を公開年の2月に劇場用の大型船として発表し直し、それでも10億ドルの港へ着けたのだから、ディズニーの急な進路変更は少なくとも今回は座礁しなかった。
企画は2020年にDisney+向けシリーズとして発表され、スタッフは一年以上その形式で物語と人物を開発した。大画面での試写に手応えを得た制作陣は長編映画へ組み直し、2024年2月に劇場公開作品として正式発表した。シリーズ段階で作った物語は、劇場版のための長い開発実験として残った。
参考情報:資料・アーカイブ(米)
テレビ企画の蓄積を捨てず再構成。シリーズ段階で試した人物関係や世界設定を土台にしながら、一本の航海として起伏を作り直し、長編向けの画面規模と音楽を追加した。ダナ・ルドゥー・ミラーも共同監督・脚本として再編に加わった。
参考情報:資料・アーカイブ(米)
本作はウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編で初めて、バーバンクとバンクーバーの二拠点共同制作で完成させた。作画、キャラクター、背景、エフェクトなどを離れた拠点で受け渡すため、同じ色、質感、動きへ揃える制作体制が組まれた。シリーズから映画への転換と並行して、新しいスタジオ運用も本番投入された。
参考情報:資料・アーカイブ
制作には人類学、歴史、航海、言語、舞踊、カヌー工学などを専門とする十数人以上の「オセアニック・カルチュラル・トラスト」が参加した。物語の大枠だけでなく、手の向き、ロープの扱い、入れ墨の図柄、嵐の中での判断まで部署ごとに助言した。文化監修チームを最後の確認作業ではなく、絵と動きを作る途中へ組み込んだ。
参考情報:資料・アーカイブ
文化人類学者ディオンヌ・フォノティは、完成直前の監修だけでなく、物語、美術、アニメーションの各班と定期的に会議を重ねた。登場人物の感情が共同体の価値観から外れていないかまで検討し、装飾の正誤に限らない助言を行った。モアナが個人の英雄でありながら共同体を背負う描写も、その対話の中で調整された。
参考情報:資料・アーカイブ
サモアの伝統的な入れ墨を継承するスア・ピーター・スルアペは、自らの家系に伝わる意匠を制作へ提供し、本作のための特別な図柄も設計した。模様を南太平洋風の装飾として流用せず、誰がどの文脈で身に着けるかまで含めて扱った。マウイの身体に描かれる線は、文化的な系譜を持つデザインとして更新された。
参考情報:資料・アーカイブ
振付師ティアナ・リウファウは、踊りの全身動作だけでなく、手首や指の位置まで分解した参考映像を提供した。アニメーターはその映像を基に、祝いの場面や集団の動きで一人ずつ異なる重心を付けた。大人数の踊りも同じ動作の複製ではなく、意味のある身振りとして作られた。
参考情報:資料・アーカイブ
伝統航海士ナイノア・トンプソンは、嵐に入ったモアナが何を観察し、どの順で判断するかを制作陣へ伝えた。技術的な操船だけでなく、海上で方角を失う恐怖や、迷うことを学びへ変える感覚も物語へ提供した。その助言は航海場面と劇中歌「ゲット・ロスト」の発想へ別々に生かされた。
参考情報:資料・アーカイブ
ハワイの女性船長・航海士レフア・カマルは、何百もの星の位置と緯度の関係を覚えて海を読む実践知を制作へ持ち込んだ。星空は美しい背景として置かれただけではなく、進行方向と現在地を判断する情報として設計された。モアナが夜空を見上げる時間には、台詞に出ない航海技術が含まれている。
参考情報:資料・アーカイブ
トーマス・ラフィピイは、航海カヌーの索具、帆、船体が実際に力を受けたときの動きを技術面から監修した。ロープがどこへつながり、風向きの変化でどの部材が動くかを確認したため、操船の手順と船の反応が同じ画面内でつながっている。架空の冒険船でも、基本構造は航海できる理屈を外していない。
参考情報:資料・アーカイブ
十六歳だった前作のモアナは、前へ急ぐようにつま先へ重心を置く姿勢が多かった。三年後の本作では、かかと側へ体重を戻し、肩を開いた安定した立ち方へ変えている。台詞や衣装だけで年齢を示さず、島の指導者として身に付けた自信を全身の重心で描いた。
参考情報:資料・アーカイブ
モアナの新しいモデルは、前作より筋肉の付き方と運動能力が分かる体形へ調整された。海を渡り、カヌーを操り、共同体の仕事を担ってきた三年間が、腕や脚の動きに反映されている。単に顔を少し大人にするのではなく、生活の積み重ねを身体設計へ入れた。
参考情報:資料・アーカイブ
妹シメアの名前は、デヴィッド・G・デリック・ジュニア監督の祖先の名と、娘サメアの名につながっている。物語上の妹を作る際、響きだけを借りた架空名ではなく、監督自身のサモア系の家族史を人物へ託した。モアナが必ず帰りたい相手という役割にも、制作側の個人的な感情が重ねられている。
参考情報:資料・アーカイブ
シメアの髪はきれいに揃えず、幼児らしく跳ねた房を残し、歯も生え替わり前の隙間が見える形にした。担当アニメーターのケヴィン・ウェブは当時同年代だった娘の動きを観察し、走るときの不安定さや身体の遅れを参考にした。小さな大人ではなく、まだ動きを制御しきれない三歳児として作られている。
参考情報:資料・アーカイブ
マウイの入れ墨として動くミニ・マウイは、エリック・ゴールドバーグの班が手描きでアニメーションを作り、その素材を三次元ソフトのMayaへ取り込んだ。平面の線をマウイの動く身体へ貼るだけでなく、筋肉の変形やカメラ角度に合わせて位置を調整した。二次元と三次元の人物が同じ演技を成立させる合成である。
参考情報:資料・アーカイブ
前作のミニ・マウイには、身体の線から大きく外れたり、立体物へ直接触れたりしない制約があった。本作では二次元の操り人形として扱う仕組みを発展させ、マウイや周囲の物へ干渉する演技を増やした。入れ墨の中の案内役から、場面へ働きかける相棒へ役割が広がった。
参考情報:資料・アーカイブ
多数のカカモラを動かすため、前作のキャラクターモデルや群集システムをそのまま再利用せず、現在の制作環境に合わせて再設計した。表情、装備、船上での配置を増やし、巨大な艀の上で別々の行動を同時に処理できるようにした。制作ノートでは、この艀が本作でも最大級に複雑な技術課題の一つとされている。
参考情報:資料・アーカイブ
文化コンサルタントのミリセント・バーティは、カカモラを人々を助ける存在として語る地域の伝承を制作陣へ紹介した。前作の敵役を反復せず、コトゥがモアナの航海へ加わる展開はその説明から発展した。見た目の面白さだけでなく、伝承の別の側面が人物関係を変えている。
参考情報:資料・アーカイブ
カヌー技師ロトの設計には、文化人類学者とともに船大工が使う寸法、工具、携帯方法を調べた成果が入っている。腰の道具を飾りとして並べず、どの作業で何を使うかを決めてから動きを作った。古代の航海カヌーを革新した技術者たちの知識を、発明好きな人物へまとめている。
参考情報:資料・アーカイブ
農夫ケレは、長い航海へ食用植物を持ち込み、新しい島で育てた「カヌー・プランツ」の担い手を発想源としている。戦闘要員ではない農夫を乗組員に加え、移住は船を着けるだけでなく、その後の生活を始める準備でもあることを人物で示した。持ち込む植物は航海と定住をつなぐ道具になっている。
参考情報:資料・アーカイブ
物語好きのモニは、文字の記録だけでなく、歌や語りによって系譜と航海の記憶を伝える文化から作られた。過去の英雄に熱中する性格は単なるファン役ではなく、共同体の歴史を次の世代へ運ぶ働きと結び付いている。航海班には船を動かす技術だけでなく、物語を保存する人物も必要とされた。
参考情報:資料・アーカイブ
プロダクション・デザイナーのイアン・グッディングは前作の調査旅行で一万一千枚以上の写真を撮り、その蓄積を本作にも用いた。砂浜には漂着物や海藻を残し、建物や道具にも使い込んだ跡を加えている。観光ポスターのように完全に整った島ではなく、人が働き、修理し、暮らし続ける場所として背景を作った。
参考情報:資料・アーカイブ
海面や水中は物理的な光の計算を基礎にしながら、波の透け方や水底へ落ちる光の模様を現実より強く見せる場面がある。全体照明と水のコースティクスを組み合わせ、自然な海と感情を持つ海を同じ映像へ収めた。写実だけでも漫画的な誇張だけでもない水の表現である。
参考情報:資料・アーカイブ
制作陣は仮想カメラをカヌーへ取り付けた状態で動かす新しい道具を作った。船体の傾きや波の衝撃にカメラも遅れて反応するため、空中から自由に追うCG映像とは違う揺れが生まれる。観客が別の船ではなく、同じ甲板から航海を見ているような視点を計算した。
参考情報:資料・アーカイブ
巨大な貝の内部へ吸い込まれる場面では、海面の上に川のような流れ、渦、段差を作り、水が滝へ落ちる方向を見える形にした。透明な水だけでは進行方向が読めないため、乱流の線と泡を強調して航路を示した。海そのものが巨大な地形へ変わるエフェクトである。
参考情報:資料・アーカイブ
嵐の終盤は八つのシークエンス、二百七十を超えるショットで構成された。物語、美術、レイアウト、照明、エフェクトの担当者は毎週「ストーム・チェイサーズ」と呼ぶ合同会議を開き、風、波、雲、稲妻、人物の演技を同時に調整した。制作ノートは、これほど早い段階からエフェクト班が物語設計へ入った例は同スタジオでも異例だったとしている。
参考情報:資料・アーカイブ
ナロの嵐は、風の強さを表すビューフォート風力階級の七から九を主な基準として作り、物語の頂点では現実の尺度を超えて強調した。風が急に最大になるのではなく、帆、雨、波頭、人物の姿勢を段階的に変えて危険を増している。カメラの揺れは観客が船酔いしない範囲へ抑えられた。
参考情報:資料・アーカイブ
人々を結び付ける島モトゥフェトゥは、太平洋各地の伝承を調べて作った架空の場所である。表面の色には、角度によって青や緑に光る鉱物ラブラドライトが参照された。単色の岩ではなく、海と空の色を受けて変化する島として造形されている。
参考情報:資料・アーカイブ
新しい作曲家アビゲイル・バーロウとエミリー・ベアは、制作開始時の顔合わせへ、後に冒頭曲「ウィー・アー・バック」となる歌をすでに書いて持参した。物語が固まってから依頼された挿入歌ではなく、モトゥヌイへ戻った三年間を音楽から提示した。二人は本作のために五曲の新曲を担当した。
参考情報:資料・アーカイブ
「ビヨンド」は、短調と長調の間を揺れる響きや音の質感を先に作り、その後で歌詞と題名の核になる言葉を探した。未知へ進みたい意志と家族から離れる恐れを、明るい旋律か暗い旋律の一方へ決めずに残している。物語上の葛藤を、言葉が完成する前から和声へ入れた曲である。
参考情報:資料・アーカイブ
「ゲット・ロスト」という発想は、航海の専門家から聞いた「迷うことで思いがけない発見へ出会う」という考えから生まれた。マタンギの歌は方向を失うことを失敗ではなく、固定観念を外す方法としてモアナへ教える。台詞の主張を後から歌にしたのではなく、航海術の助言が曲の中心語になった。
参考情報:資料・アーカイブ
オペタイア・フォアイは、マウイ役のドウェイン・ジョンソンが歌う「マナ・ヴァヴァウ」をサモア語で作った。フォアイとレイチェル・ハウスの歌声にはトケラウ語も入り、オーストラリアで丸太太鼓、皮張り太鼓、声を録音した。複数の地域と言語を、終盤の一曲の音色へ重ねている。
参考情報:資料・アーカイブ
ドウェイン・ジョンソンの収録では、固定マイクの前だけに立たせず、広く動ける環境を用意した。表情と身体の動きを映像で記録し、アニメーターがマウイの肩、腕、視線へ取り込めるようにした。声だけでなく、ジョンソンが台詞へ入れる身振りの勢いまでアニメーション資料になった。
参考情報:映画ニュースサイト(日)
公式画集『ジ・アート・オブ・モアナ2』には、企画初期に描かれたモアナと巨大なクジラザメの絵が収録されている。完成版へ至る前の人物、島、怪物、色彩の試行に加え、ストーリーボードやカラースクリプトも掲載された。映画で使われなかった航海案を、完成画面とは別の制作資料として追える。
参考情報:公式アーカイブ(米)
北米の感謝祭を含む公開五日間で二億二千百万ドルを記録し、同時点の推計で海外一億六千五百三十万ドル、世界合計三億八千六百三十万ドルに達した。テレビシリーズとして始まった企画が、劇場公開へ変更された後に記録的な初動を得た。数字は通常の三日間週末ではなく、感謝祭の五日間集計である。
参考情報:資料・アーカイブ(米)
監督はデヴィッド・G・デリック・ジュニア、ジェイソン・ハンド、ダナ・ルドゥー・ミラーの三人で、前作の監督陣から交代した。デリックとミラーはサモアに家族的なつながりを持ち、文化監修者との対話を物語開発へ持ち込んだ。デリックにとって長編監督デビュー作でもある。
参考情報:資料・アーカイブ
本作は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで初めて二対一の画面比を採用した長編とされる。横方向へ広い海、複数のカヌー、離れた島々を一枚に収めやすく、航海する人物と目的地の距離を同じ構図に置ける比率である。
参考情報:映画データベース(米)
長年ディズニーの手描きアニメーションを支えたマーク・ヘンにとって、本作は退社前に関わった最後のスタジオ作品とされている。CG長編の中にも手描きアニメーションを組み込んできた人物が、ミニ・マウイなど二次元表現を残す作品で在籍期間を終えたことになる。
参考情報:映画データベース(米)
ドウェイン・ジョンソンの娘ジャスミンとティアナは、モアナに憧れる子どもたち「モアナ・ビー」の声を担当したとされる。父が演じるマウイとは別の小さな役で参加し、家族三人の声が同じ作品に収められた。
参考情報:映画データベース(米)
ジェマイン・クレメントはタマトア役で特別出演し、終盤の短い場面に声を当てている。物語の中心へ戻すのではなく、前作の人物が現在も同じ世界にいることを示す後日談として置かれた。声の出演は上映版の場面とエンドクレジットに残されている。
参考情報:映画データベース(米)
トゥイ役のテムエラ・モリソンは、本作で台詞だけでなく歌唱も担当したとされる。前作では歌の部分を別の歌手が受け持っており、同じ人物の声と歌を一人の俳優へ揃えた変更になる。
参考情報:映画データベース(米)
エンドクレジットの織物には、次回作『ズートピア2』に登場するヘビのゲイリーが紛れているとされる。公開前だった次回作の新キャラクターを、物語本編ではなく織物の模様へ隠したスタジオ内の小ネタである。
参考情報:映画データベース(米)