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1975年公開。スティーヴン・スピルバーグは水槽やミニチュアに頼らず、マーサズ・ヴィニヤード沖の実際の海で撮る方針を選んだが、潮流、天候、画面へ入り込む船舶が撮影を容赦なく止めた。機械仕掛けのサメも海水の中で故障を繰り返し、55日予定だった撮影は159日へ延び、予算は当初見込みのほぼ3倍となる約900万ドルまで膨らんだ。その故障のため、スピルバーグはサメを見せずに音楽、主観映像、編集で存在を感じさせる演出へ追い込まれ、製作上の欠陥を映画の恐怖そのものへ変えた。北米初公開時の興行収入は約2億6070万ドルに達し、再上映を含む累計世界興行収入は約4億9790万ドルとなっている。ハリウッドは壊れたサメを隠した結果、観客の想像力という、最も安くて故障しない特殊効果を発見したのである。
機械仕掛けのサメ“ブルース”は、淡水での試験とは違い海水で腐食し、思うように動かなかった。スピルバーグは完成を待つ代わりに、水面下の主観、泳ぐ人の足、樽、編集、音楽でサメを想像させる方法へ切り替えた。故障した怪物を隠した結果、観客は姿がない時間ほど水面を恐れるようになり、制作上の危機が映画の最も強い演出へ変わった。
参考情報:アカデミー資料(米)
海を舞台にした映画は、水槽や背景合成で波と水平線を管理するのが普通だった。『ジョーズ』は主要部分をマーサズ・ヴィニヤード沖へ持ち出し、船、俳優、カメラ、機械ザメを本物の海で同時に動かした。船が流され、天候が変わり、水平線へ別の船が入るたびにやり直す方法だったが、画面から陸を消したことで三人が逃げ場を失う感覚が本物になった。
参考情報:AFI(米)
全長約二十五フィートの模型を三体作り、右側を見せる個体、左側を見せる個体、角度を付けて使う個体へ役割を分けた。“ブルース”は一体の万能なロボットではない。海底のプラットフォームと油圧アームで動かすため、カメラを反対側へ回せば済む仕組みではない。画面の数秒ごとに、海上の機材配置まで組み直す巨大な特殊効果だった。
参考情報:AFI(米)
サメの外皮は液状プラスチック製で、表面へシリカ砂を塗り、水滴が本物の鮫肌らしく流れるようにしていた。しかし強い日差しで退色し、塩分は内部の金属と配管を傷めるため、毎週新しい皮膚へ張り替えるほどの補修が続いた。生き物を演じる模型の裏で、二十人を超える特殊効果班が“シャーク・シティ”と呼ばれた小屋に待機していた。
参考情報:映画専門誌(米)
海上では三脚へ固定するほど船の揺れが画面へ直に伝わった。撮影監督ビル・バトラーとカメラオペレーターのマイケル・チャップマンは、約三十四ポンドのパナフレックスを手持ちし、狭い船間を一日に八、九回も移動した。落ち着かない画面は後世の手持ち風演出ではなく、波の上で人間が最も安定する支持装置になった結果である。
参考情報:映画専門誌(米)
海面の恐怖を出すため、撮影班はパナビジョンが別作品用に作ったウォーターボックスを転用した。箱ごとカメラを沈め、レンズだけを水面ぎりぎりへ置くと、波が来ても本体ではなく保護ガラスを覆う。観客の目が浜辺の安全な高さではなく、泳ぐ人と同じ境界へ下がるため、水上と水中のどちらから襲われるか分からない画面になった。
参考情報:映画専門誌(米)
通常撮影のオルカIとは別に、外見だけを写したオルカIIをグラスファイバーで作り、船底をなくして鋼の骨組みと樽を取り付けた。クイントの船は一隻を壊し続けたのではない。樽へ水を入れると沈み、圧縮空気を送ると再び浮く。エンジン蓋や船尾には壊れやすいバルサ材を使い、サメの衝突を何度も制御できる巨大な仕掛けへしていた。
参考情報:映画専門誌(米)
サメが船尾へ落ちる決定的な撮影では、その重量でオルカIIへ水が入り、想定より速く沈み始めた。俳優とスタッフが木片を避けて飛び込み、マストが別の作業船へ倒れかけ、一番カメラと撮影済みフィルムのマガジンまで海水に浸かった。大きな負傷者は出ず、回収したフィルムも救われたが、完成作の破壊感には制御を越えた実際の混乱が写っている。
参考情報:映画専門誌(米)
ロンとヴァレリー・テイラーはオーストラリアで実物のサメと小型の檻を撮影した。その最中にサメがワイヤーへ絡み、檻を激しく壊す予想外の映像が撮れたが、檻の中にはリチャード・ドレイファスの代役がいなかった。そこで完成作はフーパーが先に海底へ逃げ、空の檻が破壊される筋へ調整された。偶然の記録映像が、原作とは異なる生死の判断まで変えた。
参考情報:AFI(米)
ジョン・ウィリアムズがピアノで低い二音を繰り返す主題を示した時、スピルバーグはそれが完成案だと思わず笑った。だが作曲家は、単純な反復が速くなり、逃げられない生物の接近を身体へ伝える仕組みを説明した。やがて監督は音楽が映画の成功の半分を担ったと認める。見えないサメを成立させたのは、複雑な旋律ではなく、誰でも覚えられる二つの音だった。
参考情報:資料・アーカイブ(米)
音楽が鳴る時は本物のサメが近づいているという規則が作られ、子どもが偽の背びれで騒ぎを起こす場面には使われない。浜辺では背びれや叫び声が何度も観客を惑わせるが、二音の主題は何にでも付く恐怖効果ではない。観客は無意識にその文法を学ぶため、画面に姿がなくても音の有無で危険の真偽を判断している。
参考情報:資料・アーカイブ(米)
クイントが戦艦インディアナポリス号の沈没を語る独白は、ロバート・ショウ一人の即興でも、ジョン・ミリアス一人の執筆でもない。脚本家カール・ゴットリーブの説明では、まず海軍経験のあるハワード・サックラーが人物の過去として着想し、複数の書き手が稿を広げ、最終的に作家でもあったショウが演じる言葉へ整えた。複数稿の蓄積が、怪物映画の途中へ戦争の記憶を持ち込んだ。
参考情報:公開資料
撮影班が小さな支援船へ無理に機材を載せる状況をからかう言い回しが現場で繰り返され、ロイ・シャイダーが場面へ持ち込んだとカール・ゴットリーブは説明している。サメを初めて間近で見たブロディの言葉は、怪物映画用に磨かれた宣伝文句として脚本へ最初から置かれていたわけではない。現場の内輪語が、人物の恐怖を最も簡潔に表す台詞へ変わった。
参考情報:映画データベース
スピルバーグは、観客が大スターの存在から『この人物は最後まで生きる』と予測することを避けたかった。そこで知名度だけで配役を固めず、ロイ・シャイダー、ロバート・ショウ、リチャード・ドレイファスの人物関係を前へ出し、サメこそスターだと考えた。怪物がなかなか映らない一方、人間の顔を十分に見せる構成は、無名性と怪物への期待を同時に利用している。
参考情報:アカデミー資料(米)
海上撮影の遅延で1974年のクリスマス期に間に合わず、翌年6月20日へ持ち越された。『ジョーズ』は最初から夏の定番を狙って順調に作られた映画ではない。ユニバーサルはテレビ広告を大量投入し、従来より多い劇場で一斉に見せる方針を取り、結果として“サマー・ブロックバスター”の代表例になった。制作の遅れが、公開戦略の新しい成功へ反転した。
参考情報:AFI(米)
沈没船の穴からベン・ガードナーの首が現れる驚かせ方は、最初の撮影計画だけで完成していなかった。試写で別の衝撃場面が強く受けたため、スピルバーグはさらに一度観客を跳ねさせたいと考え、編集者ヴァーナ・フィールズのプールへ乳白色の水を作って追加撮影したと語っている。海上ロケの外で撮った短い挿入が、物語の恐怖の速度を変えた。
参考情報:公式資料
岸から遠く離れても海底が比較的浅い場所があり、サメを動かす水中プラットフォームを設置しながら、画面から陸地を消せた。マーサズ・ヴィニヤードは景観だけでアミティ島に選ばれたのではない。浅い海底と広い水平線という矛盾した条件が、機械仕掛けを支えつつ外洋の孤立感を作ったのである。
参考情報:AFI(米)
オルカ号の夜空を横切る光は、撮影中に偶然写った流星だという逸話が広く流布した。古いメイキングでもその説明が紹介された一方、後年の高精細版や制作資料を比較すると、合成された光だった可能性が高いとする検証もある。映像だけでは決着しないため、偶然の奇跡として断定するより、ホームメディアの版差と資料を照合すべき候補である。
参考情報:公式資料
用意した小道具が不自然に見えたため、女性スタッフを砂へ埋めて腕だけを地上へ出す方法へ変えたという制作逸話が残る。浜辺で発見される腕は、完成度の高い死体模型を置いただけではない。顔も身体も見せず、波打ち際の一本の腕だけで事件の現実味を出す場面だけに、最も単純な実写の方法が選ばれた点が面白い。
参考情報:映画データベース
ブロディが撃つ圧縮空気ボンベは、現実なら銃弾だけでガソリンのような火球を起こすとは考えにくい。破裂すれば容器や空気の圧力による危険はあるが、映画の爆発はサメを倒す視覚的な決着を優先したものだ。序盤にボンベを注意される台詞が置かれているため物語上は準備されているが、科学的な正確さとは別に見る必要がある。
参考情報:AFI(米)
公開五十周年の2025年、ユニバーサルは4K UHD/Blu-rayの記念版を発売した。新作ドキュメンタリー『JAWS @ 50』に加え、長編メイキング、修復工程、削除場面、絵コンテ、宣伝資料など五時間を超える特典を収録している。故障するサメや海上撮影の逸話を確認する時は、古い要約だけでなく、この版に収められた複数世代の制作記録を照合できる。
参考情報:公式資料