主な参考資料
- Vanity Fair
- Directors Guild of America
- The Guardian
- TheWrap
- Los Angeles Times
- YouTube
- Motion Picture Association
- The Criterion Collection
2017年公開。ジョーダン・ピールがコメディアンとしての知名度を足場に、長年温めていたホラー監督の構想を初長編として実現した。製作費は約450万ドルという小規模だったが、北米興収約1億7,600万ドル、世界興収約2億5,500万ドルに達したと報じられている。ピールは人種差別を正面から扱いながら、観客を笑わせる間合いと恐怖の構造を同じ脚本に組み込んだ。低予算映画が大作を食ったというより、ハリウッドが長く「コメディ出身者には無理」と見ていた企画が、数字で反論したのである。
ジョーダン・ピールが本作の着想を得たのは、2008年の民主党予備選で、黒人のバラク・オバマと女性のヒラリー・クリントンのどちらが大統領にふさわしいかが盛んに論じられていた時期である。そこから、郊外の夫たちが妻を従順な存在へ置き換える『ステップフォード・ワイフ』(1975)の構造を、人種と身体の支配を描く物語へ組み替えた。政治的な議論をそのまま台詞にするのではなく、恋人の実家を訪ねる週末の恐怖へ落とし込んだのである。
脚本が書かれたオバマ政権期には、黒人の大統領が誕生したことで人種差別は過去の問題になったという空気が広がっていた。ジョーダン・ピールはその感覚を「脱人種社会という嘘」と捉え、初期案にあった黒人を催眠術で再び奴隷化する陰謀を、白人リベラル層が黒人の身体や文化を称賛しながら自分のものにしようとする物語へ改めた。ディーンたちの親切さが不気味なのは、敵意ではなく善意の言葉で支配を隠しているからである。
ジョーダン・ピールは、コメディとホラーには観客の緊張を高め、適切な瞬間に解放するという共通点があると考えていた。舞台やスケッチで客席全体を同時に笑わせるために磨いた間合いを、本作では驚きや不安をそろえる演出へ転用している。ロッドの電話場面で観客を笑わせるのも、恐怖から離れるためではなく、いったん警戒を解いて次の緊張を強く受け止めさせるためだった。
本作が映画として動き出すきっかけを作ったのは、ジョーダン・ピールの長年の相棒キーガン=マイケル・キーである。キーの紹介でプロデューサーのショーン・マッキトリックに会い、人種問題を扱うホラーのプロットを説明すると、企画は予想以上に早く受け入れられた。ピールが数か月かけて脚本を書いた後、最大500万ドル規模の作品なら大きな投資リスクにならないという判断もあり、低予算映画の製作体制を持つブラムハウスとユニバーサル配給へつながった。
本作の製作費は約450万ドル、主要撮影は23日間で、物語の順番どおりに撮る余裕はなかった。ジョーダン・ピールは、秘密を抱える登場人物の演技が少し強すぎるだけで真相が早く露見すると考え、各場面で観客がどこまで情報を得ているかを俳優へ説明した。低予算の制約に対し、撮影順ではなく演技の情報量を管理することで、終盤まで疑いと確信の境目を保った。
白人住宅街でアンドレが車につけられ、誘拐される冒頭は、当初はヒッチコック作品を思わせる短編として、多くの角度から撮影する計画だった。しかし撮影日に雨が重なり、限られた予算と日程では予定した画をそろえられなくなった。そこで人物と車の動きを組み直し、出来事が現実の時間で逃げ場なく進む長回しへ変更した。
本作はロサンゼルスで撮影する準備を進めていたが、税制と予算上の事情から計画が撤回され、撮影直前に現場を別の州へ移すことになった。製作陣はアラバマ州フェアホープとモービルで邸宅や公共施設を探し、アーミテージ家の屋敷や周辺の舞台へ組み替えた。主要撮影は同州で23日間かけて行われている。
実際の撮影はアラバマ州で行われたが、物語の舞台はニューヨーク州北部の裕福な郊外を想定している。ジョーダン・ピールは、悪役を典型的な米国南部の人種差別主義者に見せると問題が単純になると考えた。そこで、自分たちは差別と無縁だと信じる白人リベラル層の暮らしに見えるよう、土地の印象と登場人物の言葉を整えた。
ダニエル・カルーヤはオーディションで、クリスが催眠術によって動けなくなり、一筋の涙を流す場面を演じた。約5回のテイクで、涙は毎回ほぼ同じ瞬間、同じ位置に現れたという。ジョーダン・ピールは感情を保ったまま動きを正確に再現できる演技に驚き、その場で主役を任せたいと考えた。完成版のポスターにも使われた表情は、偶然を一度だけ捉えたものではない。
ジョーダン・ピールは撮影前、ダニエル・カルーヤへ参考にしてほしいホラー映画の一覧を送った。しかしカルーヤは、それらを意識すると自分が作り物の中にいる感覚が強くなるとして、あえて見なかった。彼が目指したのはホラー映画らしく大げさに反応する主人公ではなく、状況を観察し、危険を感じれば離れようとする普通の青年だった。クリスが観客より鈍くならない人物として見えるのは、この役作りともつながっている。
ジョーダン・ピールはアリソン・ウィリアムズに、クリスの恋人として振る舞う「ローズ」と、本性を現した後の「ロロ」を別々の人物として考えるよう伝えた。特にロッドと電話する場面では、声は心配するローズのまま、顔と身体は獲物を選ぶロロにする必要があった。ウィリアムズは後半の印象をさらに変えるため、コンタクトレンズで目の色まで調整している。
ディーン役のブラッドリー・ウィットフォードは、政治ドラマ『ザ・ホワイトハウス』(1999〜2006)で、理想主義的な民主党政権のスタッフ、ジョシュ・ライマンを演じていた。ジョーダン・ピールは、観客が彼に抱く「善良で進歩的な白人」という印象を利用し、その人物が黒人青年の身体を奪おうとする落差を作った。ディーンの歓迎が最初は本心に見えるほど、後半の手術計画が不気味になる配役である。
ジョーダン・ピールは、白人ばかりの場所に黒人が一人だけいる時の居心地の悪さを、本作の恐怖の出発点にした。その感覚を具体的な場面へ変えたのが、客たちがクリスへ好意的に話しかけながら、運動能力や体格、黒人文化について一方的に質問する庭園パーティーである。ピールはこの場面を書いた時、日常の小さな違和感が身体の品定めと競売へつながる感覚を正確に扱うには、自分が監督する必要があると確信した。
監督インタビュー ジョーダン・ピールが語る『ゲット・アウト』の執筆と監督 ピール本人が、脚本執筆から監督を担うまでの考えを振り返るインタビュー。 SmartLess YouTubeで見る ↗ミッシー役のキャサリン・キーナーは、催眠術をかける人物を演じる準備として、自分が実際に催眠を受けた。そこで、催眠は相手を力で押さえつけるのではなく、被験者が心を開けるだけの信頼と共感を作ることから始まると知った。クリスの母親の死へ静かに寄り添った直後、「沈め」の一言で支配へ切り替わる演技には、その体験が使われている。
TSA職員のロッドは、ホラー映画を見ている観客が主人公へ「そこへ行くな」「今すぐ出ろ」と叫ぶ声を代弁する人物として書かれた。彼は電話越しの情報から陰謀を推理し、細部は外しても、クリスが危険にいるという中心だけは見失わない。笑いを担当する人物が終盤に自分で車を運転して救出へ来るため、コメディ部分がそのまま物語の解決になる。
美術監督ラスティ・スミスは、アーミテージ邸を一目で危険だと分かる怪屋敷にはしなかった。玄関や居間は温かく居心地よく見せ、クリスと観客が警戒を解いた後で、その安心感を裏切る方針だった。地下のゲーム室は既存施設の裁判官室を改装し、家具には温かみを残しながら、座る位置や空間の向きで落ち着けない「邪悪な風水」を作った。
撮影準備中にアーミテージ邸を使えるようになると、ジョーダン・ピールと複数のプロデューサーが出演者の代わりに各場面を演じた。撮影監督トビー・オリヴァーは、その動きを実際の部屋や庭で撮影し、映画の大半を占める邸宅場面の写真絵コンテを作った。本番前に画角、人物の位置、移動経路を試しておくことで、23日間の撮影を現場での試行錯誤に費やさずに済んだ。
クリスが初めてアーミテージ邸へ着く場面では、外観も室内も暖かい金色の光で包み、家族の歓迎が本物に見えるようにした。その安心感は庭園パーティーまで保たれるが、ローズが車の鍵を渡さず、家族の正体が表面へ出る頃から、照明にはシアンと緑が加わる。同じ建物を使いながら、光の色だけで親しみやすい郊外の家を冷たく病的な閉鎖空間へ変えている。
ウォルターが夜の庭を全速力で走り、クリスの目前で方向を変える場面では、撮影監督トビー・オリヴァーが事前に照明とカメラの配置図を作った。数百フィート離れた場所に大型照明M90を置き、近距離と高所作業車の上にはM40、手前のクリスにはLEDの補助光を使った。ウォルターが遠くの闇から近づく間に何度も光と影を通過するため、直前まで顔や目的を読み取れない。
ジョージナが携帯電話の充電器を抜いた理由を話しながら、泣き笑いのような表情でクリスへ近づく場面では、一般的な顔のアップより広いレンズを使った。カメラをベティ・ガブリエルの顔から数センチほどの位置へ置き、彼女が前へ進むのに合わせて後退させている。背景との距離感を残したまま顔が迫るため、表情の異常さだけでなく、他人が逃げられない距離まで入って来る圧迫感が生まれた。
「沈んだ場所」でクリスが無限の暗闇へ落ちていく場面では、ダニエル・カルーヤをワイヤーで床と平行に吊り、本人の身体はほぼ同じ位置に保った。周囲を黒幕で囲み、カメラの方を前後へ動かして距離が広がる感覚を作り、ARRI Alexa Miniの上限に近い毎秒200コマで撮影した。浮遊する細かな粒子は後処理で加えられ、実写の身体と少量のVFXを組み合わせている。
「沈んだ場所」の上に浮かぶ四角い出口は、幼いクリスが母親の帰りを待ちながら見ていたテレビを表している。劇中では判別しにくいが、子どものクリスの背後にあるテレビには白黒の水中映像が流れており、暗闇で身体がゆっくり漂う動きもそこから設計された。催眠術が新しい幻想を見せるのではなく、本人が最も動けなかった夜の記憶へ閉じ込める構造である。
音響編集のトレヴァー・ゲイツは、催眠に使われる茶器、カメラのフラッシュ、「沈んだ場所」を別々の方法で設計した。スプーンが器をこする音は撮影現場で録られた素材が十分に強かったため、その質感を生かした。フラッシュは衝撃音の直後に空気が吸い取られるような静寂を作り、「沈んだ場所」では水中で誰かに押さえ込まれる感覚を目標に約6層の音を重ねた。
ジョーダン・ピールは作曲家を探している時、YouTubeでマイケル・エイブルズの管弦楽曲「Urban Legends」の演奏映像を見つけた。弦楽四重奏とオーケストラが穏やかな調性から激しい響きへ移る作品を聴き、この作曲家なら観客を怖がらせられると考えた。エイブルズはコンサート音楽を中心に活動し、長編映画の劇伴を担当した経験がなかったが、本作で初めて映画音楽を手掛けた。
ジョーダン・ピールが求めたのは、黒人の声を感じさせながら、希望や救済へ着地しない音楽だった。作曲家マイケル・エイブルズはその注文を「ゴスペル・ホラー」と呼び、主題曲「Sikiliza Kwa Wahenga」(2017)にスワヒリ語の合唱を使った。歌声は奴隷制やリンチで命を奪われた人々の声を想定し、クリスへ「祖先の言葉を聞け、逃げろ」と警告する。英語の “brother” だけを翻訳せず残したのは、呼びかける相手を明確にするためである。
衣装デザイナーのナディーン・ヘイダーズは、クリスが都会で持っている自分らしさを青で表し、アーミテージ邸でも青いシャンブレーシャツを着せた。催眠術を受ける時の部屋着は、白と黒の間にある灰色へ変わる。一方、庭園パーティーではローズの靴や縞模様、ディーンのポケットチーフ、ミッシーの小さな指輪などに赤を散らし、表面からは見えにくい秘密結社側のつながりを示した。
ウォルターの身体を使っているのは、1936年のベルリン五輪予選でジェシー・オーエンスに敗れたことへ執着する祖父ローマンである。衣装デザイナーのナディーン・ヘイダーズは、その過去を足元へ残すため、1936年製のランニングシューズを探してウォルターに履かせた。夜中に庭を全速力で走る行動だけでなく、使用する道具まで古い意識の年代に合わせている。
撮影監督トビー・オリヴァーはARRI Alexa Miniを使用し、都会の場面、アーミテージ邸の昼、同じ邸宅の夜、地下ゲーム室という四つのLUTを事前に作った。LUTは撮影映像へ色の方向性を当てる設定で、現場では場面ごとにカメラ内で切り替え、日々の確認映像にも同じ色を反映した。最終調整の前から、クリスの日常と家族の支配空間を異なる色で共有していた。
クリスが週末旅行の荷造りをする冒頭では、チャイルディッシュ・ガンビーノの「Redbone」(2016)が流れる。ジョーダン・ピールが特に重視したのは、歌詞にある “stay woke” という言葉だった。周囲の危険や不正を見落とさず警戒せよという意味が、これから催眠術と善意の偽装に直面するクリスへの警告になっている。
終盤で警光灯が近づいた時、撮影済みの別エンディングではロッドではなく警察官が現れ、クリスはアーミテージ家を殺した容疑で逮捕される。その版では後にロッドが拘置中のクリスを訪ねるが、事件の詳細を証明できないまま別れる。ジョーダン・ピールは現実の警察暴力と、試写で観客が受けた強い落胆を考え、同じ警光灯からロッドが降りて来る解放の結末へ変更した。
クリスは地下室の革張りの椅子へ縛られるが、肘掛けを爪で破り、中の綿を耳へ詰めて催眠の茶器を聞こえなくする。ジョーダン・ピールはこの行動を、黒人に綿摘みを強制した奴隷制の歴史と結び付けて設計した。支配する側が用意した椅子の内部から綿を取り出し、今度は自分の身体を守る道具へ変えることで、同じ素材の意味を反転させている。
クリスを写真家にした最初の理由は、郊外の陰謀を追う写真家ジョアンナが登場する『ステップフォード・ワイフ』(1975)への目配せだった。脚本を進めるうち、母親が亡くなった夜に動けなかった彼が、瞬間を止めて観察する仕事を選んだという過去とも結び付いた。さらにスマートフォンのフラッシュがローガンやウォルターの意識を一時的に戻す仕掛けへ発展し、職業、トラウマ、脱出手段が一つになった。
夜のアーミテージ邸では、昼光に近い強いHMI照明を使いながら、カメラの色温度を約3200Kに設定して青く写した。さらに照明へ緑を加える色材「Steel Green」を付け、確認映像へ色の方向性を当てるLUTでも緑を足しながら彩度を下げた。撮影後に一色をかぶせたのではなく、光源、カメラ設定、色変換の三段階を重ねて、ウォルターが走る庭を濁った青緑へ変えた。
NBCユニバーサルから2018年に発売された日本版Blu-ray/DVDには、クリスが逮捕される別エンディングと未公開場面が、ジョーダン・ピールの解説付きで収録された。ほかにメイキング、監督と出演者のQ&A、本編全体の音声解説も含まれている。劇場版では使われなかった結末や小道具の設定を、監督自身の説明と削除映像の両方で残した正式商品である。
主要撮影が23日間しかなかったため、ジョーダン・ピールは決められた台詞を演じるだけでなく、現場で相手の反応を受けて場面を組み立てられる俳優を集めた。監督自身に加え、ダニエル・カルーヤやアリソン・ウィリアムズも即興演技の経験を持っていた。クリスがローズへ車の鍵を渡すよう繰り返し迫る場面にも二人の即興が含まれ、恋人同士の会話が一気に対立へ変わる緊張を作っている。
主演俳優インタビュー ダニエル・カルーヤが語る撮影現場と演技設計 主演のカルーヤが『ゲット・アウト』の撮影や役作りを振り返るBFI公式インタビュー。 BFI YouTubeで見る ↗庭園パーティーへ集まる客の車は、ジョーダン・ピールの意図ですべて黒にそろえられた。白人ばかりの客がクリスの体格や運動能力を褒めながら、実際には彼の身体を手に入れるために来ている場面である。黒い車を背景へ並べることで、会話の表面では隠されている客たちの目的を、色の配置だけで先に示している。
夕食の席でジェレミーは、柔道を習ったクリスへ、柔術はチェスのように数手先を読む競技だと持論を語る。終盤、クリスが玄関から逃げようとすると、ジェレミーは扉を二度蹴り返して妨害する。しかし三度目には、クリスが同じ蹴りを予測して先に構え、相手の脚を刺す。この反撃は、夕食時の会話を終盤で回収するために置かれた伏線である。
庭園パーティーには、白人客に交じってヒロキ・タナカという日本人男性が一人だけ参加している。これは、ジョーダン・ピールが愛する『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)の終盤で、悪魔崇拝者の集団に日本人男性が加わっている構図へのオマージュである。元の映画では、その人物の存在によって陰謀がニューヨークの一角だけでなく国際的に広がっていると分かる。本作でも同じ配置が、アーミテージ家の計画が一家庭だけの秘密ではないことを示している。
ダニエル・カルーヤは『ボーダーライン』(2015)の撮影後、約1年半にわたって俳優業を休んだ。その間は毎日のように脚本を読み、自分はどのような物語を好み、なぜ惹かれるのかを考え直していた。本作の脚本が届いた時には、『フェリスはある朝突然に』(1986)や『トイ・ストーリー2』(1999)の脚本を初めて読んだ時と同じように、自分が探していた作品だと感じたという。
英国出身のダニエル・カルーヤは、演技学校で教わった米国訛りをそのまま使わなかった。授業で標準として扱われる発音は白人の話し方を基準にしており、黒人の写真家クリスには合わないと考えたからである。そこで、クリスが米国のどの地域で生まれ、成長後にどこで働き、その土地の発音からどのような影響を受けたかまで想定し、人物の生活歴から声を組み立てた。
本作の公開前、ダニエル・カルーヤは食事の席でチャドウィック・ボーズマンと向かい合った。当時のカルーヤにはまだ専属の広報担当者がおらず、映画が自分の人生を変える規模になるとも理解していなかった。ボーズマンはその状況を察し、公開後にどのような質問を受けるか、何を話さない方がよいかまで助言したという。
製作者ジェイソン・ブラムは完成作を初めて見た時、通常の低予算ホラーとは異なる作品になったと感じた。そこで2017年のサンダンス映画祭で秘密上映を行い、娯楽映画として売るだけでなく、映画祭で議論される作品という見方を加えた。全米公開後、ホラー映画は2週目に興行収入が約60%落ちることも珍しくない中、本作の低下は約15%にとどまり、口コミが観客を広げた。
公開後、サミュエル・L・ジャクソンは、米国の人種問題を描く作品で英国出身のダニエル・カルーヤが主演したことへ疑問を示した。カルーヤは、自分が黒人であることを他人へ証明させられる状況そのものに反発し、映画の主題がこの論争で見えなくなることを懸念した。ジャクソンは後に、カルーヤの力量を否定する意図ではなく、米国育ちの俳優なら異なる経験を持ち込めたのではないかという問題提起だったと釈明した。
配給・製作側は本作を、ゴールデングローブ賞の作品賞ミュージカル/コメディ部門へ出品した。笑いを含む一方で人種差別を恐怖として描く作品をコメディへ分類したため、賞を取りやすい部門へ回したのではないかという批判も起きた。ジョーダン・ピールは当初「これはドキュメンタリーだ」と皮肉で応じ、後には一つのジャンルへ収まらない作品として認められたこと自体は満足だと語った。
主要撮影がアラバマ州へ移った後、出演者とスタッフの多くはフェアホープにある古いホテルへ滞在した。この建物は南北戦争中に病院として使われた歴史を持ち、プロデューサーのショーン・マッキトリックは廊下を『シャイニング』(1980)のオーバールック・ホテルのようだと感じたという。夜や休日にはアリソン・ウィリアムズの借家へ集まり、家族役の俳優たちは撮影前から即興を交えて関係性を作った。23日間で複雑な場面を仕上げるための準備が、撮影外の共同生活にも続いていた。
脚本に書かれたジョージナの行動は、料理を運び、編み物をするといった短い記述が中心で、人物の内面を示す説明はほとんどなかった。演じたベティ・ガブリエルは、家事を完璧にこなす女性の感覚をつかむために編み物を習い、実際にキャロットケーキも作った。さらに、身体を動かせないまま意識が残っていた南アフリカ人男性マーティン・ピストリウスの体験を扱う番組を聞き、祖母マリアンヌに身体を使われながら、内側で抵抗するジョージナの状態を組み立てた。
ウォルターはアーミテージ家の庭師として紹介されるが、広大な敷地全体を熊手で掃こうとし、古い手押し芝刈り機を使うなど、仕事の方法は不自然に非効率である。演じたマーカス・ヘンダーソンは、観客が黒人男性の外見と庭仕事だけを見て庭師だと思い込む一方、細かく見ると行動が成り立っていないようにしたと説明している。身体を使っている祖父ローマンは裕福な白人男性であり、庭仕事に慣れた労働者ではないという正体が動作に現れている。
ジョーダン・ピールは、コメディ映画『キアヌ』(2016)で仕事をしたティファニー・ハディッシュに脚本を読ませ、本作のオーディションを受けるよう勧めていた。しかしハディッシュは、悪魔や呪いを連想させる怖い映画には出演しないという当時の方針から打診を断った。後に本人がテレビ番組で経緯を明かしているが、ピールがどの役を想定していたかは公表されていない。
出演者インタビュー ティファニー・ハディッシュが明かすオーディション辞退 本人が『ゲット・アウト』のオーディションを断った経緯と理由を語る公式番組映像。 Late Night with Seth Meyers YouTubeで見る ↗冒頭でクリスとローズの車にはねられ、森の中で息を引き取る鹿の鳴き声は、監督のジョーダン・ピール本人が演じた。ピールは後年のインタビューで実際に鳴き声を再現し、『アス』(2019)でも死にかけたウサギの声を担当したと明かしている。画面には姿を見せず、物語を動かす動物の声だけで自作へ出演していた。
監督インタビュー ジョーダン・ピールが鹿の声を実演 ピール本人が『ゲット・アウト』で担当した鹿の声を振り返り、その場で再現するインタビュー。 Fandango YouTubeで見る ↗TSA職員ロッドの台詞には、コメディアンであるリル・レル・ハウリーの即興が含まれたと伝えられている。ただし、完成版の台詞の大半が即興だったという話になると、本人や監督が割合まで説明した記録は見つかっていない。即興が想像以上に多かった可能性はあるが、「大半」とまでは言い切らない方がよさそうだ。
ジョーダン・ピールが本作の脚本を長年かけて繰り返し書き直したことは確認できる。ただし、200稿以上を作ったという数字は広く語られているものの、本人インタビューや公刊資料で出どころを確かめられない。もし本当なら途方もない改稿量だが、正確な稿数としては断定しない方がよいだろう。
クリスが見る手術説明映像の代わりに、ジェームズ・テイラーの「You've Got a Friend」(1971)を繰り返し聞かせる案があったという。削除案そのものは具体的に伝わっているが、楽曲使用料が高かったため説明映像へ変更したという因果までは確かめられていない。費用も理由だった可能性はあるが、現段階では二つの話を分けておく方がよさそうだ。
キャサリン・キーナーが『マルコヴィッチの穴』(1999)に続いて、他人の身体を乗っ取る物語へ出演していることから、二作品が同じ世界の続編だという説が生まれた。つながっていたら面白いところだが、ジョーダン・ピールは発想自体を楽しみつつ、物語上のつながりは否定している。