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1960年公開。東宝の「変身人間シリーズ」第3作であり、本多猪四郎が監督、円谷英二が特技監督を務めた。怪物映画として大掛かりな見せ場を前面に出すのではなく、犯罪サスペンス、古典芸能、人体改造のSF設定、悲恋を一つへまとめ、特撮は本編を支える側へ回っている。本多猪四郎公式サイトも、本作を密室犯罪と芸に生きる者の業を結びつけたジャンル混合の作品と位置づけている。東宝特撮の看板スタッフを揃えながら、派手さより人間ドラマを選んだあたり、怪物より企画会議のほうがよほど大胆だったようだ。
本作は、資料によってタイトル表記が少し揺れる。本多猪四郎公式サイトでは「ガス人間㐧一号」、東宝旧ページ系では「ガス人間第1号」とされ、古いポスターや台本の表記まで追うと文字そのものが小ネタになる。
本作は1960年12月11日公開で、同時上映は『金づくり太閤記』だった。重い悲恋SFミステリと時代ものコメディが並ぶ編成で、当時の映画館の二本立て感がかなり伝わる。
本作は、東宝の「変身人間シリーズ」第3弾として位置づけられる。『美女と液体人間』『電送人間』に続き、今度は“気体になれる男”で密室犯罪に挑む、発想だけでもかなり攻めたシリーズだ。
本作は東宝特撮だが、怪獣が暴れる映画ではない。銀行強盗、密室の不可能犯罪、日本舞踊の家元、人体実験を混ぜたSFミステリで、派手さより「どうしてそんな犯罪が可能なのか」で引っぱる作品だ。
本作は、能力者犯罪の話でありながら、核にあるのは水野と藤千代の悲恋だ。本多公式の解説でも、美女と異形の者の物語や近松の心中ものに通じる恋愛劇として紹介されている。
現場写真キャプションでは、本作の特撮が『マタンゴ』と同じく本編のサポートに回っていると説明されている。円谷英二の特撮が、見世物ではなく人物ドラマを押し上げる使われ方をしているのがポイントだ。
スタッフ表には、特技監督・円谷英二だけでなく、光学撮影の荒木秀三郎、合成の向山宏の名前も並ぶ。ガス化表現は“円谷特撮”の一言ではなく、光学・合成班の手仕事でも支えられていた。
『ガス人間第一号』で藤千代が復活公演として発表しようとする演目は、新作舞踊「情鬼」だ。特撮映画なのに、クライマックスの緊張が銀行でも研究所でもなく、舞踊の舞台に集まっていくのがかなり独特だ。
スタッフ表には、音楽の宮内国郎だけでなく、作詞、作曲、作調、振付の担当も記録されている。日本舞踊が飾りではなく、映画の構造に入り込んでいることがスタッフ欄からも見える。
本多公式ページには、新聞記者・京子役の佐多契子を、本多猪四郎監督と円谷英二特技監督が挟む現場写真が掲載されている。特撮と本編の両トップが並ぶ一枚として、現場感が濃い資料だ。
本多公式ページには、新聞社に現れたガス人間を警官隊が急襲する場面の演出風景も紹介されている。ガス化する怪人を相手に“ガス銃”を持つ警官隊という、道具のセンスも昭和特撮らしい見どころだ。
企画には、アメリカの脚本家ジョン・メレディス・ルーカスのストーリーが関わっていたとされる。東宝特撮の日本的な悲恋ドラマに、海外原案が混ざっていた可能性があるのは面白い入口だ。
本作は、初期には福田純が監督する予定だったが、別仕事に移ったため本多猪四郎へ回ったとされる。本多作品として語られる映画にも、制作途中では別の分岐があったわけだ。
本多猪四郎参加には、予定されていた航空ドラマ『今日も私は空にいる』が中止になったことが関係したとされる。もし中止がなければ、この悲恋特撮の監督が変わっていたかもしれない。
脚本は、安保闘争や銀行強盗事件が注目された1960年の空気を反映しているとされる。単なる怪奇SFではなく、当時の社会不安を“透明な犯罪者”の話に変換した作品として読める。
本作では、外景として日本銀行本店や国立国会図書館が使われたとされる。銀行強盗と国家的な建物の硬いイメージが、ガスのようにつかめない犯罪者といい対比になっている。
『ガス人間第一号』で水野が気体化する前に胸元へ手を置くしぐさは、土屋嘉男と本多猪四郎が相談して作ったものとされる。派手な変身より、本人の苦しさがにじむ“クセ”として見ると味がある。
『ガス人間第一号』で藤千代を演じた八千草薫は、舞踊場面のために撮影後も稽古を重ねたとされる。元宝塚の華やかさだけでなく、落ちぶれた家元の誇りを舞で見せる役だったことが分かる。
ガス化表現には、ワイヤー、ドライアイスの煙、光学合成などが使われたとされる。CGなしの時代に、“体が空気になる”という無茶なアイデアを物理と合成で見せていたわけだ。
本作は米国で『The Human Vapor』として公開された際、79分ほどに短縮され、能力の見せ方やラストの印象も変えられたとされる。海外版では“何を先に見せるか”まで別物になっていた可能性がある。
米国公開版は、『妖星ゴラス』と二本立てで上映されたとされる。日本では悲恋SFミステリ、海外では宇宙SFとのセットという売り方で、作品の見え方がだいぶ変わる。
英語吹替版では、後に『ブレードランナー』や『カンフー・パンダ』でも知られるジェームズ・ホンが水野の声を担当した。本人は、感情を大事にしてけっこう丁寧に吹き替えたと振り返っている。
英語吹替を担当したジェームズ・ホンは、後年、土屋嘉男が自分の英語の声を評価していたと聞かされたと語っている。吹替版をめぐる、原語の主演俳優と声の俳優をつなぐいい話だ。
『ガス人間第一号』には、未製作の続編『フランケンシュタイン対ガス人間』案があったとされる。ガス人間が藤千代を蘇らせるためにフランケンシュタイン博士を探す構想だったという、名前だけでなかなか強い没企画だ。
宮内国郎による音楽は、後に『ウルトラQ』や『ウルトラマン』でも使われたとされる。東宝特撮の不穏なムードが、のちのテレビ特撮の空気へつながっていくと考えると楽しい小ネタだ。
本作は、2009年に東宝製作の舞台版も作られたとされる。映画から約半世紀後に、特撮の“ガス化”を舞台表現へ置き換える企画が生まれたのは、相当変わった再利用だ。
本作は、2026年配信予定のNetflixシリーズ『ガス人間』として再始動すると報じられている。小栗旬、蒼井優らの名前が出ており、1960年の東宝特撮が現代VFXでどう変わるか注目だ。
未制作企画や派生案の話から、『ガス人間第一号』には完成済みの続編がどこかに残っているように語られることがある。現時点で確認できるのは企画・構想レベルの情報で、完成フィルムの存在とは分けて扱う必要がある。