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2013年公開。ディズニーはアンデルセンの『雪の女王』の映画化を長年試みていたが、物語の中心人物を定めきれず、企画は何度も開発と中止を繰り返した。本作でも当初のエルサは明確な悪役として構想されていたが、「レット・イット・ゴー」が完成したことで人物像が根本から見直され、姉妹の関係を軸に脚本全体が組み直された。製作費は約1億5,000万ドル、世界興収は約12億8,500万ドルに達し、2013年の世界興収首位となった。何十年も決まらなかった企画が世界的現象になったのだから、会議を重ねれば名作が生まれるというより、名曲が会議を黙らせた一本である。
初期のエルサは、結婚式で相手に逃げられた怒りから自分の心を凍らせ、青い肌と逆立つ黒髪を持つ悪役になる構想だった。妹アナが雪の女王を救う姉妹の物語ではなく、危険な魔女を止める筋書きに近かった。完成版の淡い肌、編み込んだ金髪、感情を抑え込む人物像は、物語の全面改稿とともに作り直された。
ディズニーは、アンデルセンが1844年に発表した童話『雪の女王』を何度も長編化しようとしたが、旅をする少女と遠くにいる女王を一本の感情的な物語へ結び付けられず中断していた。企画が再び本格化した後も、敵味方の構図だけでは人物に厚みが出なかった。アナとエルサを姉妹にする発想によって、雪の魔法は外から襲う脅威ではなく、家族の愛情と恐れを引き裂く力へ変わった。
制作陣は社内の女性スタッフを集め、姉妹との思い出を語ってもらう「シスター・サミット」を開いた。仲の良さや対立だけでなく、憧れ、競争、保護、苛立ちが同時に存在する体験が集められた。そこで得た話は、ためらわず距離を詰めるアナと、守るために遠ざけようとするエルサの対照へ取り入れられた。
2012年春の社内試写では、制作陣自身が物語をうまく説明できないほど構成が崩れていた。そこからエルサの悪役設定を捨て、姉妹の感情を中心に脚本をほぼ一から組み直したうえ、公開日は当初の想定より約1年早められた。脚本、楽曲、作画、技術開発を並行して進め、約18か月で完成へ持ち込むことになった。
脚本の立て直しに参加したジェニファー・リーは、作品への遠慮より構成を優先し、当時うまく機能していなかったオラフを削る案まで含むメモを提出した。共同作業の中で、オラフは姉妹の幼少期とエルサの優しさを残す存在へ再設計された。こうした率直な提案を重ねたリーは脚本家から共同監督となり、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編を監督した最初の女性になった。
クリステン・ベルらは旧脚本を一度ほぼ全編録音し、その作業は約1年半に及んだ。しかし試写後の全面改稿で、大量の音声はほとんど使えなくなった。新しい脚本を完成させてから一括収録する余裕はなく、俳優たちは前後関係を十分知らされないまま更新された場面を断片的に録り、変化する人物像を声で作り直した。
初期のクリストフは、他人が捨てた壊れ物を集める山男で、山小屋をがらくたで埋める人物として考えられていた。一方のアナは、自分の結婚式を完璧に整えようとする几帳面な性格だった。全面改稿では二人の役割が組み替えられ、勢いで恋へ進むアナと、その危うさを見抜く現実的なクリストフという対比になった。
「レット・イット・ゴー」(2013)は、当時まだ悪役だったエルサが力を解放する歌として書かれた。ところが歌詞には、完璧であろうとして本心を抑え続けた人物の苦しさが具体的に刻まれ、単純な敵として扱えなくなった。制作陣はエルサを倒す筋書きを捨て、恐れから妹を遠ざけた姉と、その姉を取り戻そうとする妹の物語へ脚本を変えた。
ロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスは、ニューヨークのプロスペクト・パークを歩きながら、完璧に見える人物が秘密を抑え続ける感覚を言葉にした。そこで「孤独の王国」という核になる表現が生まれ、帰宅後はピアノで旋律を試し、ホワイトボードへ歌詞を書きながら、その日のうちに「レット・イット・ゴー」(2013)を形にした。宮殿や衣装の変化は、後から歌の心理の流れに合わせて設計された。
「レット・イット・ゴー」(2013)の終盤は、イディナ・メンゼルが原案よりさらに高い音で歌う案を出し、そのテイクが採用された。エルサが抑制を振り切る場面に、声がもう一段上へ抜ける勢いが加わった。映画の世界的成功後、メンゼルは難しい高音をライブで繰り返し歌うことになり、自分で上げた判断を冗談交じりに悔やんでいる。
「レット・イット・ゴー」(2013)を担当したアニメーターのウェイン・アンテンは、自分で曲を歌いながら、鏡や録画の前で腕、肩、視線の動きを試した。イディナ・メンゼルの録音からは、声だけでなく息を吸う位置や力の抜け方も拾っている。エルサが最初は小さく身を守り、歌が進むほど空間を大きく使う変化は、アンテン自身の身体演技を一コマずつ整理して作られた。
ロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン=ロペスは制作中に20曲以上を書いたが、完成版で物語を運ぶ主要曲は8曲に絞られた。人物設定や場面の目的が変わるたび、録音まで進んだ曲も削除され、新しい歌へ置き換えられた。歌を完成した脚本へ加えたのではなく、歌詞で人物の望みを具体化し、その結果を脚本へ戻す往復作業が続いていた。
削除曲「We Know Better」(2013)は、幼いアナとエルサが宮廷の決まりへ一緒に反発し、自分たちは普通の王女にはならないと歌う約8分の冒頭曲だった。この版では姉妹が成長する時間を長く共有するため、完成版より関係が安定して見える。物語の傷を早く提示し、閉ざされた扉を中心に据える構成へ変わったことで、録音まで進んだ大曲は本編から外された。
初期のデュエット「You're You」(2013)では、ハンスがアナの言葉をたびたび遮り、自分の魅力を一方的に売り込んでいた。制作段階の試聴ではハンスが早くから信用できない人物に聞こえ、後半の裏切りが成立しにくかった。完成版の「とびら開けて」(2013)は、二人の好みと動きが偶然重なる恋の歌に聞こえながら、ハンスがアナへ調子を合わせているとも解釈できる形へ書き直された。
初対面の読み合わせで、クリステン・ベルとイディナ・メンゼルは、ベット・ミドラーの「愛は翼にのって」(1988)を即席で二部合唱した。メンゼルが上の旋律、ベルがハーモニーを受け持つと、異なる声質が家族らしく重なった。完成版には使われない歌だったが、二人の間に姉妹としての親密さが生まれることを制作陣へ示した。
クリステン・ベルとイディナ・メンゼルは、ともに『塔の上のラプンツェル』(2010)のオーディションを受けたが、その作品では役を得られなかった。ところがキャスティング担当者は録音を保存しており、新しい姉妹役を探す際に再び声を検討した。一度は不採用になった歌唱資料が、陽気で不器用な妹と、力を抑える姉という対照的な配役へつながった。
ジョシュ・ギャッドはオラフを演じていた時期、ドリームワークスの未完成アニメ企画『Me and My Shadow』との契約上の制約を抱えていた。そのため、オラフが予告や商品で作品の顔になっていく一方、ギャッド本人は公開前の宣伝へ自由に参加できなかった。競合作品は最終的に中止されたが、ギャッドは本作が公開されるまで、自分とオラフを結び付ける宣伝をほとんど行えなかった。
クリステン・ベルが「とびら開けて」(2013)を録音したのは妊娠8か月の時期だった。ハンス役のサンティノ・フォンタナがブロードウェイの舞台へ戻る予定もあり、二人の声を同じ感覚でそろえられる時間は限られていた。アナが夜の城を駆け回る軽快な歌唱は、身重のベルと舞台日程を抱えたフォンタナが短い機会へ集中して作った。
ジョシュ・ギャッドは録音中、制作陣を笑わせるために台詞の間や言い回しを変え、思いついた反応を何通りも試した。その場で受けた即興の一部が本編へ残り、オラフの無邪気さと少しずれた会話のテンポを形作った。初期稿では毒舌な相棒に近かったオラフが、幼い姉妹の思い出を無自覚に運ぶ存在へ変わる過程にも、ギャッドの声が影響した。
制作陣はスヴェンの身体を理解するため、生きたトナカイをアニメーション・スタジオへ連れてきた。アニメーターは歩行、ひづめの置き方、耳や首の反応、食べ方を間近で観察した。一方、クリストフへ甘える表情や人懐こい反応には、クリス・バック監督の飼い犬の振る舞いも取り入れ、動物としての構造と相棒らしい性格を分けて組み立てた。
制作陣はノルウェーを巡り、フィヨルド、城郭、港町、伝統工芸を一つの王国へ組み合わせた。切り立つフィヨルドは地形に、オスロのアーケシュフース城は城郭に、ベルゲンのブリッゲンは港町の色と構造に取り入れられた。樽板教会の急な屋根や木組みは建築へ、花や曲線を描くローズマリングは壁面と衣装の刺繍へ使われ、風景、建物、服が同じ文化から生まれたように統一された。
美術・照明チームはケベックの氷のホテルを訪れ、厚い氷を通った光が内部で拡散し、青や緑の層として見える様子を観察した。氷の表面にできる傷、気泡、反射の違いも記録し、透明なガラス一色にはしなかった。エルサの宮殿は、外光、内部の感情色、氷の厚みが重なる素材として設計された。
冒頭曲「ヴェリィ」(2013)は、南サーミの音楽家フローデ・フェルハイムが、自らの文化に伝わる歌唱ヨイクを基に作曲した。録音はノルウェーの女性合唱団カントゥスが担当し、南サーミ語の響きと反復する声をオーケストラへ重ねた。アレンデールの景観が現れる前から、作品の北方性を風景ではなく人の声で提示している。
本作は南サーミのヨイクを冒頭へ使い、クリストフの衣装やトロールの意匠にもサーミ文化を連想させる要素を取り入れた。一方で、少数民族の文化を大作へ借りながら、協議や表示が十分ではないという批判が生じた。『アナと雪の女王2』(2019)の制作では、サーミ議会や言語・文化の専門家と正式な協力関係を結び、衣装、音楽、言葉の扱いを共同で検討する仕組みへ変わった。
深い雪が足にまとわりつき、塊になって押され、重さで割れる動きを作るため、制作陣は、雪を粒の集まりとして追跡し、計算時には格子へ情報を移す「物質点法」による雪シミュレーション「マッターホルン」を開発した。粉雪と圧雪の両方を一つの仕組みで扱い、アナが雪へ沈む場面、木から大量の雪が落ちる場面、船が雪を押し分ける場面に使っている。
雪のシミュレーションは、現実の物理をそのまま再現するだけでは画面上の演技を埋もれさせてしまう。そこで「マッターホルン」には、雪の硬さ、粘り、圧縮、崩れやすさを場面ごとに調整できる仕組みが設けられた。人物の足元では接触を読みやすくし、雪が落ちる見せ場では塊を大きく保つなど、物理計算へ演出上の調整を加えられる設計だった。
エルサが床、噴水、階段を凍らせる場面では、氷の効果を設計するスタッフが、まず完成画面の上へ氷の進路を2Dの線で描いた。その線を3D空間へ投影し、枝分かれ、厚み、結晶の成長を加えて立体的な氷へ変換した。魔法の形を完全な自動計算に任せず、視線を導く構図を手描きで決めてから物理的な素材へ仕上げている。
毛髪制作ツール「トニック」は、デザイナーが置いた少数のガイド毛から髪の束と流れを作り、最終画像を描き出す段階で数十万本へ増やした。エルサの複雑な髪型には40万本を超える毛が使われ、編み目の大きな形と細い毛の乱れを同時に持たせた。戴冠式の固くまとめた髪と、山でほどけた編み髪は、同じ人物の心理変化を髪型と動きの両方で表している。
オラフは頭、胴、腰の雪玉を外し、順番を入れ替え、別の場所から拾い直す。その芝居を通常の骨格だけで扱うと、部品を外すたび腕や顔の基準が崩れてしまう。専用ツール「スペーシズ」は各部分を独立して動かしながら、腕や顔をその瞬間の雪玉へ連動し直せるようにし、分解そのものを演技として使える状態にした。
山の場面では、髪、マント、スカートを別々に都合よく揺らすのではなく、人物の周囲に共通する風の場を作った。軽い髪は細かく反応し、重い布は遅れて大きく動くが、力が来る方向と時間は共有される。目に見えない風を、複数の素材が同時に受ける反応として画面へ示した。
美術監督マイケル・ジアモは、1950〜60年代のシネマスコープ作品が人物と風景を横長画面へ配置する方法を研究した。参照したのは『黒水仙』(1947)、『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)、『ドクトル・ジバゴ』(1965)などで、山やフィヨルドの広さを背景ではなく人物を圧迫する空間として使った。アナが小さく見える雪原と、エルサが空間を支配する宮殿では、同じ横長画面が異なる効果を生んでいる。
氷の宮殿の色はエルサの感情に連動する。自分の力を受け入れた瞬間は澄んだ青と白で輝き、アナを再び傷つけた恐怖や兵士の襲撃が迫ると、赤や紫の光が氷の内部へ広がる。人物の顔色だけでなく、床、柱、壁を含む建築全体を感情に反応させた。
訳詞を担当した高橋知伽江は、英語より一音に入る情報が少ない日本語を、すでに完成している旋律と口の開閉へ合わせる必要があった。原文の語を順番に置き換えると歌えず、説明を詰め込むと人物の感情が消える。そのため、各場面でアナやエルサが何を決意するのかを残し、発音の長さと母音を調整して日本語の歌詞を作った。
日本語版では、本編の「レット・イット・ゴー」(2013)を松たか子が歌い、エンドクレジットではMay J.の別録音が流れる。同じ旋律と日本語詞を別の歌手が録音し、松たか子版は台詞から続くエルサの芝居、May J.版は映画を離れて聴かせる主題歌として、歌唱と編曲の役割を分けた。権利管理上も劇中歌とエンドソングは別作品として扱われている。
2014年に劇場公開された日本語版では、オラフの台詞と歌をピエール瀧が担当していた。2019年の逮捕を受けてディズニーは声優を武内駿輔へ変更し、シリーズの新作だけでなく本作の音声も録り直した。現在の公式ページ、配信、現行商品は武内版を案内しており、初公開版は同じ映像に異なるオラフの声が残る版となった。
ディズニーは各国の吹替版からエルサの歌唱を一節ずつ選び、25言語で「レット・イット・ゴー」(2013)一曲をつなぐ公式映像を制作した。言語と声質が次々に変わっても、旋律と画面上のエルサは切れずに進む。通常は地域ごとに分かれて見えにくい吹替制作を、一人の人物が世界中の声を持つ見せ方へ変えた。
初期の予告編は、オラフとスヴェンが雪上で争う短いコメディを中心にし、ミュージカルであることも姉妹の物語であることもほとんど見せなかった。社内には、歌や女性主人公を前面に出すと若い男性層が離れるという懸念があったためである。公開後の宣伝では、初期予告が隠していたアナとエルサの関係や楽曲も前面に出された。
公開前の取材で、作画責任者リノ・ディサルヴォは、女性キャラクターは強い感情を表しながら美しさを保つ必要があり、作画が難しいという趣旨を述べた。この発言は、男性より女性の顔を狭い美的基準へ押し込めているとして反発を招いた。制作側は、複雑な3Dモデルの顔が大きく崩れないよう制御する技術上の説明が短く切り取られたと釈明している。
作家イザベラ・タニクミは、自伝に描いた姉妹、山、事故などと映画が似ているとして、ディズニーへ2億5,000万ドルを求めた。しかし裁判所は、共通するとされた要素の多くが一般的な題材や抽象的な発想であり、著作権が保護する具体的表現に実質的な類似はないと判断した。請求は棄却され、米国第三巡回区控訴裁判所もその結論を維持した。
第86回アカデミー賞で、本作は長編アニメーション賞を、「レット・イット・ゴー」(2013)は歌曲賞を受賞した。長編アニメーション賞は2001年度に創設された部門で、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編が受賞するのは初めてだった。ディズニー本体の長編とピクサー作品を分けて見ると分かる記録である。
世界興行収入は約12億8488万ドルに達し、そのうち日本は約2億4904万ドルを占めた。日本だけで世界総額の約5分の1に近い数字である。公開当時にはアニメーション映画の世界興行収入記録を更新したが、その順位は後年の作品に抜かれている。
城門が開く「生まれてはじめて」(2013)の途中、ラプンツェルとユージーンが画面左から城内へ入ってくる。ラプンツェルは『塔の上のラプンツェル』(2010)終盤の短い髪と紫・桃色の服、ユージーンはえんじ色のベスト姿である。群衆の一組として短時間だけ映るため、アナを追う視線から少し外れた場所に置かれている。
凍結したアレンデールでは、二人の男が薪の樹皮を上向きに積むか、下向きに積むかで口論している。同じ2013年、ノルウェーの公共放送が薪割りと暖炉を長時間映す番組を放送すると、視聴者から薪の向きをめぐる意見が相次いだ。映画内の会話は、その年にノルウェーで実際に話題となった薪の積み方と重なる。