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1981年公開。2026年時点でイオン・プロダクション製作の007シリーズ全25作中第12作であり、ロジャー・ムーア主演作としては第5作である。前作『ムーンレイカー』で宇宙まで行った反動から、製作陣は小規模な諜報戦と現実的なスタントへ路線を戻し、編集・第二班監督を長く務めたジョン・グレンを監督へ昇格させた。グレンは本作から5作連続でシリーズを任され、プロダクションデザインもより現実寄りへ改められた。派手さを削ったというより、シリーズがようやく地球へ帰還し、自分の足元を確認した一本である。
宇宙まで飛び出した前作『ムーンレイカー』の後、『007/ユア・アイズ・オンリー』はシリーズを地上のスパイ活劇へ戻す一本になった。巨大なSF趣味よりも、追跡、復讐、裏切り、身体を張った現実寄りのアクションに重心が置かれている。
『007/ユア・アイズ・オンリー』は、ジョン・グレンが初めて007本編を監督した作品だ。編集や第二班演出でシリーズを支えてきた人物が、ここから80年代ボンドの演出を連続して担うことになる。
長くMを演じたバーナード・リーの死去により、『007/ユア・アイズ・オンリー』ではシリーズでも珍しくMが登場しない。任務説明の一部はQやTannerに分散され、いつものMI6場面にM不在の余白が残っている。
冒頭でボンドが亡き妻トレイシーの墓を訪れる場面は、単なる過去作サービスではない。ロジャー・ムーア続投が不透明だった時期に、新しいボンド俳優でも観客が過去を受け止められるようにする継承の導入として考えられていた。
『007/ユア・アイズ・オンリー』冒頭の車椅子の男は、過去作の宿敵を強く連想させるが、映画内では名前が明言されない。シリーズの権利事情が、画面上では名無しの宿敵という形で処理された場面だ。
本作ではボンドの高性能Lotusが早々に爆破され、その後の逃走車は小さなCitroën 2CVになる。最新兵器ではなく機転で切り抜ける構成が、作品全体の低テク路線を象徴している。
メリーの黄色い2CVチェイスは、見た目の軽さに反してかなり大掛かりな撮影だった。コルフ島で12日間かけて撮られ、車両にはスタント用の改造が施された小さなアクションスターだった。
メリーの水中クローズアップには、実際の海中ではなくスタジオで作られたショットがある。風で髪を揺らし、泡を加えることで、水の中にいるように見せる乾いた水中撮影が使われた。
終盤の山上要塞はギリシャのメテオラ地方で撮影されたが、その壮大な景色の裏では現地の修道士たちが撮影に反発した。生活の痕跡を画面に入れようとする動きもあり、ロケ地そのものが撮影上の障害物になっていた。
メテオラの山岳アクションでは、リック・シルヴェスターが高所から落下する危険なスタントに挑んだ。特殊効果監督デレク・メディングスは、ロープが張る瞬間の衝撃を逃がすため、止まり方まで設計していた。
Locqueの車を崖下へ落とす場面は、ロジャー・ムーア版ボンドとしてはかなり冷たい瞬間だ。ムーア自身はその冷酷さに抵抗を感じたが、映画には復讐劇としての硬い刃が残された。
主題歌を歌ったシーナ・イーストンは、曲だけでなくメインタイトル映像にも姿を見せる。歌手本人がここまで明確にタイトルバックへ組み込まれるのは、ボンド映画では珍しい歌と映像の一体化だ。
『007/ユア・アイズ・オンリー』は、ひとつの長編小説をそのまま映画化した作品ではない。イアン・フレミングの短編「For Your Eyes Only」と「Risico」を軸に、複数の要素を組み直した再構成型の007だ。
Countess Lislを演じたカサンドラ・ハリスは、後にジェームズ・ボンドを演じるピアース・ブロスナンの妻だった。『ユア・アイズ・オンリー』は、ブロスナンが007になる前にシリーズへ近づいていた小さな接点でもある。
雪上アクションの舞台になったコルティナ・ダンペッツォは、撮影時に十分な雪がなかった。制作側は周辺から雪を運び込み、街路に撒いて冬のリゾート感を作った。
ミロス・コロンボのピスタチオ癖は、人物を一目で覚えさせる小さな記号になっている。会話の合間に食べる仕草が、彼の余裕と食えない魅力を補強する食べる小道具として効いている。
冒頭のリモコンヘリコプター場面は、巨大な軍事技術の発想から生まれたわけではない。ジョン・グレンがパインウッドでリモコン玩具を目にしたことが、ボンドを翻弄する奇妙なヘリのアイデアにつながった。
『007/ユア・アイズ・オンリー』は興行的な成功作であると同時に、配給史の節目にも置かれている。EON製作ボンドがUnited Artists単独で公開された時代は、本作を境に終わりへ向かった。
雪上アクションの舞台コルティナ・ダンペッツォは、美しいスキーリゾートであるだけではない。1956年冬季五輪の記憶を持ち、映画のスポーツアクションに現実の競技史も重なっている。
Eonは当初、『私を愛したスパイ』の次に『ユア・アイズ・オンリー』を作るつもりだったとされる。しかし『スター・ウォーズ』後のSFブームを受けて『ムーンレイカー』が先になり、制作順が入れ替わった。
『ムーンレイカー』の後、本作は比較的予算を抑える必要があったとされる。結果的に宇宙規模の派手さではなく、ロケとスタント中心の身体で見せる007へ戻る流れにもつながった。
ロジャー・ムーア続投が不透明だった時期、後にボンドを演じるティモシー・ダルトンの名も候補として語られている。『ユア・アイズ・オンリー』には、未来の007が影の候補として重なっていた。
有名な『007/ユア・アイズ・オンリー』のポスターには、女性の脚の間にボンドを配置する大胆な構図が使われた。その脚のモデルをめぐっては複数の主張が語られており、宣伝写真の都市伝説として今も残っている。