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2024年6月14日公開、68分のオリジナル劇場アニメーションである本作は、映像制作チームHurray!にとって初の劇場長編であり、設立間もない100studioとの共同制作になった。発端は100studio代表・堀口広太郎からのMV制作の相談だったが、予算とスケジュールが折り合わず一度保留となり、2分作品を複数本つくる案を経て、バンダイナムコフィルムワークスのプロデューサー・秋山洸飛の提案で長編へ膨らんだ。脚本は花田十輝と何度も擦り合わせたものの行き詰まり、花田の提案で先に劇中曲「未明」のMVをつくる方針へ転換したうえ、複数の音楽家との調整が難航した末に、Hurray!と旧知のVIVIへ歌唱楽曲の制作を託して軸を定めた。制作はBlenderを主な作業基盤とし、ぽぷりかが演出から実データ制作、おはじきが2D・3Dアニメーション、まごつきがキャラクターと画づくりを担い、背景やハイライトの調整を少人数で積み重ねた。特にHurray!が求める表現を他スタッフへ共有する難しさがあり、100studio側は脚本づくりと並行して人材を集め、終盤にはキャラクターのハイライト表現が完成2か月前まで定まらなかったという。創作を励ます映画を完成させるまでに、制作側も企画、音楽、画づくりを何度も励まし直していたのである。
本作の出発点は、100studio代表の堀口広太郎がHurray!へ持ちかけたMVだった。予算と日程が折り合わず一度保留になった企画は、数か月後に「2分×9話」の短編として復活し、Hurray!側の提案で18話、約40分の映画へ拡大した。さらにプロデューサーの秋山洸飛が、長い物語のほうがHurray!の魅力を生かせると考え、最終的に60分級の劇場アニメーションとなった。
Hurray!の3人は、企画を引き受けた時点で3分前後のMVや短編しか作った経験がなく、中編アニメーションすら未経験だった。約40分の段階でも不安を感じ、60分の劇場作品へ拡大したときには尻込みしたという。それでも「こんなチャンスは二度と来ない」「受けなければ後悔する」と話し合い、初の劇場長編へ踏み出した。
【ネタバレあり】脚本開発では、ぽぷりかが伝えたい主題と登場人物の行動がかみ合わず、花田十輝が何度書き直しても着地点が決まらない時期が続いた。そこで花田は、彼方が終盤に完成させる「未明」のMVを先に作ることを提案した。Hurray!の3人が本編のテストを兼ねてMVを仕上げ、その映像を脚本へ逆輸入することで、物語の道筋が見えてきた。
【ネタバレあり】先に作られた「未明」MVの初期案は、キャンバスへ向かい続ける人物と、そこから離れて進む人物を交互に描いていた。花田十輝は、その映像なら夕が音楽をやめる物語にしなければ整合しないと指摘した。しかし、ぽぷりかは夕に制作を続けてほしいと考え、MVを「それでも作り続けてほしい」と言い切る内容へ改めた。この修正が、映画の結末を決める軸になった。
織重夕の曲は、当初、著名なアーティストを含む複数の候補へ相談されたが、日程などが合わず制作が進まなかった。悩んでいたぽぷりかは、以前から友人だったVIVIに会い、参加できれば人生で一番頑張るという言葉を聞いた。その思いに動かされ、夕の境遇と似た音楽経験を持つVIVIへ歌唱楽曲を任せた。
ぽぷりかとVIVIは以前から菅原圭をSNSで追い、本人が「劇中歌を歌ってみたい」と投稿していたことも覚えていた。二人が特に好きだったのが「crash」で、叫ぶように歌う感触が織重夕に合うと考えた。劇中歌はこの曲をリファレンスの一つにして作られ、菅原は自身ではなく夕としてどう歌うかを組み立てた。
【ネタバレあり】菅原圭は本作で5曲を歌い、「未明」は比較的早い時期に録音した。その約1年後、彼方が作った完成MVのキャラクターの表情へ声を合わせるため、最後のサビを歌い直した。1年の間に菅原の音域が広がり、最初は地声で出なかった部分も出せるようになったため、再録音版は感情の強さも増したという。
【ネタバレあり】「未明」には、同じセクションの繰り返しがない。洗練しすぎた編曲を避け、直線的なバンドサウンドで展開を変えるため、1番と2番のAメロを含め、同じセクションを一度も繰り返していない。監督からは終盤で何度も盛り上がる難しい構成も求められ、覚えにくい曲を菅原圭が歌い切った。
企画段階では2Dアニメーションで作る可能性も検討されたが、ぽぷりかは最初からフル3Dを希望した。既存のセル調3DCGを追えば劣化版にしかならず、Hurray!のMVで培った世界観を長編へ広げるには、自分たちが全工程の画づくりに関わる必要があると考えたためである。一方で奇抜さを強くしすぎず、1時間見続けても疲れない画を目指した。
本作の主要ツールはBlenderだったが、参加したアニメーションスタッフには熟練者がほとんどいなかった。日本の制作現場ではMayaや3ds Maxが一般的で、Hurray!の画づくりをそのまま再現できる人材も見つけにくかったためである。Hurray!はBlenderの使い方を一から教え、100studioの田中祐輔が技術上の問題解決を支えた。
画面の最終的な印象はHurray!の3人が握った。おはじきが背景、まごつきがキャラクターの色と照明、ぽぷりかが最終コンポジットを中心に担当した。一方、100studioの約15人と協力会社は、キャラクターと小道具のモデル・リグ、モーションキャプチャー後のアニメーション調整、一部モーショングラフィックスなどを受け持った。少人数作品だが、3人だけで全工程を作った映画ではない。
ぽぷりかは、全編のVコンテをBlenderのGrease Pencilで作った。以前は1枚ずつ書き出した絵をAfter Effectsへ並べていたが、Blenderならタイムライン上でカット順を入れ替え、カメラの動きも付けられる。キャッシュ待ちをせず非線形編集に近い速度で再生できたため、本作では脚本の次にこの立体的なVコンテを制作工程の基準とした。
日常芝居のモーションキャプチャーは専用スタジオではなく、おはじき副監督の自宅で行われた。ぽぷりかとおはじきは全身センサー式のPerception Neuronを共同購入し、互いにアクター兼ディレクターとなって登場人物を演じた。女性キャラクターらしい動きは特に難しく、ぽぷりかが実際に動きながら演技を探した。
おはじき宅へ作ったモーションキャプチャー環境は、床下の金属製建材がセンサーへ干渉し、精度が落ちる問題に直面した。二人は折り畳み式の箱型スツールを並べ、その上へ90センチ四方の板を連結して載せ、演技する床そのものを持ち上げた。大規模スタジオを借りず、家庭内の環境を工作で調整した収録設備だった。
高校の廊下や校門前を彼方が走る長い動きは、自宅の収録床に収まらないため近所の公園でキャプチャーした。全身へセンサーを付けたぽぷりかが走る様子を、周囲の子どもたちが遠巻きに見ていたという。完成画面の学校内の疾走は、実際には住宅地近くの公園で演じられていた。
動きの収録方法は場面ごとに使い分けられた。日常芝居はHurray!の二人が自宅で演じたが、路上とスタジオのライブは楽器を弾けるプロのアクターを光学式モーションキャプチャースタジオで収録した。群衆の動きには、iPhoneで撮影した映像からAIがモーションを生成するMove AIを使用した。
ぽぷりかは、手描きアニメの2コマ・3コマ打ちをそのまま3DCGへ移すと、単にカクついた後追い表現になると考えた。本作ではモーションキャプチャーを整理し、演技を少し強調しながら、基本は全フレームで滑らかに動かしている。ただし自転車を全力でこぐ彼方の袖など、コマを抜いたほうが気持ちよく見える揺れ物だけは2コマ打ちにした。
背景や画面構成は、3Dだけで一度に完成させていない。ラフな3D画面をまごつきがCLIP STUDIO PAINTで加筆し、その段階では3Dで実現できるかを気にせず、絵として最も魅力的な案を出した。ぽぷりかとおはじきは、そのレタッチを再びBlenderのモデル、照明、配色へ落とし込み、行き詰まればまた描き足してもらう往復を繰り返した。
色鮮やかな光は、カットごとに位置・太さ・色を手で調整した。Hurray!の3人が、光の位置、太さ、色をカットごとに手で調整した。同じ場面でもカメラから遠い人物は環境光へ馴染ませ、ランダムさで手作り感を出しつつ、色を入れすぎて派手にならない境界を探った。
本作の画づくりは、納品直前まで大きく変化した。キャラクターのハイライト表現と全体の色彩方針が固まったのは完成まで約2か月の時点で、Hurray!の3人は1日およそ20カットのペースで背景、色、照明、レイアウトを磨いた。公開10日前の学生試写では約半分がまだ未完成で、ぽぷりかが満足できる映像になったのはイベントの2日前だったという。
ぽぷりかは絵コンテの段階から、未来へ進む彼方を順光、過去にとらわれる夕を逆光で描き分けた。監督の自己評価では彼方の約95パーセントがこの光の原則に従っている。また、未来を示す彼方は画面の左から右へ、過去へ向く夕は右から左へ視線や移動を置くことも意識した。
【ネタバレあり】終盤の海辺だけは、それまでの画面と印象を変えるために色彩の切り札を残していた。ぽぷりかはオレンジ色を最後まで意図的に避け、夕景で初めて大きく使った。そこへHurray!のテーマカラーである黄色の空間を重ね、物語の到達点を色だけでも感じられるよう設計した。
舞台を石川県にした理由は、Hurray!の3人が同県の大学で出会い、全員が共通して理解できる土地だったからである。登場人物が都会や田舎へ特別な憧れを持つ設定ではないため、聞きかじった場所ではなく、自分たちの実感を込められる金沢駅、片町、千里浜などを選んだ。劇中の高校も、3人が通った大学の近くにあると想像しながら作ったという。
MV制作を続けてきたぽぷりかは、本作で初めて、自分が音楽なしでは映像を編集しにくいことに気づいた。無音のVコンテでは「なぜこの長さで切るのか」が分からなくなり、サンプル曲を当てながら尺を決めていった。完成版には約15曲が使われ、監督自身も映画全体を「それぞれのMVをつないだような作品」と説明している。
Hurray!にとってアフレコを伴う作品制作は初めてで、主要4役にはそれぞれ約100本、合計約400本のオーディション音声が届いた。中川萠美役について、ぽぷりかはテープを聞いた時点で和泉風花しかいないと考えた。役柄との一致があまりに高く、収録では監督から和泉へ一度も演技指示を出さなかったため、本人は逆に少し不安だったという。
まごつきが最初に着手した主要キャラクターは織重夕で、作業は2021年11月に始まった。しかし当時は脚本も進行中で、夕が最後にどんな答えを出す人物なのか決まっておらず、デザインの着地点を見つけられなかった。途中で彼方のデザインを挟みながら案を重ね、夕の決定稿が完成したのは2022年7月だった。
本作はHurray!の3人が学生時代を過ごした石川県を舞台にしている。公開年の2024年に能登半島地震が発生したことを受け、配給収入の一部を復興支援の義援金として石川県へ寄付することが発表された。劇中の土地との関係が、背景美術や観光連携だけでなく、公開後の支援にもつながった。
「映画全体をHurray!の3人だけで作った」は誤り。ぽぷりか、おはじき、まごつきが最終的な画づくりを統括し、大半のカットを磨いたのは事実だが、100studioの約15人と協力会社も、キャラクターや小道具のモデル・リグ、モーション後のアニメーション調整などを担当した。正しくは、3人の作風をより大きなチームで支えた作品である。