『陰謀のセオリー』冒頭の一人語りを支えたのは、トランクの中の脚本家
『陰謀のセオリー』冒頭で、タクシー運転手のジェリーは次々と陰謀論をしゃべります。この撮影を支えた脚本家ブライアン・ヘルゲランドの仕事場は、走るタクシーのトランクの中でした。無線でメル・ギブソンの耳へ話題を送り、その語りを促していたのです。[1]
画面に見えるのは、運転しながら止まらずに話す男。しかし撮影中の車には、見えないところにも、もう一人の言葉の担当者がいました。
・車内には撮影者、後ろには脚本家
ヘルゲランドが取材で振り返るのは、オープニング・クレジットとジェリーの語りを撮った一日です。時間が限られる中、ニューヨークの道路を実際に走り、ギブソンが運転し、撮影者は車内にいました。[1]
そのうえでトランクのふたを外し、ヘルゲランドがそこへ座りました。後方からギブソンに無線を使い、話題を知らせたと説明しています。例として挙げたのが、三極委員会について話すよう促したことでした。[1]
つまり、長い語りを撮影前に渡して終わり、という仕組みではなかったのですね。走行と撮影が続く中で、脚本家も場面の進行に加わっていました。
・全部が即興だった、と言い切ると見えなくなる
このエピソードは、ギブソンが自由にしゃべったという話にも見えます。ただしヘルゲランドの説明で具体的に分かるのは、脚本家が話のきっかけを送り、俳優が語る状況を作ったことです。[1]
一語一句をすべて先に決めたのか、どこから言い回しを変えたのかという境目より、ここで面白いのは役割の分担です。ジェリーの頭の中から次々に出てくるような話を、カメラの外では脚本家と俳優がやり取りしながら成立させています。
・最初にいたのは、陰謀ではなく人物だった
同じインタビューでヘルゲランドは、本作の出発点は人物だったと話しています。[1] その人物を紹介する冒頭では、何を知っている男かだけでなく、どんな調子で世界を説明してしまう男かが伝わります。
一人語りを聴き直すときは、内容の奇妙さに加えて、話題が次へ移る勢いにも耳を向けてみてください。その勢いの後ろには、トランクから送られる合図がありました。