主な参考資料
- TIME
- Directors Guild of America
- Los Angeles Times
- Post Magazine
- The Academy
ボーン・アルティメイタムを配信で見られるサービスを、確認できた範囲で掲載しています。未確認のサービスは公式サイトで探せます。
2007年公開。マット・デイモン主演、ポール・グリーングラス監督の本作は、トニー・ギルロイ、スコット・Z・バーンズ、ジョージ・ノルフィが脚本クレジットを分け合い、クリストファー・ラウズが編集を担った。 110日に及んだ撮影では、ラマダン中のタンジールで2,000以上の商店・事業者と撮影契約を結びつつ、群衆が膨らみすぎた日は中断もあり、脚本の変化に合わせてグリーングラスとデイモンが毎朝の打ち合わせを重ねた。 グリーングラスは、完成品の設計図を持ち込むのでなく、まず大枠を定め、制作の過程で見つけたものから映画を組み立てる手法だと説明している。 ダン・ブラッドリー率いるセカンドユニットは、タンジールの屋根上追走と格闘を14日間で撮り、小型のArriflex 235を抱えたスタントマンを俳優の直後に跳ばせ、ニューヨークのカーチェイスも限られた尺で組み直した。 ラウズは撮影翌日から素材を編集し、台本どおりではない複数の切り方を作ってピックアップ撮影を提案したというから、揺れたのは手持ちカメラだけではなかった。 The Numbersは製作費を1億3,000万ドル、世界興収を4億4,404万3,396ドルとし、Box Office Mojoは製作費1億1,000万ドル、世界興収4億4,282万4,138ドルとするが、北米興収は両者とも2億2,747万1,070ドルで一致する――大作の帳簿まで、編集室ほどには一枚にまとまらないのである。
タンジールでの撮影は、イスラム教徒が日の出から日没まで飲食を控えるラマダンの時期と重なった。制作陣は2,000を超える商店や事業者と撮影の契約を結び、イスラム教徒のスタッフの前では飲食を目立たせないよう配慮した。それでも見物人が増えすぎて撮影を止めた日があり、ニッキーとデッシュが人をかき分けて進む場面には、動きを完全には制御できない実際の通行人が映っている。
タンジールの屋根上追跡では、俳優だけでなく、小型カメラを抱えたスタント撮影者も同じ動線を進んだ。撮影者をワイヤーで建物の間へ渡す仕掛けや、割れる窓、実際の屋根、ロンドンのパインウッド・スタジオに作った室内セットをつなぎ、一続きの追跡に見せている。格闘指導のジェフ・イマダは数週間かけて動きを組み、マット・デイモンも通常撮影の後に毎日3~4時間の稽古を行った。手持ちカメラの切迫感には、ポール・グリーングラスが影響源として挙げる『アルジェの戦い』(1966)の映像感覚も取り込まれている。
本作の冒頭は『ボーン・スプレマシー』(2004)の直後、負傷したボーンが冬のモスクワを逃げる場面から始まるが、実際の撮影地はベルリンだった。撮影用の人工雪を扱う会社が最長約一週間にわたって雪景色を整え、ベルリンの街をモスクワとして映している。人工雪の材質や、街全体を覆うまでに要した時間については制作記録で確認できないため、撮影地と施工の事実だけを採用する。
『ボーン・スプレマシー』(2004)の最後で、ボーンは別の建物からパメラ・ランディへ電話をかける。本作はその場面を単なる回想として再使用せず、俳優と画面を撮り直して物語の途中へ置いた。そのため、本作の冒頭は前作のモスクワ場面の直後から始まり、進行する途中で前作の終幕へ追いつく。公開順では最後だった場面を時間軸の中へ戻すことで、二作品を重ねた構成である。
ニッキーとボーンの過去は意図的に断定しなかった。ポール・グリーングラスは音声解説で、記憶を失う前のボーンとニッキーには重要な関係があったが、その内容は意図的に曖昧なまま脚本と演出へ残したと説明している。観客が感じる含みは説明不足ではなく、答えを一つに固定しない人物設計である。
マット・デイモンが後年「恥ずかしい」と批判したのは、完成した本作ではなく、トニー・ギルロイの初稿だった。ギルロイはポール・グリーングラス監督と直接やり取りせず、一稿を提出したら制作から離れるという条件で脚本を引き受けた。ユニバーサルはその稿を基に製作を進めたが、その後はスコット・Z・バーンズ、ジョージ・ノルフィらが加わり、撮影中も脚本が変化した。デイモンは発言を公にしたことについては自分の誤りだったと謝罪している。
ウォータールー駅の追跡場面では、駅を閉鎖して通行人役を並べるのではなく、営業中の駅を利用する本物の乗客の中へ俳優と撮影班を入れた。周囲には撮影に気づいて携帯電話を向ける人もいたが、ポール・グリーングラスは後に、その雑然とした個人映像の感覚が、急いで撮ったように見える本作の手持ち映像と同じ時代を映していると気づいたと語っている。統制できない人の流れを、失敗として消さず画面の緊張へ変えた撮影である。
編集のクリストファー・ラウズは、撮影翌日に届く素材を九台の編集システムで分担し、台本どおりの順序だけでなく別の組み方も作った。編集結果から不足する映像を見つけると、制作側へ追加撮影を提案し、撮影中の脚本と演出へ編集室から情報を戻している。主要撮影が終わった後、ラウズに残された完成版の編集期間は約二週間で、7月20日に仕上げた映画が8月3日に全米公開された。
本作は第80回アカデミー賞で、編集賞、音響編集賞、録音賞の三部門に候補となり、その三部門すべてを受賞した。俳優や作品そのものではなく、断片的な映像を緊張の流れへ組む編集と、追跡や格闘の位置関係を耳で伝える音響がそろって評価された結果である。
『ボーン・アイデンティティー』(2002)と『ボーン・スプレマシー』(2004)の終幕には、モービーの「Extreme Ways」(2002)の同じ録音が使われた。本作では曲そのものを替えず、新たに録音した「Extreme Ways (Bourne's Ultimatum)」(2007)へ変更している。三作を同じ曲で結びながら、シリーズの一区切りとなる本作だけ演奏と音の組み立てを更新した。
『ボーン・アイデンティティー』(2002)は、海に浮かぶ記憶喪失の男が救い上げられる場面から始まる。本作は、過去を取り戻したボーンが再び水中へ落ち、泳ぎ始める姿で終わる。さらに、ボーンの最後の台詞は『ボーン・アイデンティティー』(2002)で教授が死の間際に語った言葉を繰り返し、第一作で名前だけ登場したブラックブライアー計画を事件の中心へ戻した。第一作の始まりと未解決の言葉を反転させ、三部作を閉じる構成である。
CIAがサイモン・ロスの通話を追跡する画面には、ロンドンの「020 7946」で始まる番号や「01632」の市外局番が表示される。これらは英国の通信規制機関Ofcomが、映画やテレビドラマで実在の利用者へ誤って電話がかからないよう確保している番号帯である。実在する監視システムらしい画面を作りながら、表示された番号が一般の契約者へつながらないようにしている。
本作の北米興行収入は、The NumbersとBox Office Mojoの双方で2億2,747万1,070ドルと一致する。一方、The Numbersは製作費を1億3,000万ドル、世界興行収入を4億4,404万3,396ドルとし、Box Office Mojoは製作費を1億1,000万ドル、世界興行収入を4億4,282万4,138ドルとしている。「シリーズ最高」など順位だけで説明せず、同じ映画でも製作費の推計と海外集計には資料差があることを残したい。
ニューヨークのカーチェイスを設計した第二班監督ダン・ブラッドリーは、広い道路で最高速度を競うのではなく、狭い街路で車両同士を接近させ、ぶつかりながら進む追跡へ組み立てた。第二班とは、主要な俳優の芝居とは別に、危険な走行や衝突などのアクションを専門に撮る撮影班である。撮影に六週間をかけ、全車を時速35マイル以下に制限したという説もあるが、その二つの数値は当事者資料で確定できない。
本作はモスクワをベルリンで作っただけでなく、イタリアのトリノとして描かれる場面の一部もスペインのマドリードで撮影した。物語ではボーンが国境を越えて移動するが、制作側は各都市で必要な外観と撮影条件を組み合わせ、一つの都市を別の都市として使っている。どの建物がどの場所を演じたかを網羅する制作資料までは確認できないため、マドリードがトリノを兼ねた事実に範囲を限る。