主な参考資料
- Los Angeles Times
- TIME
- Rotten Tomatoes
- The Guardian
ボーン・スプレマシーを配信で見られるサービスを、確認できた範囲で掲載しています。未確認のサービスは公式サイトで探せます。
2004年公開。『ボーン』劇場シリーズの第2作であり、トニー・ギルロイ脚本、撮影オリヴァー・ウッド、編集リチャード・ピアソンとクリストファー・ラウズの体制で作られた。 プロデューサーのフランク・マーシャルは『ブラディ・サンデー』(2002)を見てポール・グリーングラスを起用したと語り、グリーングラス自身も本作を「都会的で、路上に近く、作為の見えない」映画にしたかったと説明している。 モスクワのカーチェイスは、セカンドユニット監督兼スタント・コーディネーターのダン・ブラッドリーが担い、俳優の運転画を撮るため車体を撮影リグに取り付ける「Go-Mobile」など、実車とスタントを中心にした方法を採った。 公開の二週間前には、デイモンとグリーングラスが結末を作り直して再撮影した場面に差し替え、デイモンが後年「大慌てだった」と振り返るほどの土壇場で、公開版の締めを決めた。 The Numbersは製作費8,500万ドル、世界興収3億1,100万1,124ドルとする一方、Box Office Mojoは製作費7,500万ドル、全リリース累計の世界興収2億9,254万2,992ドルを掲げるが、集計の基準は異なっても北米興収は両者とも約1億7,600万ドルで、公開初週末は5,252万1,865ドルだった。 揺れるカメラと急場の再撮影を通した作品だが、最後に最も正確だったのは、続編にはきちんと「もう少し」が必要だと見抜いたスタジオの計算である。
プロデューサーのフランク・マーシャルらがポール・グリーングラスを監督に選んだきっかけは、北アイルランドで起きた事件を再現した『ブラディ・サンデー』(2002)だった。製作側は、アクション映画で知られた監督ではなく、群衆の中へカメラを入れて出来事を追うグリーングラスの演出を続編へ持ち込みたいと考えた。本作は、前作の形式をそのまま拡大するのではなく、シリーズ外から監督を迎えて撮影の感触を変えた。
監督は交代したが、撮影監督オリヴァー・ウッド、第一助監督リュック・エティエンヌ、プロデューサーのパトリック・クロウリーとフランク・マーシャルらは『ボーン・アイデンティティー』(2002)から続投した。グリーングラスが過去に一緒に仕事をしたスタッフで本作へ参加したのは、衣装デザイナーのダイナ・コリンだけだった。新監督が自分のチームへ総入れ替えするのではなく、前作を知る現場へ新しい演出方針を持ち込む体制だった。
脚本家トニー・ギルロイは、アクション場面の詳細を書く前に、プロデューサーのパトリック・クロウリー、フランク・マーシャルとベルリンを訪れ、モスクワには一週間滞在した。市場、タクシー、橋などを実際に見て、追跡や逃走をその場所で成立する動きへ組み立てた。完成した脚本に合う街を後から探したのではなく、街の道幅や移動経路、使いにくさまで物語へ取り込んでいる。
ポール・グリーングラスは撮影開始の一週間前、ブライアン・ヘルゲランドへ脚本の改稿を依頼した。ヘルゲランドがベルリンへ着いた時点で開始まで五日しかなかったが、二人はほぼ四日間起き続け、脚本を最初から最後まで書き直した。製作側は改稿版全体を採用しなかったものの、崩壊から十年以上たってもソ連が存在する旧設定は外され、グリーングラスは撮影中にも改稿の一部を戻していった。ヘルゲランドは完成版で脚本家としてクレジットされていない。
ポール・グリーングラスは本作を、都会の路上で偶然起きた出来事を追っているような映画にしようとした。陰謀の設定自体は大きくても、人物の恐怖や焦りは現実の感情として演じ、カメラは整った構図よりも、その場で反応したような距離へ置いた。手持ち撮影と落ち着いた色調は、単に映像を荒く見せるためではなく、ジェイソン・ボーンが監視と追跡から逃げ続ける切迫感を保つために使われた。
モスクワのトンネルで、負傷したボーンが肩の血を手で確かめる場面を撮った時、マット・デイモンは血の付いた指が画面へ入るように腕の位置を調整した。ポール・グリーングラスはそれを止め、カメラに見せる動きではなく、本人が自然にする動きを優先するよう指示した。手が画面から外れる可能性があっても、俳優を決められた画角へ合わせず、撮影側が演技を追う方針だった。
マット・デイモンは『ブラザーズ・グリム』(2005)をプラハで撮影していた期間、バランドフ・スタジオの地下室を練習場所に変え、毎日ボクシングを続けて本作へ備えた。本作では格闘とスタントの多くを自分で担当し、ベルリンでの撮影中も走り込みを続けている。駅の階段を駆け上がる追跡場面では筋肉を痛めたが、それ以外に大きな負傷は避けた。
ミュンヘンの家でボーンとヤルダが戦う場面では、マット・デイモンとマートン・チョーカシュが格闘を演じた。前作でデイモンが戦った相手はプロのキックボクサーで、接触を避けていたが、チョーカシュとの撮影では初日にデイモンの唇が切れ、二人とも打撲を作ったという。丸めた雑誌を含む身近な物で戦う場面の荒さは、俳優同士が実際に接触する距離で撮られている。
ベルリンで列車へ逃げ込もうとするボーンは、発車時刻を確認して走るが、列車の扉が閉まらないため追跡者から姿を隠せない。そこで橋から船へ飛び降りて追手をまき、別の経路から列車へ戻るが、その着地で脚の靱帯を痛める設定になっている。アクションを成功だけで終わらせず、最も合理的な逃走にも身体的な代償が残るように組み立てた。
モスクワの車両追跡では、俳優の表情と実際の高速走行を同時に撮るため、Go-Mobileと呼ばれる撮影リグが使われた。これは撮影対象の車を別の走行装置へ固定し、専門の運転手が安全を管理しながら、車内の俳優を運転中のように撮影する仕組みである。車外の衝突や滑走を実車で撮り、車内の演技を同じ速度感へつなげた。
セカンドユニット(本隊と並行してアクションや風景を撮る別班)の監督兼スタント・コーディネーターだったダン・ブラッドリーは、一部の撮影でスタントマンにカメラを持たせた。衝突や滑走のすぐ近くでも、危険な動きに慣れたスタントマンならカメラを離さず、通常の撮影者が入りにくい位置から映像を残せるためである。本作の車両追跡には、スタントを演じる側と撮る側を分けずに得たカットが含まれている。
十分に練習したうえで、撮影はわざと追いつけないようにした。ダン・ブラッドリーは動きを十分にリハーサルしたうえで、本番ではカメラが車を完璧に追い続けず、衝突や急旋回へ少し遅れて反応するよう撮影班へ求めた。安全のための動きは事前に固めながら、完成映像では撮影者も予測できなかった出来事のように見せている。
ゴアの狭い路地を走る追跡場面では、画面上で同じ一台に見えるSUVを七台用意した。車両の一部には後部から操作できる装置を取り付け、俳優が運転している演技を続ける間も、専門の運転手が実際の進路を管理した。人や建物に近い道で、俳優の顔を見せる撮影と車の安全な操作を両立するための使い分けだった。
本作は、ボーンがロシアで被害者の娘へ真実を告げる場面で終わる予定だった。公開の二週間前、マット・デイモンが新しい結末を書き、ボーンがニューヨークからパメラ・ランディへ電話する場面を急きょ再撮影した。公開版に残る最後の台詞もこの時に加わり、物語を罪の告白だけで閉じず、ボーンとCIAの関係が続く余地を作った。
本作は2004年7月23日に北米公開され、最初の週末に5,252万1,865ドル、北米累計で1億7,608万7,450ドルを記録した。製作費と世界興収には集計差があり、The Numbersは製作費8,500万ドル、世界興収3億1,100万1,124ドル、Box Office Mojoは製作費7,500万ドル、全リリース累計の世界興収2億9,254万2,992ドルとしている。北米の成績は一致する一方、製作規模と世界集計には単一の確定値を置けない。