主な参考資料
- TIME
- fxguide
- Animation World Network
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2012年公開の本作は、トニー・ギルロイが弟ダン・ギルロイと脚本を手がけ、ジェレミー・レナーを主演に初めて『ボーン』シリーズを監督した劇場映画である。 製作者が2010年に持ちかけた「ジェイソン・ボーン不在で続けるなら」という相談に、ギルロイは当初二週間だけ関わるつもりだったが、新主人公アーロン・クロスを思いついたことで脚本と監督を引き受けることになった。 既存作を研究しつつも、より広い画面と多い美術を目指し、撮影は韓国、ニューヨーク、カナダ、マニラにまたがった。 アクションは台本に場所を当てはめる順序ではなく、ジャカルタ、ホーチミン、マニラを撮影の約一年前から歩いて選び、その場所に合わせて書いたという。 とりわけマニラでは、撮影監督ロバート・エルスウィットと第二班監督ダン・ブラッドリーが、他所で再現すれば大きな費用を要する街の雑然さを実景のまま利用した。 製作費は1億2,500万ドルとされ、北米興収は約1億1,320万ドルで一致する一方、世界興収は集計元により約2億7,610万〜2億8,040万ドルと差があり、アクションの即興性とは対照的に、帳簿だけは最後まで単一の結論を拒んだようである。
トニー・ギルロイは当初、本作へ二週間だけ助言する相談役として参加した。ところが、前三作で描かれたCIAの秘密計画は一つではなく、その周囲に別の計画や工作員が存在するはずだと考え、弟のダン・ギルロイと新しい物語を組み立てた。完成した本作の冒頭約十五分は『ボーン・アルティメイタム』(2007)と同じ時間帯に進み、前作の出来事が別の計画を閉鎖へ追い込む構成になっている。短期の相談から始まった仕事は、トニー・ギルロイが共同脚本と監督を担う新章へ発展した。
ジェレミー・レナーは最初に検討された時点では日程が合わなかったが、『アベンジャーズ』(2012)の撮影予定が整理されたことで本作へ参加できるようになった。トニー・ギルロイとプロデューサーのフランク・マーシャルは、撮影でドイツにいたレナーを訪ね、アーロン・クロス役について直接話し合った。公開資料で確認できるのは、予定の変化を受けて制作側がレナーへ会いに行き、主演が決まった経緯である。
十二週間は撮影全体ではなくニューヨーク周辺の日程だった。制作陣はニューヨーク周辺で十二週間撮影した後、2011年12月にカナダ・ロッキー山脈のカナナスキスで約二週間、アラスカとして描かれる雪山を撮った。さらにフィリピンへ移り、マニラとパラワン島で撮影を続けている。十二週間は撮影全体ではなく、ニューヨーク周辺で行った部分の日程である。
雪山でアーロン・クロスが川へ飛び込む場面では、制作側はジェレミー・レナーの腰から下へ防寒用のウェットスーツを着せる予定だった。レナーは上半身まで覆う部分を外し、氷点下の環境で裸の胸を水へ沈めた。現場には低体温症を扱う専門家三~四人、救急車、暖房した待機場所が用意され、ヘリコプターで温水浴槽まで運び込まれた。何度も繰り返せない撮影だったが、レナーは一回で場面を成立させた。
カナダの雪山では実際の雪景色を撮影したが、撮影日ごとに積雪や降り方が変わるため、完成画面の雪は大幅に補われた。VFX班が当初想定していたデジタル雪は約二十ショットだったが、最終的には約二百ショットへ増え、画面に見える雪の約九五%がデジタル処理を受けたという。雪を一から作ったという意味ではなく、実景を基礎に、降雪量、舞い方、地面の白さを場面間でつなぐ作業である。
アーロン・クロスを追う狼は、すべて同じ方法で撮られていない。制作陣は本物の狼を撮影して体格や動きを調べ、俳優が接触する場面では機械仕掛けの狼を使い、実写だけでは成立しない動きをCGで作った。VFX班の記録では、狼を全面的にCGで作った場面が十五ショット、実写素材へデジタル処理を加えた場面が十二ショットある。一頭の狼を、実物、造形物、CGへ切り替えながら同じ個体に見せている。
小屋の爆発は実物の火球へ無人機とミサイルを足した。制作陣は小屋の下部を実際に爆破して火球と破片を撮り、VFX班が上空の無人機、発射されるミサイル、雪、爆発前後をつなぐ映像を加えた。無人機については実物大の動かない模型を測量し、その形を基に飛行する機体をCGで作っている。実物の爆発が持つ光と煙を残しながら、現場では安全に撮れない攻撃の流れをデジタルで完成させた。
マルタ・シアリング博士の家には、ニューヨーク州にある1815年築のプラム=ブロンソン邸が選ばれていた。ところが撮影の約六週間前、所有者側から、古い建物は機材と大人数の撮影隊の重量に耐えられないと伝えられた。美術班は室内と三階まで続く楕円形の階段をクイーンズのカウフマン・アストリア・スタジオへ再現し、外観は実在の屋敷、周囲の森はスタテン島の別の場所で撮影した。画面では一軒に見える家が、安全上の判断から三つの場所に分けて作られている。
制作陣は東南アジアでの撮影地を決める際、ホーチミン、ジャカルタ、マニラを実際に調べた。そのうえで、現地の映画スタッフや撮影機材を集められること、道路や施設の使用について行政機関と調整できることからマニラを選んだ。本作ではマニラを別の国の都市に見立てず、物語の舞台もマニラにしている。街の看板や交通を消して無国籍の背景へ変えるのではなく、実在の都市の密度を追跡場面へ使う選択だった。
マニラの屋根上追跡でアーロンとマルタが通る細い隙間は、約百フィート、約三十メートルにわたって作られた。二枚の壁の間は二十~二十四インチ、約五十~六十センチしかなく、片側には既存の建物、もう片側には撮影用の壁を使っている。美術班は周辺の古い屋根材や外壁材をセットへ転用する代わりに、新しい資材を住民側へ渡した。安全上交換が必要だった屋根は約五十棟に及び、画面の古い街並みを作る作業が、実際の建物の修繕にもつながった。
追跡場面に使われたナボタスの魚市場は、長さ約千フィート、約三百メートル、幅約二百フィート、約六十メートルの実在する市場で、一晩に十万匹以上の魚を扱っていた。市場の営業が終わるたび、撮影班は床を洗い、蒸気で清掃し、乾かしてから、日よけ、天窓、柱などの美術を入れ替えた。これは画面の見た目を変えるだけでなく、臭いを抑え、俳優やスタッフが濡れた床で滑る危険を減らすための作業でもあった。
終盤のオートバイ追跡では、マニラのマグサイサイ大通り約一・五マイル、約二・四キロと、三つの主要交差点が使われた。撮影は複数の週末にわたり、車九十台とエキストラ三百人を動かしている。交通管理には首都圏開発庁の職員約百二十人、警察官約五十人、大統領警護隊約二十人が協力した。画面の混雑は無秩序に撮ったものではなく、実在の道路で大人数と車両の位置を管理して作られている。
ジェレミー・レナーとレイチェル・ワイズは、マニラのオートバイ追跡に備えて数週間練習し、完成画面に使われた多くの走行を自分たちで行った。ワイズはそれまでオートバイを運転した経験がほとんどなく、レナーと練習を重ねて、後部座席から身体を傾ける動きにも参加した。ただし、最も危険なジャンプや高速走行まで二人だけで行ったわけではない。難度の高い部分は、オートバイ・スタントのジャン=ピエール・ゴイら専門家が担当している。
オートバイ追跡でスタント代役が運転した映像のうち、三十五ショットでは代役の顔をジェレミー・レナーとレイチェル・ワイズの顔へ置き換えた。追跡場面が撮影日程の最後に置かれ、顔だけを撮る専用日を確保できなかったため、VFX班は最終週に四台のカメラを同時に回し、複数方向から二人の表情と頭部を記録した。その素材を代役の動きへ合わせることで、俳優本人の走行と専門家のスタントを同じ場面の中でつないでいる。
VFX会社Level 256は、本作のマニラ場面を中心に百二十六ショットを担当した。主な仕事は、スタントを支えたワイヤーや器具、俳優を追った撮影機材を完成画面から消すことだった。ただし、物を消せば終わるとは限らず、その後ろに隠れていた空、屋根、建物の一部まで新しく作る必要がある。単純な修整に見えるショットでも、静止画や立体的な建物データを重ね、背景を再構築している。
マルタ・シアリング博士を演じたレイチェル・ワイズは、役作りのために実在の女性科学者へ会い、研究室で使う言葉や仕事の考え方を教わった。ワイズが目指したのは、専門用語を意味の分からない音として暗記することではなく、マルタがなぜその処置を行い、何を危険だと理解しているのかを把握して台詞を話すことだった。研究者としての場面を先に準備したことで、後半の逃走でも、ただ事件に巻き込まれた人物ではなく、自分の知識で状況を判断する人物として演じている。
編集を担当したジョン・ギルロイの班は、完成が近づくと作業人数を増やし、複数の編集システムで同じ素材を共有した。VFXが完成していない場面には、Adobe After Effectsで作った仮映像を入れ、物語の速度やアクションのつながりを判断できる状態にして試写へ進めた。試写で大きな構成変更が不要だと確認した後、トニー・ギルロイは3D化を行わず、2Dのまま色と画質を整える仕上げを選んだ。編集、仮VFX、音響、色調整を順番に切り離さず、完成前から重ねて進めた制作である。
本作の製作費は約1億2,500万ドルで、北米では約1億1,320万ドルを記録した。世界興収はデータベースによって集計が異なり、Box Office Mojoでは約2億7,610万ドル、The Numbersでは2億8,035万5,920ドルとなっている。どちらの集計でも世界興収は製作費を上回るが、宣伝費、配給手数料、劇場側の取り分を含まないため、この二つの数字だけで最終的な利益を断定することはできない。