フォックスが自分にコップを渡せた理由
『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の未来の食卓では、マイケル・J・フォックスが父マーティ、息子マーティJr.、娘マーリーンを演じています。一人三役を同じ画面に並べるだけでなく、別役の自分へコップを渡す。その手元をつなぐため、テーブルにはコップを毎回同じ位置に止める小さな仕掛けが用意されました。[1][2]
撮影監督ディーン・カンディが、ILMのポッドキャストで明かした工夫です。動きを正確に繰り返すカメラと、卓上の位置決め。二つを組み合わせることで、別々に撮ったフォックス同士が、同じ場所で食事をしているように見えます。[1][3]
・カメラまで動く一人三役
画面の左右を分け、それぞれに同じ俳優の演技を撮って、あとで一枚の映像へ合わせる。ゼメキス監督は従来の二役の見せ方について、カメラを固定し、ドア枠などの縦線で境界を隠す方法を挙げています。ただ、それでは観客に仕掛けを見抜かれやすいと考えました。[2]
本作で使ったのは、カメラの動きそのものを記録して再現する装置です。ビスタグライドと呼ばれ、現場では開発に携わったビル・トンドローにちなんで、トンドロー・ドリーとも呼ばれていました。ドリーはカメラを移動させる台車のこと。同じ動きを繰り返して別役の演技を撮れば、カメラが動いていても、それぞれの映像を合わせられます。[3]
その準備は『ロジャー・ラビット』(1988)の仕事を経て進みました。カメラの向きだけでなく、位置の移動も再現し、撮影場所へ持ち込める装置が必要だったのです。美術監督リック・カーターによれば、繰り返し撮る間にわずかでも動くとショットを損なうため、セットの床組みも揺れないよう補強しました。[3]
・コップはいったん決まった場所に置く
では、別撮りの二人が同じ物を扱うところは、どうつなぐのでしょうか。
カンディの説明では、フォックスが滑らせたコップを、テーブル上の小さな位置決め具で受け止めました。何度撮っても同じ場所に止まるようにしておき、もう一方の役になったフォックスが、その位置からコップを持ち上げます。[1]
完成した映像では受け渡しが続いて見えますが、撮影では置く演技と、拾う演技を同じ位置でつないでいるのです。カンディは、登場人物同士をどう結び付けるかを考え、そこから具体的な撮影の仕掛けを作っていくのが楽しかった、と振り返っています。[1]
・相手の台詞も自分の声
位置が合っても、会話の間が合わなければ、同じ食卓を囲んでいる感じは出ません。
当時の制作ノートによると、一方の役を撮り終えた俳優は、別の役の衣装へ着替え、耳に小さな受信機を入れました。先に撮った自分の台詞を聞き、それに反応しながら、もう一方の役を演じています。[2]
フォックスの場合、47歳になったマーティの特殊メイクだけで4時間以上かかりました。同じ顔を三つ並べるのではなく、父と息子と娘の姿へ変わり、すでに演じた自分へ返事をする。食卓の三役は、合成装置だけでは完結しない仕事だったのです。[2]
・見せたいのは仕掛けより家族の会話
脚本・製作のボブ・ゲイルは、一人の俳優が自分と共演する場面も、二人の俳優で撮るときのように演出したと説明しています。観客が仕組みを考えるのは映画館からの帰り道でよく、見ている間は物語に入っていてほしい、という狙いでした。[2]
食卓の場面を見返すときは、三人の顔だけでなく、コップを置く手、拾う手、そしてカメラの動きにも目を向けてみてください。何気ない家族のやり取りの中に、別々の撮影をつなぐ接点があります。
・脚注
- abcdILM「008 The Magic of Film with Dean Cundey」。撮影監督の回想。約37〜41分の書き起こしに、動くカメラでの二役合成と、コップの位置を合わせる工夫。
- abcde公式サイト「Back to the Future Part II Production Notes」。1989年10月24日時点の制作ノート。三役、演技の音声同期、メイク時間、ゼメキスとゲイルの説明。
- abcAmerican Cinematographer「BTTF 2 — Back to the Future Becomes a Series」。Marc Daniel Schiller。1989年12月号の記事を2020年3月25日に掲載。カンディ、カーターへの取材による撮影装置とセットの説明。