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リリイ・シュシュのすべて

All About Lily Chou-Chou / 2001
IMDb ⭐ 7.5🕐 146分🎬 ロックウェル・アイズ2001年
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D
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探偵アイコン 探偵による映画背景メモ

2001年公開、岩井俊二が脚本・監督を務め、篠田昇が撮影、小林武史が音楽を担った146分の長編である。企画の核になったのは、岩井が2000年にBBS形式で展開したインタラクティブ小説で、KADOKAWAの書誌によれば初日に約3万件のアクセスを集めた。映画版ではそのネット上の物語をそのまま写すのではなく再構成し、当時14歳で映画初出演の市原隼人や15歳の蒼井優ら若い俳優を中心に据えた。劇中の架空歌手は、小林、岩井、Salyuによる実在の音楽ユニットとして映画と並行して形にされ、フィクションの外へまで活動領域を広げた。伊藤歩が役のため人生初のスキンヘッドにしたという証言も残り、画面の繊細さは、俳優まで繊細に扱った結果とは限らない。日本での正確な単独興行収入は今回確認できず、日本映画製作者連盟の2001年興行収入上位表にも掲載されていないため、推測値は記載しない。

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企画開発
信頼度

岩井俊二は撮影数か月前、普通なら撮れる段階まで進んでいた脚本に納得できず、映画化をいったん止めた。すでに実施した海外ロケハンの費用は自ら支払い、企画を降りる理由を書いた謝罪文も提出している。一方、小林武史は映画のために多数の楽曲を作っており、企画中止後、自宅へ岩井を招いて「いい曲だったのに」と一曲ずつ聴かせた。音楽を発表する場所を残すために始めた一般参加型のネット小説へ読者が思い思いのリリイ像を書き込んだことで、物語に欠けていた他者の視点が生まれ、映画化が再び動き出した。

【ひろゆきvs岩井俊二②】大ヒット作の製作秘話…映画で伝えたい想いとは【ReHacQ高橋弘樹vs西田亮介】の動画サムネイル 監督インタビュー 岩井俊二が語る企画中断とネット連載による再始動 監督本人が、音楽と一般参加型のネット連載から映画化を立て直した経緯を説明する。 ReHacQ−リハック−【公式】 YouTubeで見る ↗
原作・脚本
信頼度

2000年4月に始まったネット連載では、岩井俊二が複数のハンドルネームを使って架空の歌手をめぐる物語を進め、一般読者も同じ掲示板へ参加した。そこで交わされた投稿の一部は脚本の要素となり、映画画面を流れるファン同士の言葉にも使われている。現実の観客が作ったリリイ像が、映画内では登場人物を包む匿名の共同体へ変わった。

企画
信頼度

架空の歌手リリイ・シュシュの発想には、香港の歌手・俳優フェイ・ウォンのコンサートが影響した。映画はリリイ本人の姿をほとんど見せず、歌声、ディスク、掲示板の言葉、観客の熱狂を積み重ねて存在を作る。実在のスターを直接写すのではなく、観客側に残る感覚を架空の歌姫へ移した設計である。

音楽
信頼度

サリュは自分の名前でデビューするより先に、本作の架空歌手リリイ・シュシュとして歌を発表した。最初のシングル「グライド」は映画公開前年の2000年4月に発売され、サリュ名義のデビューは2004年である。映画の中にしかいないはずの歌手が先に現実の音楽市場へ現れ、その声を知った観客が後から物語へ入る順序も成立していた。

撮影技術
信頼度

本作はソニーHDW-F900の試作段階の機体を借り、映画用フィルムと同じ毎秒24コマでデジタル撮影した。しかし35mm撮影に比べて撮像素子が小さく、岩井俊二と撮影監督の篠田昇は、解像度を下げてでも素子を大型化できないかソニーへ求めたという。機材の弱点を抱えたまま撮影した映像が、現在では作品固有の色と粒立ちとして残っている。

撮影技術
信頼度

夜の場面では、小型カメラのフラッシュ、車のヘッドライト、カメラ周囲に置いた光を組み合わせて撮影した。初期デジタル機材で暗闇を写すため複数の方法を試した末の選択で、俳優がまぶしさに目を細めたり手をかざしたりする反応も画面へ残った。暗所性能の不足を均一に消すのではなく、光源が人物へ直接ぶつかる粗い夜景へ変えている。

撮影・演出
信頼度

沖縄旅行の一部は、主要撮影用のHDカメラではなく家庭用の小型ビデオカメラで撮影した。少年たちが互いへカメラを向け、自分たちの旅行をその場で記録している映像として本編へ組み込まれている。機材の違いによる粗さや揺れをそろえず、後に関係が壊れていく彼らの時間にだけ、私的なホームビデオの手触りを与えた。

#05《リリイ・シュシュのすべて》二十年目の再会 公開20周年記念スペシャルトークの動画サムネイル 公式20周年トーク 20周年トークで振り返る沖縄編の撮影 監督と主要キャストが、家庭用カメラを交えた沖縄ロケを振り返る公式映像。 岩井俊二映画祭 Iwai Shunji film festival YouTubeで見る ↗
演技・群衆演出
信頼度

終盤のコンサート会場前では、群衆役一人ひとりに別々の人物設定を書いたカードが用意された。全員へ同じ動きを命じて背景を埋めるのではなく、それぞれが異なる来歴と目的を持ってリリイを待つ集団として撮影したのである。ネットではハンドルネームだけだったファンが現実に集まる場面で、匿名の人数を個人の集合へ戻す演出になった。

脚本改変
信頼度

【ネタバレあり】原作では久野陽子が亡くなり、津田詩織は生き残る筋だった。ところが岩井俊二は、伊藤歩が演じる久野には死へ向かうより強く生きようとする印象があり、蒼井優が演じる津田には何をするか分からない捉え難さがあると感じた。俳優に人物を合わせた結果、映画では二人の行く末そのものが入れ替えられている。

小道具・デザイン
信頼度

津田詩織が持つ携帯電話は、当時15歳だった蒼井優の私物である。本体が見えないほど付いたストラップも本人のもので、友人からもらった物を全部付けているうちに約10個へ増え、通話すると肩が凝るほど重くなっていたという。美術部が時代らしさを作った小道具ではなく、出演者の実生活がそのまま津田を象徴する持ち物になった。

演技・撮影
信頼度

久野陽子の丸坊主は特殊メイクではなく、伊藤歩が実際に髪をそって演じた。彼女は髪はいずれ伸びると考えて引き受け、本番まで姿を伏せたまま教室へ入った。初めて見た共演者たちは次々に泣き出し、いじめる側を演じた俳優まで撮影を嫌がるほど動揺したため、岩井俊二はその泣き顔にもカメラを向けさせている。

演技準備
信頼度

ピアノが得意な久野陽子を演じるため、伊藤歩は撮影前に実際の演奏練習を重ねた。ただし完成したサウンドトラックで「アラベスク第1番」「月の光」「夢」「前奏曲」「亜麻色の髪の乙女」を弾いているのは牧野由依である。伊藤の身体が作る演奏の説得力と、牧野の録音によるドビュッシーの音が重なって音楽室の場面が成立した。

削除場面
信頼度

雄一が津田へリリイ・シュシュについて説明する長台詞は、市原隼人が何度もNGを出し、撮影に丸一日かかった。岩井俊二から、それほど撮り直すのは初めてだと言われるほど苦戦したが、完成版を見た市原は場面そのものがなくなっていることに気づいた。雄一の内面を言葉で説明する長い時間は、編集で丸ごと落とされている。

キャスティング
信頼度

市原隼人は本作が映画初出演にして初主演で、蒼井優も津田詩織役で映画デビューした。撮影当時、周囲の若手が芝居の面白さを語る中で、市原と蒼井の二人はそれがまだ分からず、場の熱気にもついていけないと感じていたという。完成された演技の型を持たない二人が物語の中心に立ち、中学生の言葉の少なさや居場所のなさを自分たちの不慣れさごと演じた。

制作現場
信頼度

『犬神家の一族』などを手がけた市川崑は、『リリイ・シュシュのすべて』の撮影現場を訪れている。岩井俊二は市川作品から編集技法を多く学んだと語り、当時は二人で別の企画も進めていた。世代も撮影方式も異なる二人の共同作業は市川の存命中には実現しなかったが、その交流が試作デジタル機を使う現場への訪問につながった。

影響・受容
信頼度

リリイ・シュシュの「回復する傷」は、2003年の『キル・ビル Vol.1』にも使われている。流れるのは、ザ・ブライドが沖縄で服部半蔵の日本刀が並ぶ部屋へ入り、刀を眺める場面である。中学生の孤独と架空歌手の神秘性を支えた曲が、クエンティン・タランティーノの剣戟映画では、武器を選ぶ前の静かな時間を包む音楽になった。

影響・受容
信頼度

コゴナダ監督は『リリイ・シュシュのすべて』の「グライド」が長く心に残っており、2022年公開の『アフター・ヤン』で曲を生まれ直させたいと考えた。歌唱を依頼したミツキも元の作品の熱心なファンで、英語による新しいカバーを録音している。2000年に架空歌手の最初のシングルとして出た曲が、二十年以上後には家族と機械の記憶をつなぐ未来の歌になった。

映画祭・国際展開
信頼度

2002年の第6回上海国際映画祭で、『リリイ・シュシュのすべて』は審査員特別賞を受賞し、小林武史は最優秀音楽賞を受賞した。脚本が止まった時期にも先に存在し、ネット連載から映画化を再び動かした楽曲群が、完成後には作品本体とは別の部門でも評価された。企画の出発点だった音楽と映画が、同じ映画祭で二つの賞に分かれて選ばれている。

編集
信頼度

掲示板の投稿が画面へ現れる場面では、正しく表示された文字だけでなく、記号のように崩れていく文字化けまで意図的なアニメーションとして作られた。2000年前後のネットでは文字コードの違いで読めない表示が生じることがあり、本作はその不具合を画面の装飾で終わらせない。人の言葉が送られても相手へ届く前に形を失う過程として、文字そのものを動かしている。

#01《リリイ・シュシュのすべて》二十年目の再会 公開20周年記念スペシャルトークの動画サムネイル 公式20周年トーク 20周年トークで振り返る掲示板表現 監督と主要キャストが、作品のネット描写と文字表現を振り返る公式映像。 岩井俊二映画祭 Iwai Shunji film festival YouTubeで見る ↗
企画開発
信頼度

本作は当初、アジアの監督たちが互いの国で映画を撮る企画の一作として、台湾を舞台にする構想があり、仮題は「リ・チェンスのすべて」だった。岩井俊二は漢字を後から当てるつもりで企画を進めていたが、台湾の学校を下見した際、生徒が昼食後に机で眠る習慣を見て、現地の学校生活の細部を知らないまま、いじめを扱う物語を作るのは難しいと判断した。舞台を日本へ戻した後も「リ」の語感を残し、題名は現在の『リリイ・シュシュのすべて』になった。

企画開発
信頼度

岩井俊二は20代半ば、両親を殺した後でテレビのアイドルを狙おうとした少年の事件を知り、身近な家庭環境とテレビの中の存在を一体として捉える感覚が心に残った。その後、『Love Letter』(1995)の撮影を終えた帰りの飛行機で、いじめを苦に自殺した中学生の遺書を読み、前作で描いた甘い中学時代とは反対側にある世界を、次は映画にするかもしれないと考えた。完成版の物語は一つの事件の再現ではなく、異なる時期に知った二つの出来事から始まっている。

取材・脚本
信頼度

岩井俊二は脚本を書く前に、いじめに関する多数の本を読み、被害を経験した人々にも取材した。しかし、そこで聞いた体験はそのままでは映像化できないほど過酷で、本作ではかなり表現を弱めたという。完成版の暴力を現実の証言の直接的な再現にはせず、観客が物語として受け止められる範囲へ調整していた。

舞台設計
信頼度

当時、少年犯罪が都市型の問題として語られることに違和感を持った岩井俊二は、郊外や農村でも同じことが起きていると強調するため、田園地帯を舞台に選んだ。そこで暮らす雄一にとっては、目の前にある地域の日常より、電波を通じて遠くから届く音楽や情報の方が重要になるという像を考えた。緑の田んぼとインターネット上のリリイ・シュシュは、離れた要素ではなく、地方へ外部の世界が入り込む一つの構図として組み合わされている。

原作・脚本
信頼度

ネット連載へ読者が参加することで物語の焦点が合い始めた頃、岩井俊二は、栃木で暮らす少年たちを沖縄へ旅行させたらどうなるかと思いついた。閉じた土地で進んでいた物語へ遠く離れた場所を加えると、短編小説では足りなかった映画的な規模が生まれたという。沖縄編は完成した長編へ後から足した寄り道ではなく、いったん止めた映画化を再び実現できると岩井が確信した突破口だった。

演出
信頼度

沖縄の浜辺でキスに見える動きは人工呼吸だった。岩井俊二によれば、男性が倒れた雄一へ人工呼吸をしようとしているが、うまくできていない動きである。説明の台詞を置かなかったため、短い接触だけを見ると別の行為にも見える場面になっている。

台詞・配役
信頼度

本作には、星野の母親について「お前のお母さん、稲森いずみにそっくりだ」と話す台詞がある。その母親を実際に演じているのも稲森いずみである。岩井俊二自身も、作品へ仕込んだ遊びの一例としてこの台詞を挙げており、登場人物が役を演じている俳優名を劇中で口にする自己言及になっている。

情報不足・要確認
信頼度

伊藤歩は久野の演奏場面に備えてピアノを練習した。さらに「アラベスク第1番」を携帯電話の着信音にするほど曲へ入れ込んだという逸話もあるが、着信音にしたという部分は未確認である。

情報不足・要確認
信頼度

現行版より11分長い157分の初期編集版があり、そのプリントまたは素材は火災で失われたという説が流通している。本編に使われなかった撮影素材は一部現存するが、157分版の構成や焼失を裏づける制作記録は確認されていない。

裏取り強め
有力ソースあり
未確認・噂寄り
情報不足・要確認

主な参考資料

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