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1988年公開。連載中だった自作漫画を大友克洋自身が監督・共同脚本で映画化し、単独企業では賄いきれない規模を支えるため、講談社、東宝、東京ムービー新社などが「アキラ製作委員会」を組んだ作品である。大友は漫画を週20ページ描き、締切明けにはそのままアニメ制作現場へ向かう生活を続けながら、映画の全工程に目を通したという。制作費は長らく11億円と紹介されてきたが、製作委員会側の証言では当初5億円、最終的に約7億円で、宣伝費などを含む総事業費が約10億円だったとされる。その資金は、台詞を先に録音して口の動きを合わせるプレスコ方式、膨大な手描き作画、当時としては珍しいCGの導入に注がれ、従来のリミテッド・アニメーションから大きく踏み出す画面を生んだ。国内興行だけで制作費を悠々回収したとは言いにくかったが、海外公開を通じて日本アニメの市場そのものを押し広げたのだから、委員会が分け合ったのは危険だけではなく、後世の取り分まで含む巨大な賭けだったのである。
『AKIRA』は3年をかけ、公式資料では総制作費10億円と紹介される。派手な爆発だけでなく、標識、機械、群衆まで動かす密度へ注ぎ込まれた。ネオ東京が背景ではなく、ずっと脈打つ生き物に見えるわけだ。
『AKIRA』は講談社、毎日放送、バンダイ、博報堂、東宝などが名を連ねるアキラ製作委員会で作られた。単独スタジオの勝負ではなく、当時として大がかりな共同出資の座組みだった。映画のスケールは、企画の段階からもう巨大だった。
プレスコ収録は、先に録った演技を作画へ渡すプレスコ方式だ。『AKIRA』では岩田光央と佐々木望が絵コンテを頼りに芝居を組み立て、収録は何度かに分かれた。1年以上続いたというから、声だけでも長い旅だ。
金田や鉄雄の口元には、声の間を逃さない2コマ打ちが使われたと紹介される。口の形も細かく使い分け、プレスコで録った芝居を作画へ受け渡した。会話の熱が妙に近い理由は、ここにもありそうだ。
ネオ東京の夜には、ネオン、窓、信号、炎、サーチライトを重ねた人工光の設計がある。暗い画面の中へ都市の情報量を詰め込み、光るものごとに別の役目を与えた。夜を見れば見るほど、街の方が主役に思えてくる。
手描きアニメの代表作として知られる『AKIRA』には、初期のCGI処理も混ざっている。医療機器の表示や落下物の軌道、背景の動きなどを支えるために使われたという。目立たない場所でデジタルの芽が育っている。
映画版の制作中、原作漫画はまだ連載を終えていなかった。大友克洋は完成済みの物語を縮めるのでなく、金田と鉄雄の関係を軸に映画独自の終盤を組んだ。漫画版との違いは、単なる省略ではない。
大友克洋は原作者であるだけでなく、映画版で監督、脚本、キャラクターデザインを担った。自作を映画向けに組み替えるところまで自分で引き受けた、かなり珍しい作者本人の再構築である。原作ファンほど、映画の大胆さに驚く。
『AKIRA』の音楽を手がけた芸能山城組は、最初は依頼を断るつもりだったという。明田川進と大友克洋の働きかけ、そして団員たちの後押しで引き受けることになった。未来都市の音は、偶然ではなく粘り強い口説きから始まった。
代表曲「金田」の底を揺らす低音には、バリ島の巨大竹打楽器ジェゴグが使われている。機械の街を走るバイクの場面で、古い竹の振動がエンジン音とぶつかる。耳から聞くと、未来なのに妙に土っぽい。
冒頭のバイク音は、実在の大型バイク陸王を借りて録ったものだ。明田川進は千駄ヶ谷のスタジオ裏の駐車場で、深夜に走らせた陸王へ屋上からマイクを向けたと振り返っている。夜のネオ東京に、実在する重低音が混じっている。
『AKIRA』の音楽と効果音は、映像ソフトを出し直すたびに計7回作り直されたという。声の芝居は残したまま、音のバランスを更新し続け、2020年の4K版もその延長にある。音まで完成を保留し続けた映画だ。
物語の舞台は2019年のネオ東京で、翌年の東京オリンピックを控えている。現実の東京が2020年大会を準備していた時期に重なり、作中の看板や工事現場が急に現実味を持った。背景を見返したくなる一致だ。
『AKIRA』が東京五輪の中止まで予言した、という話が広まったことがある。作中には五輪をめぐる不穏な看板や落書きがあり、現実の大会延期と重なったからだ。ただし、作品が現実を言い当てたという予言説ではない。
病院の機器まわりをよく見ると、ローマ字で読める日本語のぼやきが紛れているという。細かすぎる描き込みへの不満にも見える文で、2021年に話題になった。誰が書いたかは分かっていないが、見つけると現場の息づかいが出る。
海外版『AKIRA』には、初期のストリームライン版と、2001年のDVD向け新吹替という二つの英語版がある。どの声で初めて観たかによって、海外ファンの金田や鉄雄の記憶は少し違う。版違いまで追うと、もう別の入口が開く。
ハリウッド実写版『AKIRA』は、長い開発期間のあいだに複数の監督案が浮かんでは消えた。ワーナーが2002年から持っていた映画化権は、2025年に講談社へ返還されたと報じられた。実現しなかった企画そのものが、もう一本の長編になっている。
金田がバイクを横滑りさせて止まるアキラ・スライドは、後年のアニメや実写作品でも何度も引用されてきた。形を少し変えても、低い姿勢と火花だけで分かるほど強い。ひとつの停止動作が、映像の共通語になった。
作画にはなかむらたかし、森本晃司、金田伊功、井上俊之、沖浦啓之らが参加している。後に日本アニメを牽引する人材が並ぶ、原画机の顔ぶれだ。スタッフ表を見返すと、どこかで見た名前が次々出てくる。
1988年のビデオ化に合わせ、大友克洋が公開版に手を入れた国際映画祭参加版が作られたという。約200カットを直し、スタッフ・キャスト表記も英語へ置き換えたと伝えられる。版違いを追う人ほど気になる話。
海外で『AKIRA』は劇場公開に加え、VHSやDVDを通じて見つけられた。長編アニメを子ども向けに限らない別の入口として受け止められ、日本アニメの見られ方を変えた一本だ。海外の棚から世界へ伸びた。
『AKIRA』には、製作スタッフ1300人、セル画15万枚、色彩設定327色という数字が残る。15万枚のセル画は、標識や機械、群衆まで動かすネオ東京の密度へ注ぎ込まれた。数字だけでも、作画机の熱気が伝わる。
金田役の岩田光央と鉄雄役の佐々木望は、三次オーディションで初めて顔を合わせた。二人の声を並べて見るマッチング審査を経て、金田と鉄雄の組み合わせが決まった。ライバル同士の距離感は、ここから始まった。
『AKIRA』の音には、ダミーヘッドマイクの周りを歌いながら回るという録音が使われている。明田川進は、歌い手の動きで頭の周りを巡る音を作ったと振り返った。音まで身体で動かしている。
2020年の4K版は、35mmマスターポジフィルムを4Kで読み直して整えられた。山城祥二の指揮で5.1ch音源も半年かけてリミックスされた。古い映画をただ解像度だけ上げたわけではない。
大友克洋が音響監督の明田川進へ渡した音楽の手がかりは、「レクイエム」だったという。そこから芸能山城組へ話がつながり、未来都市の鎮魂歌のような音楽が形になった。SFにありがちな電子音だけへ寄らなかった理由が見える。
芸能山城組が手がけたケチャは、複数の声のパターンで16ビートのリズムを刻む合唱舞踊劇だ。その身体的な反復が『AKIRA』の音にも混ざり、機械の街へ妙な祝祭感を持ち込んだ。耳で聞くネオ東京は、意外に生々しい。
原作漫画のアキラは物語の中で実際に目覚めるが、映画版では保管された組織として扱われ、ほとんど姿を見せない。連載途中で映画を作った結果、同じ名前の別の役割が生まれた。ここは原作と映画の大きな分かれ道だ。
『AKIRA』には、通常の上映だけでなく70mmプリントも用意されたという。セル画15万枚の密度を大きなスクリーンへ出すため、公開時から劇場体験を意識した規模だった。アニメ映画としての構えが大きい。
『AKIRA』の製作費は10億円と語られる一方で、制作に関わった人物が最終予算は約7億円だったと述べた、という異説もある。公称額と証言が食い違うため、数字だけが一人歩きしてきた可能性がある。ネオ東京の規模ほど、金額の話もややこしい。